第六話 王都の生存者
レインの案内で、リアンたちは生存者たちの避難拠点へ向かっていた。
かつて街だった場所。
今は廃墟だった。
崩れた建物。
焼けた大地。
折れた塔。
空には不気味な赤い雲が流れている。
歩くほどに、この世界の傷の深さが伝わってきた。
「ひどい……」
エリシアが小さく呟く。
精霊たちでさえ沈黙していた。
元気だった自然の力がほとんど感じられない。
「ネヴァルが現れて十年になります」
レインが前を向いたまま言う。
「最初は誰も信じませんでした」
「世界を食べる怪物なんて」
苦い笑み。
「でも気付けば国は滅び」
「都市は消え」
「空まで変わりました」
リアンたちは黙って聞いていた。
やがて巨大な洞窟へ到着する。
岩山をくり抜いて作られた地下都市だった。
「ここです」
中へ入った瞬間。
リアンは息を呑んだ。
人。
人。
人。
数千人はいる。
怪我をした人。
痩せた子供。
疲れ切った老人。
それでも互いを支え合って生きている。
セレスの姿を見つけた瞬間。
人々の表情が変わった。
「セレス様!」
歓声。
泣き出す者もいる。
子供たちが駆け寄る。
「帰ってきた!」
「本当に帰ってきた!」
セレスは一人一人を見ていた。
だが笑顔の裏で、胸が痛んでいるのが分かった。
知っている顔が減っている。
その現実を見せ付けられているのだから。
その時だった。
「セレス」
奥から声が聞こえた。
人々が道を開く。
そこにいたのは一人の女性だった。
銀色の長髪。
鋭い瞳。
王族を思わせる気品。
「エレナ様!」
レインが頭を下げる。
第五世界最後の王。
女王エレナだった。
セレスは驚く。
「生きていたのね」
「簡単には死ねません」
エレナは微笑んだ。
だがその顔は疲れている。
十年間戦い続けてきた人の顔だった。
エレナはリアンたちを見る。
「あなた方が異世界の旅人ですね」
深く頭を下げた。
「感謝します」
「この世界へ来てくださったことに」
リアンは慌てて首を振る。
「そんな」
「私は助けたいだけです」
エレナは少しだけ笑った。
「セレスがあなたを選んだ理由が分かります」
その言葉にセレスが少し照れた。
しかし空気はすぐに変わった。
エレナが地図を広げたのだ。
その上には巨大な黒い印が描かれている。
「これがネヴァルの勢力圏です」
全員の顔色が変わった。
世界の約七割が黒く塗られていた。
「こんなに……」
ノアが絶句する。
「残っているのは北方地域だけです」
エレナは静かに言った。
「あと数年」
「いえ」
「あと一年も持たないでしょう」
重い沈黙。
絶望的だった。
だが。
リアンは地図の中央を見つめていた。
そこだけが真っ黒だった。
「ここは?」
エレナの表情が変わる。
「近付いてはいけません」
「なぜ?」
「そこが」
女王は静かに答えた。
「ネヴァルの巣です」
洞窟の空気が凍り付く。
「巣……」
アルトが呟いた。
「生き物なのか」
「分かりません」
エレナは首を横に振る。
「誰も見て帰ってきていないからです」
その時。
突然。
洞窟全体が揺れた。
ゴォォォォォォ!!
悲鳴が上がる。
天井から砂が落ちる。
レインが顔色を変えた。
「まさか!」
外から叫び声が聞こえる。
「襲撃だ!」
「眷属が来たぞ!!」
全員が立ち上がった。
リアンも駆け出す。
洞窟の外へ飛び出した瞬間。
空を埋め尽くす影が見えた。
黒い翼。
百を超える飛行型眷属。
そしてその中央に。
一際巨大な存在がいた。
黒い鎧。
黄金の瞳。
人型の怪物。
その姿を見た瞬間。
セレスの顔から血の気が消えた。
「嘘……」
震える声。
「四天王……」
リアンたちが振り返る。
怪物はゆっくり笑った。
『異世界の継承者』
黄金の瞳がリアンを捉える。
『王がお呼びだ』
空が震えた。
ネヴァル直属。
最強の配下。
星喰王軍四天王。
その一人が、ついに姿を現したのだった。
第六話了




