第十一話 地下神殿への道
翌朝。
リアンたちはノアの案内でルグラン地下遺跡へ向かっていた。
空は快晴だったが、地下へ続く階段の前に立つと空気が変わる。
冷たい。
まるで大地そのものが眠っているような静けさだった。
「ここから先は未調査区域です」
ノアが灯石のランタンを掲げる。
「本当に行くんですか?」
「ここまで来たんだから」
リアンが笑う。
「行くしかないよ」
アルトが剣を肩に担いだ。
「俺は最初からそのつもりだ」
エリシアも杖を回す。
「帰れって言われても帰らないわよ」
ノアは小さく苦笑した。
「ですよね」
四人は地下へ降り始めた。
階段は異常なほど長かった。
百段。
二百段。
三百段。
やがて石造りの巨大空間へ出る。
「すごい……」
リアンが息を呑む。
地下とは思えない。
天井には無数の発光結晶。
その光が街一つ分はありそうな遺跡を照らしていた。
崩れた神殿。
朽ちた塔。
古代の彫像。
「これ全部、地下に埋まってたの?」
エリシアが驚く。
ノアは興奮した様子で頷いた。
「古代都市アルテシアです」
「星王時代よりも前の文明だと言われています」
「研究者から見れば夢のような場所ですよ!」
最後だけ声が大きかった。
アルトがぼそりと言う。
「危険な場所ほど興奮するんだな」
「学者ですから!」
ノアが胸を張る。
リアンたちは顔を見合わせて少し笑った。
しかし。
遺跡の奥へ進むにつれ様子がおかしくなった。
地面に剣が落ちている。
壊れた荷車。
散乱した調査道具。
「調査隊の物ね」
エリシアが呟く。
ノアの表情も曇った。
「やはりここで何かあったんだ……」
その時。
リアンの紋章が光った。
第二の星核が反応している。
「近い」
「第三の星核か?」
アルトが尋ねる。
リアンは頷いた。
「たぶん」
だが同時に別の気配も感じる。
嫌な気配。
冷たい闇。
ヴァルドと似た魔力だった。
しばらく進むと巨大な広場へ出た。
中央には高さ十メートルを超える石像。
剣を掲げた英雄の姿だった。
だが石像の足元には。
人影が倒れていた。
「誰かいる!」
リアンが駆け寄る。
まだ息があった。
調査隊の一人らしい。
「しっかりしてください!」
青年は薄く目を開く。
「に、逃げろ……」
「何があったんですか?」
青年の顔が恐怖に歪む。
「門が……開いた」
「門?」
「黒い門だ……」
その瞬間だった。
広場全体が震えた。
ゴォォォォォ……。
低い唸り声のような音。
地面が割れる。
「下がって!」
アルトが叫ぶ。
次の瞬間。
広場の中央に巨大な裂け目が生まれた。
その奥から。
黒い扉が現れる。
高さ二十メートルはあるだろうか。
禍々しい紋様が刻まれている。
「何よ……あれ」
エリシアの声が震えた。
ノアの顔色が真っ青になる。
「文献で見たことがあります」
「まさか……」
「終焉の門……」
リアンたちが息を呑んだ。
その言葉は初めて聞く。
だが門から溢れる魔力だけで危険だと分かる。
そして。
重い音を立てて門が開き始めた。
ギギギギギ……。
闇の中から無数の赤い瞳が覗く。
次の瞬間。
魔物の群れが雪崩のように飛び出してきた。
「来るぞ!」
アルトが前へ出る。
エリシアは精霊術を展開。
ノアも防御魔法陣を描く。
リアンは紋章へ手を当てた。
敵の数は数十ではない。
数百に見える。
地下都市全体が戦場になろうとしていた。
その頃。
遺跡のさらに奥深く。
誰も知らない神殿の最深部。
蒼く輝く巨大な結晶が眠っていた。
第三の星核。
その前に立つ一人の人物。
長い黒髪。
黄金の瞳。
皇帝ゼルファードその人だった。
「始まったか」
静かな声。
彼はゆっくりと第三の星核へ手を伸ばす。
「継承者よ」
誰もいない神殿で呟く。
「お前はまだ気付いていない」
黄金の瞳が悲しそうに細められる。
「世界を救う方法が、一つではないことにな」
闇が揺れる。
そして第三の星核の表面に亀裂が走り始めた。
第十一話了




