第七話 黒翼の四天王
赤い空を埋め尽くす黒い影。
百を超える飛行型眷属たちが洞窟都市の上空を旋回していた。
その中心。
天空に浮かぶ巨大な人影。
漆黒の鎧。
背中から伸びる六枚の黒翼。
黄金の瞳。
人の姿をしているのに、人とは決して呼べない異質な存在だった。
『異世界の継承者』
その声が大地を震わせる。
リアンは息を呑んだ。
目の前の存在から放たれる威圧感は、かつてのレオスや終焉の門すら超えていた。
「まさかこんなに早く来るなんて……」
セレスの顔は青ざめている。
エリシアが尋ねた。
「誰なの?」
セレスは震える声で答えた。
「四天王第一席」
「黒翼将アザル」
その名前が響いた瞬間、周囲の兵士たちがざわめく。
恐怖だった。
「最悪ね」
サラが短剣を抜いた。
女王エレナも険しい顔になる。
「王都を落とした将軍です」
リアンたちは息を呑んだ。
つまり目の前の存在こそ。
この世界を絶望へ追い込んだ怪物の一人。
アザルはゆっくりと翼を広げた。
『歓迎しよう』
『第一世界の英雄たちよ』
リアンの表情が変わる。
「私たちを知ってるの?」
黄金の瞳が細くなる。
『当然だ』
『王は全てを見ている』
『七つの星を統べた継承者』
『世界を救った者』
『リアン・セレスティア』
名前を呼ばれた瞬間。
洞窟都市の人々が驚いてリアンを見る。
だがアザルは続けた。
『だからこそ』
『王は興味を持った』
『お前を』
その声には奇妙な愉悦があった。
リアンは杖を構える。
「だったら伝えて」
「私もネヴァルに用がある」
アザルが笑った。
その笑いだけで空気が震える。
『面白い』
次の瞬間。
アザルの姿が消えた。
「!?」
速い。
アルトですら目で追えない。
気付いた時にはリアンの目の前だった。
拳が振り下ろされる。
轟音。
リアンは反射的に結界を展開した。
しかし。
バキィィィン!!
結界が一撃で砕け散る。
「うそっ!」
吹き飛ばされる。
地面を転がる。
胸が焼けるように痛い。
「リアン!」
アルトが飛び出した。
剣閃。
鋭い斬撃がアザルへ向かう。
しかし。
アザルは片手で受け止めた。
素手で。
火花が散る。
「馬鹿な……!」
アルトの顔が凍る。
『弱い』
アザルが呟いた。
次の瞬間。
アルトが吹き飛ばされた。
岩壁へ激突する。
「アルト!」
エリシアが風の精霊を放つ。
巨大な竜巻。
しかしアザルは動かない。
竜巻そのものを握り潰した。
圧倒的だった。
エレナの兵たちも攻撃を開始する。
魔法。
矢。
投槍。
だが何も効かない。
『その程度か』
アザルが退屈そうに言う。
絶望的な実力差だった。
その時だった。
シルヴァが咆哮する。
白銀の守護竜。
巨大な身体が空へ舞い上がる。
真正面からアザルへ突撃した。
激突。
空が震える。
初めてアザルが後退した。
『ほう』
黄金の瞳が細くなる。
『竜王級か』
少しだけ。
本当に少しだけ。
興味を示したようだった。
その隙にリアンが立ち上がる。
息は苦しい。
だが諦めない。
仲間たちも同じだった。
アルトが再び剣を握る。
エリシアが魔力を集める。
サラが笑う。
「やっと本気で戦えそうね」
ノアは防御術式を展開。
セレスも光の魔法陣を描き始めた。
そして。
アザルは満足そうに翼を広げる。
『良い』
『少し遊んでやろう』
空を覆う眷属軍が一斉に咆哮した。
洞窟都市上空。
異世界へ来てから最初の大戦が始まる。
そしてリアンはまだ知らない。
四天王第一席アザルですら。
ネヴァルの軍勢の中では最強ではないことを。
星喰王の玉座には。
さらに恐るべき存在たちが待ち受けていた。
第七話了




