第108話 王の前で
王のそばにはユリウスもいた。
ロデリクはその姿を見て、自分の命令がどのように伝えられたか察した。
ヴァルテルが尋ねた。
「竜の民への罰を取り消したそうだな」
「はい。怪我で荷を運べない者と、その父を庇った息子への罰です」
「役人に逆らったのではないのか?」
「息子は父が歩けないと説明しました。係は怪我を確かめず、二人を罰すると決めていました」
王は少し考えた。
「その係を交代させたのだな」
「はい。ほかにも同じことが起きていないか調べています」
ユリウスが口を開いた。
「竜の民が役人を訴えられるようにしたとも聞いております」
「役人が間違っていても黙っていろと?」
ロデリクが尋ねるとユリウスは王を見た。
「私は王の決まりが守られるか案じているのです」
「怪我人を無理に働かせることが王の決まりなのか」
「ロデリク」
王の声に二人は口を閉じた。
「私の前で争うために呼んだのではない。命令を変えた理由を聞いている」
ロデリクは王へ向き直った。
「これまでは役人の報告だけで判断していました。ですが罰された側の話を聞かなければ、何が起きたか分からないと考えました」
「クラウスと話したことも関係しているのか」
「はい。自分の領地でも同じ扱いをしていないか考えるきっかけになりました。命令を出すと決めたのは私です」
竜のことは言わなかった。
竜を見たから判断したわけではない。怪我人を罰した報告を読み、間違っていると思ったからだ。その理由なら王の前でも話せる。
ヴァルテルは椅子の背へ身を預けた。
「三家と同じように身分を変えよと求めるつもりか」
「身分を変えるよう求めているのではありません。自領で続けてきた扱いを改めます」
「ならば続けてよい。仕事を怠る者まで見逃すな」
「理由を確かめて判断します」
ユリウスが身を乗り出した。
「ほかの領地でも同じことを求める者が出るのではありませんか」
王は彼を見た。
「領主が対応すればよい」
ユリウスは頭を下げた。ロデリクの命令を取り消させることはできなかった。
しかし王は続けた。
「役人の仕打ちは改めてよい。だが、あれらを従わせるのは領主の役目だ。自由にさせるつもりはない」
ロデリクは王を見たまま答えた。
「承知しました」
罰を取り消すことは認められた。だが村人の話を聞いても、その望みを尊重するところまでは認められなかった。
*
退出したロデリクをユリウスが呼び止めた。
「王がお認めになったのだ。私も異存はない」
ロデリクは足を止めた。
「では、私が三家に従って命令を出したという話はやめてくれ」
「心配してお伝えしただけだ」
「私に聞く前にな」
ユリウスの表情が固まった。
ロデリクはそれ以上言わずに歩いた。少し先で待っていた家臣へ告げる。
「城へ知らせろ。改善は続ける」
「かしこまりました」
家臣が離れると、背後から別の声がした。
「取り消さずに済んだのね」
リュシエンヌだった。王都に滞在していた彼女も報告の結果を待っていたらしい。
「王は不当な罰を改めることは認めた」
「それなら私の領地でも確かめられるわね」
ロデリクは彼女を見た。
「おまえも気になっていたのか」
「家族をまとめて罰するのが当然だと言われたときから。うちの役人が何をしているかも、全部知っているわけではないもの」
彼女は声を落とした。
「クラウスと何を話したの。あなたが自分から村人の話を聞くなんて、前にはなかった」
「領主の祖先が何をしていたかを聞いた」
「祖先?」
「領民の争いを収める役目だったそうだ。竜の民を従わせるために領地を任されたのではないと」
リュシエンヌはすぐには答えなかった。
「そんな話は初めて聞いたわ」
「私もだ」
「本当なの?」
「私は信じる理由を得た。だが私の言葉だけで信じろとは言わない。詳しくはクラウスに聞いてくれ」
彼女はうなずいた。
リュシエンヌは、自分の領地でも同じように村人が罰されているかもしれないと思った。役人の判断が正しかったのか、自分でも確かめておきたかった。
リュシエンヌは自分の家臣を呼んだ。
「帰ったら村への罰の報告を集めて。本人だけでなく家族を罰したものも、残さず」




