第五話 闇より来たる者
光が消えた時。
リアンとアルトは再び星竜の森の湖畔へ戻っていた。
空は夕暮れに染まり始めている。
「リアン!」
真っ先に駆け寄ってきたのはアルトだった。
無事な姿を確認して安堵したように息を吐く。
「大丈夫か?」
「うん」
リアンは微笑んだ。
だが以前とは何かが違っていた。
身体の奥に流れる力。
夜空の星々が、以前より鮮明に感じられる。
アストリアに認められたことで、星核との繋がりが強くなったのだろう。
湖面が揺れた。
巨大な星竜アストリアが静かに見下ろしている。
『リアン・セレスティア』
「はい」
『これを持て』
湖の中央から光が浮かび上がる。
一枚の蒼い結晶板だった。
手のひらほどの大きさ。
表面には古代文字が刻まれている。
「これは?」
『星導板』
『残る星核の位置を示す鍵だ』
リアンは慎重に受け取った。
すると板の表面に光の線が現れる。
王国の地図だった。
その一点が淡く輝いている。
「ここは……」
『精霊の森』
アルトが眉をひそめた。
「王国東部の禁域か」
『第二の星核が眠っている』
アストリアの黄金の瞳が二人を見据える。
『だが急げ』
『闇帝国も既に動いている』
その言葉にリアンは緊張した。
「闇帝国……」
アストリアが語った世界の敵。
まだ姿も知らない相手。
だが嫌な予感だけは強くなっていた。
『この先、お前たちは多くの選択を迫られる』
『力だけでは乗り越えられぬ』
『己の信じる道を見失うな』
風が吹く。
次の瞬間、アストリアの巨体は光となって湖へ溶けていった。
再び静寂が訪れる。
アルトが肩を叩いた。
「行こう」
「うん」
二人は森を後にした。
翌日。
街道を東へ進む二人。
昼過ぎには王国有数の交易都市エルムへ到着した。
久しぶりの大きな街だった。
露店が並び、人々の声が飛び交う。
「賑やかだね」
「必要な物を買っておこう」
アルトの提案に頷く。
旅は始まったばかりだ。
食料も装備も不足している。
二人は市場を歩き回った。
ところが。
街の様子が少しおかしい。
兵士たちが頻繁に巡回している。
住民たちの表情も暗い。
リアンは店主へ尋ねた。
「何かあったんですか?」
初老の店主が顔を曇らせる。
「あんたら旅人かい」
「はい」
「最近、行方不明が増えててな」
「行方不明?」
「ああ」
店主は声を潜めた。
「森へ入った者が帰ってこない」
「魔物ですか?」
「分からん」
店主は首を振った。
「生き残った奴は皆同じことを言うんだ」
「何を?」
店主の顔から血の気が引く。
「黒い鎧の男を見た、と」
その日の夜。
二人は宿へ泊まることにした。
食堂では旅人たちが酒を飲みながら情報交換している。
リアンたちも席に着いた。
その時。
入口の扉が開いた。
部屋の空気が変わる。
黒い外套を纏った男が現れたのだ。
年齢は三十代前後。
長身。
鋭い目。
その姿に見覚えはない。
なのに背筋が寒くなった。
男の視線が真っ直ぐリアンへ向く。
「見つけた」
小さな呟き。
だが確かに聞こえた。
次の瞬間。
男の身体から黒い霧が噴き出した。
宿中が騒然となる。
「なっ!?」
アルトが立ち上がる。
男はゆっくり剣を抜いた。
漆黒の大剣。
禍々しい魔力が溢れている。
「リアン・セレスティア」
男が名を呼んだ。
「蒼き星の継承者」
宿の人々がざわつく。
リアンは表情を固くした。
「あなたは誰?」
男は口元を歪めた。
「闇帝国ネメシス」
その名だけで周囲が静まり返る。
男は剣を肩へ担いだ。
「帝国四将軍」
一歩。
また一歩。
近づいてくる。
「ヴァルドだ」
圧倒的な威圧感だった。
アルトがリアンの前へ出る。
「下がれ」
「でも」
「いいから」
ヴァルドは冷笑する。
「剣士か」
「十分だ」
アルトは剣を構えた。
「リアンには指一本触れさせない」
ヴァルドが笑う。
その笑みには余裕しかなかった。
「面白い」
黒い魔力が噴き上がる。
宿の窓ガラスが一斉に割れた。
人々の悲鳴が響く。
リアンの左手の紋章も激しく光る。
敵だ。
本能が叫んでいた。
これまでとは比較にならない強敵。
闇帝国がついに動き出したのだ。
ヴァルドは大剣をゆっくり構えた。
「さあ見せろ」
赤い瞳が輝く。
「星竜に認められた力を」
そして。
闇帝国四将軍ヴァルドと、リアンたちとの最初の戦いが始まった。
第五話了




