第十話 失われた古代都市
精霊の森を後にしたリアンたちは、西へ向かう街道を進んでいた。
二つの星核を手に入れてから三日。
旅にも少し慣れてきた頃だった。
「あと半日くらいかな」
地図を見ながらリアンが言う。
視線の先には巨大な城壁が見えていた。
古代都市ルグラン。
かつて王国最大の学術都市と呼ばれた場所だ。
古代文明の研究が盛んだったが、大災厄によって滅び、現在は遺跡と研究都市が共存する特殊な街となっている。
「思ったより大きいな」
アルトが感心したように呟く。
「王都より大きいかも」
エリシアは目を輝かせていた。
街へ近づくにつれ、人通りも増えていく。
学者。
冒険者。
商人。
様々な人々が行き交っていた。
門をくぐった瞬間、リアンは思わず息を呑んだ。
「すごい……」
巨大な石塔。
空へ伸びる橋。
古代文字で埋め尽くされた建造物。
村育ちのリアンには別世界だった。
「迷子になるなよ」
アルトが言う。
「子供じゃないよ」
「五分で迷うと思う」
「ひどい」
エリシアが吹き出した。
その時だった。
後ろから慌てた声が聞こえた。
「どいてください!」
大量の本を抱えた青年が走ってくる。
「え?」
リアンが振り返る。
次の瞬間。
ドサァァァ!!
本の山が崩れた。
青年も転んだ。
そしてリアンも巻き込まれて尻もちをつく。
「いたた……」
「す、すみません!」
青年は慌てて立ち上がった。
二十歳前後だろうか。
黒髪。
眼鏡。
細身の体格。
いかにも学者という雰囲気だった。
「怪我はありませんか!?」
「大丈夫です」
リアンが笑う。
青年は安心したように胸を撫で下ろした。
「本当に申し訳ありません」
散らばった本を拾い集める。
その時。
青年の手が止まった。
「ん?」
彼の視線がリアンの左手へ向く。
二つになった星の紋章。
青年の顔色が変わった。
「まさか……」
「?」
「その印……」
青年は震える声で言った。
「星王継承者の紋章ですか?」
リアンたちは驚いた。
知っている人間に初めて会ったからだ。
「知ってるんですか?」
「もちろんです!」
青年は興奮気味に答えた。
「古代文献にしか残っていない伝説ですよ!」
アルトが苦笑する。
「話が早そうだな」
青年は姿勢を正した。
「失礼しました」
深々と頭を下げる。
「私はノア・エルフィード」
「古代文明研究所所属の学者です」
一時間後。
リアンたちはノアの研究室を訪れていた。
本。
本。
そして本。
部屋中が書物で埋まっている。
エリシアなど椅子を探すのに苦労していた。
「これが星核です」
リアンが星導板を見せる。
ノアの目が輝いた。
「実物……!」
顔が近い。
かなり近い。
「近い近い近い!」
アルトが引き離した。
ノアは慌てて咳払いする。
「失礼しました」
しかし興奮は隠せていない。
彼は大量の資料を広げた。
「実は私も調査していたんです」
「何を?」
「第三の星核についてです」
三人が身を乗り出した。
ノアは地図を広げる。
そしてある場所を指差した。
「ここです」
示された場所を見てリアンは驚いた。
「地下?」
「正確には古代都市の地下深部」
ノアが頷く。
「ルグランは遺跡の上に作られた都市です」
「そのさらに地下に古代神殿があります」
リアンの星導板が光った。
地図の位置と一致している。
間違いない。
第三の星核だ。
「すぐ行こう」
アルトが立ち上がる。
だがノアは首を振った。
「簡単には行けません」
「どうして?」
「昨日から調査隊が消息不明なんです」
研究室の空気が重くなる。
「何人も?」
「はい」
ノアは真剣な表情になった。
「しかも生還者の証言があります」
聞き覚えのある話だった。
リアンは嫌な予感がした。
「何を見たんですか?」
ノアは静かに答える。
「黒い鎧の男です」
アルトの顔が険しくなる。
「ヴァルドか」
「ご存じなんですか?」
「ああ」
リアンは頷いた。
「闇帝国の将軍」
ノアの顔から血の気が引く。
「やはり……」
帝国も第三の星核を狙っている。
それは間違いなかった。
窓の外を見る。
夕陽が街を赤く染めている。
しかしリアンは妙な違和感を覚えた。
誰かに見られている気がする。
視線を感じる。
振り返る。
すると遠くの時計塔の上に人影が立っていた。
黒い外套。
風に翻る長い髪。
その人物は静かにこちらを見ていた。
しかし次の瞬間。
影は消えた。
「今の……」
「どうした?」
アルトが尋ねる。
リアンは首を横に振った。
「ううん」
だが胸騒ぎは消えない。
一方その頃。
時計塔のさらに上。
黒衣の男レオスは薄く笑っていた。
「見つけましたよ、継承者」
その背後には紫色の魔法陣。
そして。
闇帝国四将軍ヴァルドが立っていた。
「第三の星核は目前です」
レオスが告げる。
ヴァルドは無言だった。
しばらく街を見下ろしてから静かに言う。
「手出しはするな」
「え?」
レオスが驚く。
「だが将軍」
「これは皇帝陛下の命令だ」
ヴァルドの視線はリアンへ向いていた。
「継承者を地下神殿まで行かせろ」
その表情からは何も読み取れない。
しかし確かなことが一つだけあった。
闇帝国もまた、何か別の目的のために動いているのだった。
第十話了




