第七話 精霊の森の少女
エルムの街を出発して五日後。
リアンとアルトは王国東部に広がる精霊の森へ到着していた。
その森は不思議な場所だった。
木々は淡く発光し、風が吹くたび無数の光粒が舞い上がる。
まるで森全体が生きているようだった。
「綺麗……」
リアンが思わず見上げる。
枝葉の隙間から差し込む光が幻想的な景色を作り出していた。
しかしアルトは剣の柄から手を離さない。
「綺麗な場所ほど危険だったりする」
「夢のないこと言うなぁ」
「旅を始めて一週間で将軍に襲われた奴が言う台詞か」
「反論できない」
二人は慎重に森を進んだ。
すると突然。
森の奥から爆発音が響いた。
ドォンッ!
「!?」
アルトが剣を抜く。
二人は音の方向へ駆け出した。
やがて開けた空間へ飛び出す。
そこでは十数体もの魔物に囲まれた少女が戦っていた。
「そこっ!」
少女が杖を振る。
緑色の光が走った。
地面から巨大な蔦が伸び、魔物たちを拘束する。
しかし数が多い。
次々と現れる魔物に押され始めていた。
「まずい!」
リアンが駆け出す。
「星彩槍!」
蒼い光が放たれる。
数体の魔物が吹き飛んだ。
アルトも飛び込む。
鋭い剣撃が魔物を斬り裂く。
「大丈夫!?」
リアンが叫ぶ。
少女は驚いた顔で振り返った。
「誰!?」
「通りすがり!」
「雑な説明ね!?」
言いながらも少女は笑った。
そして杖を突き出す。
「なら一緒にやって!」
「もちろん!」
三人は背中を預け合う。
連携は初めてとは思えないほど噛み合っていた。
十分後。
最後の魔物が倒された。
静寂が戻る。
少女は大きく息を吐いた。
「助かったわ」
近くで見るとリアンたちと同年代だった。
金色の髪。
翡翠のような瞳。
森を思わせる緑色の衣装。
どこか活発そうな雰囲気だ。
「私はエリシア」
少女は胸を張った。
「精霊術師よ」
「リアンです」
「アルトだ」
エリシアはリアンを見る。
その瞬間。
表情が変わった。
「あなた……」
「?」
「星の力を持ってるのね」
リアンが目を丸くする。
「分かるの?」
「精霊が騒いでるもの」
エリシアは苦笑した。
「百年ぶりの継承者だって」
リアンとアルトは顔を見合わせた。
またその言葉だ。
継承者。
どうやら精霊たちの間でも知られているらしい。
「実は第二の星核を探してるんです」
リアンが説明すると、エリシアは驚かなかった。
むしろ納得したように頷く。
「やっぱり」
「知ってるの?」
「この森に隠されているわ」
エリシアの答えに二人は息を呑んだ。
「本当?」
「でも問題がある」
エリシアの表情が曇る。
「最近、森の精霊たちが苦しんでるの」
「苦しんでる?」
「何者かが森の奥で闇の魔力を広げている」
リアンはヴァルドを思い出した。
まさか。
「闇帝国?」
「分からない」
エリシアは首を振る。
「だけど、そのせいで星核の封印も不安定になってる」
風が吹く。
森の奥から冷たい気配が流れてきた。
リアンは左手を押さえる。
星の紋章が反応していた。
確かに何かいる。
強い闇の力が。
「案内するわ」
エリシアが言った。
「私も放っておけない」
アルトが腕を組む。
「信用していいのか?」
「ひどい!」
エリシアが頬を膨らませる。
「命を助けてもらったばかりなのに!」
「念のためだ」
「真面目ねぇ」
リアンは思わず笑った。
久しぶりに少し肩の力が抜ける。
エリシアもつられて笑った。
「決まりね」
杖を肩へ担ぐ。
「第二の星核を探しに行きましょう」
三人は森の奥へ向かって歩き出した。
だが彼らはまだ知らない。
森の最深部。
朽ちた神殿の中で。
一人の黒衣の男が待ち構えていることを。
紫色の魔法陣がゆっくり回転する。
男の足元には倒れた精霊たち。
そして神殿の中央には。
蒼く輝く巨大な結晶。
第二の星核。
男は不気味な笑みを浮かべた。
「ようやく来るか」
その瞳は闇に染まっていた。
第七話了




