第107話 王都からの知らせ
ユリウスが王へ伝えたのは、ロデリクの領内で変わり始めた竜の民の扱いだった。
「罰を取り消し、村の係を交代させています。竜の民からの訴えまで領主へ届けるよう命じたそうです」
ヴァルテルは報告を聞き終えてから尋ねた。
「身分を変える命令を出したのか?」
「そこまでは申しません。ですが、三家の要求に近い動きではありませんか」
ユリウスは王の顔を見た。
「会合では賛成しないと言いながら、城へ戻ると同じ扱いを始めた。三家に何を吹き込まれたのか、確かめる必要があると思います」
王は報告を机へ置いた。
ロデリクが城へ戻ってからクラウスを訪ねたことも伝わっていた。その会談で何が話されたかまでは、分かっていない。
「領内での扱いを改めるだけなら、これまでも認めてきた」
ヴァルテルが言うと、ユリウスは頭を下げた。
「もちろんです。ただ、四家が同じ要求を出すようになれば、国全体へ影響が及びます」
「おまえはロデリクの考えを聞いたのか?」
「まだ直接は……」
「なら、推測を事実のように話すな」
ユリウスは口を閉じた。
王は家臣を呼んだ。
「ロデリクを呼べ。新しい命令の理由を、本人から聞く」
ユリウスは再び頭を下げた。
「それがよろしいかと存じます」
自分が責められたことより、ロデリクが王へ説明を求められることの方が重要だった。王に問い詰められれば、三家と同じことを続けるのかも答えなければならない。
ユリウスは退出すると、待っていた家臣へ告げた。
「ロデリクは王都へ呼ばれる。アドリアンを行かせる話は、ひとまず待て」
息子が断った訪問を、なお強いる必要はなくなった。王が直接ロデリクを呼ぶのなら、その結果を見ればよい。
「王の御意向で、呼び出しが決まったと伝えておけ」
*
王都の外の洗濯場へ、城で使う布が運ばれてきた。
運び手の一人が係と話している。
「アズレインの領主が来るそうだ。滞在用の物も揃えておけと」
エナは干した布を取り込みながら、その声を聞いた。
「また領主が集まるのか」
係が尋ねると、男は首を振った。
「今度は一人だ。向こうでは竜の民をむやみに罰するなと命じたらしい。そんなことをすれば、あいつらはつけ上がるぞ」
男は荷を下ろすと、空の籠を持って戻っていった。
年配の女がエナのそばへ来た。
「今の話、聞いたかい」
「聞いた」
「むやみに罰するなって、本当に命じたのかね」
エナは布を重ねた。
「ここが変わったわけじゃないよ」
「そうだけど……」
女は足をさすった。村が壊されたときの傷は、長く立つと今も痛んだ。
「どこかでは、そう言う領主がいるんだね」
エナは女の手元から布を取った。
「これは私が運ぶ。座っていて」
女はうなずいて壁際へ向かった。
エナは束を抱えたまま城の方を見た。
家族を奪ったセヴェランは、今日もあの中で暮らしている。ほかの領主が改善の命令を出しても、夫と娘は帰らない。
それでも隣にいる女や、籠を運んでくれる男が同じ目に遭うのは嫌だった。
エナは足を動かした。
どこかの領地で起きた変化を、城の人間は嫌がっている。今の暮らしの外で、何かが動いているのだと思い始めた。
*
ロデリクへ王の呼び出しが届いた。
用件は、村の担当者への新しい命令について報告することだった。
家臣が文を差し出したまま言った。
「命令を一度引かれますか」
ロデリクは顔を上げた。
「なぜだ」
「王がお認めになるまで待てば、余計な疑いを避けられます」
「王は領内の扱いを改めることは認めている。何の疑いを避けるために、命令を引くのだ?」
家臣は返事ができなかった。
ロデリクは文を折った。
「命令は変えない。王には私が説明する」
自分が見直すと言ったことを、王に呼ばれただけでやめるなら、しない方がましだった。
※
ロデリクが王都へ呼ばれたことは三家にも伝わった。
森の館で知らせを聞くと、ポルフィラはクラウスへ尋ねた。
「命令を取り消すよう、言われるのでしょうか」
「今は報告を求められただけだ。だが、三家と同じ考えなのかは問われるだろう」
「ロデリク様は、取り消すつもりはないんですね」
「ああ。自分で説明すると返事が来ている」
ポルフィラはうなずいた。
約束が命令になり、一つの家が罰を免れた。それを続けるために、今度はロデリクが王へ答えなければならない。
レオノーラが言った。
「私たちも、本人の求めがあれば力を貸すわ。誰か一人が王の前で孤立する形にはしたくない」
ポルフィラは二人を見た。
「私も、できることを考えたいです。話をしてもらったら、そのあとは領主の方々に任せきりにはしたくありません」
クラウスは少し考えて答えた。
「今は王の返答を待とう」
館を出てからポルフィラはオブシディオンを呼んだ。
〈ロデリク様が王都へ呼ばれた。村の扱いを変えた理由を説明するんだって〉
〈命令は戻すのか〉
〈戻さないって〉
オブシディオンは少し黙っていた。
〈彼も、言ったことを続けようとしているのだな〉
〈うん〉
ポルフィラは道を歩きながら顔を上げた。
王が何と答えるかは、まだ分からない。話し合いが続くのか、それ以上の対立になるのかも。
それでも、確かに前へ進んでいる…
ポルフィラには、まだオブシディオンの問いへの答えがなかった。
村の暮らしを変えたいと伝えることはできる。けれど戦いになったとき、進む覚悟があるのかは別に考えなければならない。
ロデリクが王へ向かうと聞いた今も、その迷いは消えていなかった。




