第九話 第二の星核
神殿の中を蒼い光が満たしていた。
守護獣は静かに頭を垂れている。
先ほどまで暴走していたとは思えないほど穏やかな瞳だった。
その胸元から浮かび上がった蒼い結晶。
第二の星核。
リアンは息を呑んだ。
「これが……」
第一の星核よりも大きい。
まるで小さな星そのものが形になったような美しさだった。
守護獣がゆっくり近づいてくる。
アルトは警戒したが、リアンは首を振った。
「大丈夫」
不思議と分かった。
もう敵意はない。
守護獣はリアンの前で膝をつく。
そして低く鳴いた。
「ありがとう、って言ってる」
エリシアが目を丸くする。
「分かるの?」
「何となく」
リアン自身も驚いていた。
以前なら聞こえなかったはずだ。
第一の星核の力。
あるいは継承者としての能力なのかもしれない。
守護獣は大きな頭をリアンへ向ける。
その瞳には感謝の色があった。
「苦しかったんだね」
リアンがそっと触れる。
守護獣は目を閉じた。
その瞬間。
第二の星核が強く輝く。
蒼い光がリアンを包み込んだ。
「!」
視界が白く染まる。
再びあの感覚だった。
身体が宙へ浮く。
星々の世界。
無数の銀河。
そして。
巨大な玉座が見えた。
そこには一人の男が座っていた。
白銀の髪。
蒼い瞳。
神々しい姿。
『よく来た』
静かな声が響く。
リアンは思わず尋ねた。
「あなたは?」
『星王アストラル』
その名前を聞いた瞬間。
身体が震えた。
世界を救った伝説の王。
星核を作り出した存在。
その本人だった。
『これは過去の記憶に過ぎぬ』
『だが、一つだけ伝えておこう』
星王は立ち上がった。
『七つの星核を集めるだけでは世界は救えない』
リアンは目を見開く。
「どういうこと?」
『その答えは旅の果てにある』
星王の表情にわずかな悲しみが浮かぶ。
『気を付けろ』
『真の敵は闇ではない』
「え?」
『人の願いだ』
その言葉を最後に世界が崩れ始める。
リアンは必死に叫んだ。
「待って!」
だが声は届かなかった。
気付くと神殿に戻っていた。
「リアン!」
アルトが駆け寄る。
「大丈夫か?」
「う、うん」
少し頭が混乱していた。
今見たものは何だったのか。
だが考える暇はなかった。
第二の星核がゆっくり降りてくる。
そしてリアンの胸元へ吸い込まれた。
眩い光。
新たな力が流れ込む。
左手の紋章が変化した。
一つだった星の紋様が二つに増えている。
「成功したのね」
エリシアが微笑む。
リアンも頷いた。
ついに二つ目だ。
しかしその時。
神殿全体が激しく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴ……
天井から石が落ち始める。
「まずい!」
アルトが叫ぶ。
「崩れるぞ!」
レオスの魔法によって神殿そのものが限界を迎えていた。
三人は出口へ走り出した。
守護獣も後に続く。
巨大な柱が倒れる。
床が割れる。
間一髪で神殿を飛び出した次の瞬間。
轟音と共に神殿は完全に崩壊した。
土煙が舞い上がる。
しばらく誰も口を開けなかった。
「生きてる?」
エリシアが言う。
「一応」
アルトが答える。
「よかった」
三人は顔を見合わせた。
そして同時に笑い出した。
命懸けだった。
危険だった。
それでも。
乗り越えた達成感があった。
夕暮れの森を風が吹き抜ける。
守護獣は空を見上げていた。
まるで長い苦しみから解放されたようだった。
やがてリアンへ視線を向ける。
静かに頭を下げると、森の奥へ消えていった。
「行っちゃったね」
「自由になったんだろ」
アルトが言う。
リアンもそう思った。
そしてエリシアが杖を回しながら言った。
「さて」
「次はどこへ行くの?」
リアンは星導板を取り出した。
二つの星核が揃ったことで、地図の光が変化している。
新たな場所が浮かび上がった。
王国の遥か西。
国境近く。
「古代都市ルグラン……?」
ノアという学者が滞在していることで有名な遺跡都市だった。
同時に、失われた文明の研究拠点でもある。
「次の星核はそこにあるのか」
アルトが呟く。
その時、リアンの脳裏にレオスの言葉が蘇った。
闇帝国。
皇帝ゼルファード。
そして星王アストラルの警告。
真の敵は闇ではない。
人の願いだ。
その意味はまだ分からない。
だが一つだけ確かなことがあった。
旅はまだ始まったばかりだ。
そして遠く離れたネメシス帝国では。
皇帝ゼルファードが静かに報告を聞いていた。
「第二の星核も奪われました」
部下が頭を下げる。
しかし皇帝は怒らなかった。
むしろ微笑んでいた。
「予定通りだ」
その言葉に部下が顔を上げる。
「陛下?」
ゼルファードは窓の外を見た。
夜空の星々が輝いている。
「もっと成長してもらわねば困る」
黄金の瞳が怪しく輝く。
「継承者にはな」
第九話了




