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オブシディオン  作者: 空飛ぶワイン
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105/227

第105話 変わり始めた領地

ロデリクが城へ戻った翌日、村を担当する役人たちが呼ばれた。

ロデリク・アズレインが治める領地は、王都の東に広がっていた。海に面した土地では漁業が盛んで、川沿いには船着き場や荷を保管する倉が並ぶ。魚や各地の物資が集まり、船で運ばれていく土地だった。


領内で暮らす者はおよそ六十万人。そのうち五十万人ほどが竜の民で、約二千五百の村があった。川で荷を運ぶ者も海へ漁に出る者も、その多くが竜の民だった。


「仕事ができなかったというだけで村人を殴るな。家族までまとめて罰することもやめろ」


一人の役人が顔を上げた。

「命令に従わなくても罰しないのですか」


「まず理由を聞け。病気や怪我で働けない者まで罰するな」


「嘘をつく者もおります」


「ならば確かめろ。聞きもせず嘘と決めつけるな」


役人が黙るとロデリクは一枚の報告を取り上げた。


川沿いの村で船の荷を運ぶ男が足を傷めた。歩くのも難しいのに仕事へ出るよう命じられ、家から引きずり出されそうになった。止めに入った息子まで、命令に逆らったとして罰を命じられていた。


「息子は父親が歩けないと説明したのだな」


「はい」


「怪我を確かめたのか」


「そこまでは……。罰を決めたのは村の係です」


「その係は交代させる。二人への罰も取り消せ」

ロデリクは役人たちを見渡した。

「村人が役人の仕打ちを訴えたら私に報告しろ。訴えた者を罰することも許さない」


役人たちは頭を下げた。納得していない者もいたが、領主の前で反対する者はいなかった。


*


川には荷を積んだ船が行き交っていた。船着き場では村人たちが荷を下ろし、倉へ運んでいる。

罰の取り消しを伝えられても男の息子は喜べなかった。

「係に逆らったことは、もう責められないんですか」


「責められない。領主様が罰を取り消した。あの係も交代する」


役人が去ると息子は家を出ようとした。

「船着き場へ行ってくる」


戸口に座っていた父親が声をかけた。

「少し休んでからでもいいだろう」


「仕事まで遅れたら、また何か言われる」


父親はそれ以上止めなかった。


道へ出ると交代を命じられた係の声が聞こえた。

「罰も受けずに済むとなれば、誰も命令を聞かなくなるぞ」


息子はそちらを見ずに川へ向かった。船着き場には次の船が着き、仲間たちが荷を受け取るために集まっていた。

領主の命令が変わっても役人への恐れは消えなかった。明日も罰されずに暮らせると信じられるまでには、まだ時間がかかる。


*


ロデリクが村人の罰を取り消した話は他領にも伝わった。


ユリウスは家臣の報告を聞いて顔をしかめた。

「竜の民が役人を訴えれば、ロデリクが話を聞くのか」


「はい。村人を殴るなとも命じたそうです」


「そんなことをすれば、竜の民は役人を恐れなくなる」

会合で自分に反対したロデリクの顔が浮かんだ。三家の味方ではないと言っていたが、今は三家と同じように竜の民の扱いを変えようとしている。

「王にお伝えしよう」

ユリウスは家臣に命じた。

「ロデリクが三家と何を話していたか調べろ。会合が終わったあとのこともだ」


*


森の館でレオノーラから知らせを聞き、ポルフィラはほっとした。

「罰を取り消してもらえたんですね」


「ええ。村の係も交代するそうよ」


「これで、その家の人たちが安心できるといいんですけど」


「ただ、反対している役人もいるわ。村人を罰しなければ仕事をさせられないと思っているのね」


「領主様の命令があっても、ひどい扱いが続くかもしれないんですね」


「そうならないように確かめる必要があるわ。他の領主からも反対が出るかもしれない」


罰を受けずに済んだ家族がいる。それは嬉しかった。けれど命令を出しただけで暮らしが変わるとは限らない。

「村の人たちがその後どうしているか、分かったら教えてください」


「ええ。ロデリクにも確かめてもらいましょう」


*


その夜、ポルフィラはオブシディオンに知らせを伝えた。

〈ロデリク様が村人への罰を取り消したんだって。怪我をした父親を庇って、息子まで罰されそうになっていた家だよ〉


〈約束を守ったのだな〉


〈うん。でも反対している役人もいる。殴ったり罰したりしないと働かせられないと思っているんだって〉


〈人を力で従わせてきた者は、それをやめようとはしないだろう〉


〈他の領主にも反対されるかもしれないって〉


〈領主や王がおまえたちを止めるために兵を出すこともある〉


ポルフィラは言葉を失った。


〈今すぐそうなるとは言っていない。だが世の中を変えようとすれば、戦いになるかもしれない〉


役人の反対と戦いでは、起こることがあまりにも違う。


オブシディオンは静かに尋ねた。


〈そのとき、おまえはどうする〉

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