第102話 始まりを問う者
ロデリクがヴェルディアの城を訪ねてきた。
家臣が下がると、彼はクラウスへ尋ねた。
「なぜ今になって、三家で王に申し出たのだ。王領の村のことは前から知っていたはずだろう」
「ああ。だが最近、国の始まりについて知らなかったことを聞いた。それで自分の務めを考え直した」
クラウスは国の興りを話した。
ロデリクは黙って聞き、話が終わってから尋ねた。
「アズレインも、その一族から分かれたのか」
「そう聞いている」
「そんな話は、うちには伝わっていない」
「私たちも知らなかった。祖先が領地を任されたのは、領民の話を聞いて争いを収めるためだったそうだ」
ロデリクはクラウスを見た。
領地は領主の座とともに引き継いだものだった。誰をどこへ置き、何をさせるかを決めるのも当然の権利だと思っていた。
「その話を聞いて、竜の民の扱いを改めるのも領主の務めだと考えたのか」
「そうだ。これまでは王が認める範囲で改善してきた。だが、国の決まりが人を苦しめているなら、その決まりを変えるよう求めるべきだと思った」
ロデリクは窓へ顔を向けた。自分の領内にも竜の民の村がある。そこで暮らす人々を、国の始まりと結びつけて考えたことはなかった。
「その話は誰から聞いた」
「今ここでは名を明かせない。相手にも確かめる必要がある」
ロデリクは顔を戻した。
「名も聞けない相手の話を信じろと言うのか」
「無理に信じてもらうつもりはない。三家が動いた理由を聞かれたから答えた」
「分かった。だが、誰が何を知っていて語ったのかは確かめたい」
クラウスはうなずいた。
「どこまで話せるか相談して返事をする」
ロデリクは少し考えてから言った。
「今日聞いたことは、今は王へ伝えない。先に話の出所を確かめる」
「ああ」
「まだ三家に賛成したわけではないぞ」
「分かっている。確かめてから判断してくれ」
ロデリクは席を立った。
ユリウスに言われて王へ賛成するつもりはなかった。だが三家の言うことも、ただ受け入れるわけにはいかない。知らなかった過去を、まず自分で確かめたかった。
*
知らせを受けたポルフィラは森の館へ向かった。
クラウスとレオノーラが待っていた。ロデリクとのやり取りを聞くと、ポルフィラはうなずいた。
「話をした相手に会って、確かめたいんですね」
「ああ。竜のことはまだ伝えていない」
クラウスが答えた。
レオノーラがポルフィラへ尋ねた。
「どう伝えたらよいと思う?」
ポルフィラは少し考えた。
オブシディオンを見れば、竜がいることは分かる。けれど国の始まりの話より、竜の脅威を気にするかもしれない。
「先に、私がロデリク様と会いたいです」
「何を話すつもりだ」
「私が国の始まりを直接聞いたことと、村の暮らしを変えたいと思っていることです。オブシディオンと会う前に、私の話を聞いてほしいんです」
クラウスはうなずいた。
「この館で会えるようにしよう。私の領内で暮らす者の話を聞く場として招く」
レオノーラが続けた。
「あなたの家族についても尋ねるかもしれないわ」
「村で育ったことは話します。生みの家族や一族のことは話しません」
「それでいいわ。竜の存在を伝えることと、あなたの出自を明かすことは別だから」
ポルフィラは二人を見た。
「ロデリク様が竜に会いたいと言ったら、オブシディオンにも確かめます」
「ええ。こちらだけで対面を約束しないようにしましょう」
レオノーラが答えた。
誰から聞いたのか疑うのは当然だと、ポルフィラは思った。自分も相手を確かめ、話を聞いて少しずつ信じられるようになったのだから。
ロデリクにも、自分で確かめて考えて欲しかった。
*
村へ帰る道で、ポルフィラはオブシディオンへ呼びかけた。
〈ロデリクという領主が、国の始まりを誰が話したのか知りたがっているの〉
〈私のことを教えるのか〉
〈先に私が会って話す。そのとき、あなたから聞いたと伝えてもいい?〉
〈よい〉
〈会いたいと言われたら、会ってもらえる?〉
〈話を聞きたいのであれば、会おう〉
ポルフィラは息を吐いた。
〈ありがとう。相手にも、会ってから自分で考えてほしいと伝えるね〉
〈ああ〉
道の先に村の屋根が見えてきた。畑から帰る人々の声がする。
ポルフィラはロデリクへ何を話すか考えた。
昔の歴史だけではなく、今の村で生きる自分の言葉を伝えよう。家族や友達を思って抱いてきた願いを、領主にも聞いてほしかった。




