第110話 同じ人間
ガルの家へ道具を届けると、母親が食事に誘ってくれた。
「ありがとう。でも、家で待ってるから」
ポルフィラが答えるとガルは道具を受け取った。
「ドランさんにも礼を伝えてくれ」
「うん」
いつものやり取りだった。家族の仕事を手伝い、友達と話す。天馬の民も同じように暮らしているはずなのに、自分たちは野蛮な者だと思われている。
私たちの何を知って、そう思うのだろう。
ポルフィラは家へ戻りながら考えた。
*
森の館でクラウスが王の返答を伝えた。
「ロデリクの命令は認められた。不当な罰は他の領主も改めてよいそうだ。だが竜の民の身分は変えない」
ポルフィラはうなずいた。
「罰が減るのは嬉しいです。でも、私たちを人だと思っていない役人なら、また同じことが起きませんか」
「ああ。命令されたから殴らないだけでは、考えは変わらない」
レオノーラが言った。
「私たちの領地でも、竜の民を人間だと思わない者は多いわ。そこを変えなければ」
テオバルトもうなずいた。
「教科書で野蛮な者だと習い、本人たちを知らずに育つ。城に仕える者も同じだ」
「私たちも家族や友達を大切にしています。そういう暮らしを知ってほしいです」
ポルフィラが言うとクラウスは答えた。
「まず家臣と役人に私から話す。竜の民も私たちと同じ人間であり、蔑んでよい相手ではないと」
「領主様に言われたから、うなずくだけの人もいると思います」
「いるだろう。だから話すだけで終わらせない。村人の事情を聞かずに命令していないか、その後の仕事ぶりも確かめる」
*
テオバルトが続けた。
「家臣にも村の暮らしを知ってもらいたい。村人が何を考え、どう家族を支えているかを、自分で聞く機会が必要だ」
ポルフィラは少し考えた。
「村へ来る人が増えたら、怖がる人もいます。仕事を休んで相手をしろと言われるのも困ります」
「先に村の者と相談する。話したくない者は断ってよい。もてなしもさせない」
「断っても罰されないと、分かるようにしてください」
「ああ。それは私たちが責任を持つ」
レオノーラが言った。
「家族や仕事のことなら、私たちにも身近な話だわ。知らないから怖いと思っていた人も、共通するものに気づくかもしれない」
「でも、役に立つから大切にする、という話にはしたくありません」
ポルフィラは顔を上げた。
「働けない人もいます。その人たちも、ひどい扱いを受けていいわけではないです」
「ええ。同じ人間として大切にする。そのことを伝えるわ」
クラウスが二人を見た。
「村を知ってもらうだけでは足りない。子供に教える者にも話す必要がある」
「そうね」
レオノーラが答えた。
「教科書に載っているという理由だけで、一方的な教育をしないで、教師たちにも竜の民の暮らしを知ってもらいたいわ」
「国の歴史の説明と違う、と反発されるだろう」
テオバルトが言うとクラウスはうなずいた。
「それでも、今生きている者を一度も知らずに、野蛮な相手だと教え続けてよいとは思わない」
すぐに信じてもらえるとは限らない。三人とも、それは分かっていた。
ポルフィラは言った。
「私一人を見て、竜の民は皆こうだとも決めないでください。ほかの村には違う暮らしの人もいます」
「分かった。一人の話だけで分かったつもりにはならない」
クラウスが答えた。
*
三家は、まず自領の家臣と役人へ話すことを決めた。村との相談を進め、天馬の民の教育に携わる者にも声をかける。
王への解放の申し出は取り下げない。領内でも、竜の民への見方を変えるために動く。
レオノーラが言った。
「決まりが変わっても、人々が竜の民を嫌ったままなら暮らしはよくならないわ。解放を受け入れる人を増やしていきましょう」
ポルフィラはうなずいた。
クラウスはリュシエンヌから問い合わせが来たことにも触れた。
「会う返事はした。ただ、何をどこまで話すかは決めていない。まず相手の考えを聞く」
「では、今の取り組みは三家で始めるんですね」
「そうだ」
*
帰り道、ポルフィラはオブシディオンへ話した。
〈領主の方々が、天馬の民の考えを変えるために動くって。私たちも同じ人間だと、知ってもらうんだって〉
〈すぐには変わらないだろうな〉
〈うん。でも、父さんたちを何も知らずに嫌わないでほしい。話す前から、言葉の通じない相手だと決めつけないでほしい〉
〈その願いを伝えたのだな〉
〈伝えたよ〉
村への道が見えてきた。
父も母も友達も、労働力として守られるのではなく、一人の人間として大切にされてほしい。
王の答えは変わっていない。争いへの恐れも消えていない。それでも今日は、三家と一緒に始めることが決まった。




