第五話 滅びゆく世界
光が消えた。
次の瞬間。
リアンたちは第五世界の大地へ立っていた。
熱風が吹き抜ける。
空は赤い。
雲は黒い。
遠くでは雷鳴が鳴り続けている。
「これが……」
エリシアが言葉を失う。
「第五世界……」
リアンも息を呑んだ。
あまりにも違う。
自分たちの世界とは。
大地はひび割れ。
森は枯れ。
川は黒く濁っている。
まるで世界そのものが病気になっているようだった。
セレスが悲しそうに空を見上げる。
「昔は違ったの」
「青い空があって」
「森があって」
「人が笑っていた」
その声は震えていた。
故郷が壊れていく姿を見続けた者の声だった。
リアンは何も言えなかった。
その時。
シルヴァが低く唸る。
巨大な竜の視線が前方へ向いた。
アルトも剣へ手を掛ける。
「何か来る」
砂煙。
いや。
黒い煙だった。
その中から人影が現れる。
一人。
二人。
三人。
全部で十人ほど。
ボロボロの鎧。
疲れ切った顔。
武器も傷だらけだ。
だが彼らはリアンたちを見るなり武器を向けた。
「止まれ!」
先頭の男が叫ぶ。
「何者だ!」
セレスが前へ出る。
「待って!」
男の目が見開かれた。
「セレス様!?」
その瞬間。
周囲の人々も声を上げる。
「生きていた!」
「本当に!?」
「セレス様だ!」
歓声が上がった。
リアンたちは驚く。
セレスは第五世界では有名な存在らしい。
男は深く頭を下げた。
「私はレイン」
「王都防衛軍の隊長です」
王都。
その言葉にセレスの表情が変わる。
「王都は!?」
レインは言葉に詰まった。
そして静かに答えた。
「陥落しました」
空気が重くなった。
セレスが数秒固まる。
「そんな……」
「三日前です」
レインは拳を握る。
「星喰王ネヴァル直属軍が攻めてきました」
「王都は壊滅しました」
リアンたちは顔を見合わせた。
もう想像以上だった。
滅びかけているどころではない。
既に崩壊寸前だった。
「生存者は?」
ノアが尋ねる。
「避難しています」
「ですが長くは持ちません」
レインは遠くの地平線を見る。
その顔に希望はなかった。
絶望だけだった。
その時だった。
大地が震えた。
ゴォォォォォォォォォ……
全員が振り返る。
地平線の向こう。
巨大な山が動いていた。
いや。
山ではない。
生き物だった。
「なんだあれ……」
アルトが目を見開く。
全長数キロ。
黒い甲殻。
無数の足。
巨大な口。
まるで世界を食べるためだけに生まれた怪物。
レインの顔から血の気が引く。
「獣王級……」
「ネヴァルの眷属です」
怪物はゆっくり進んでいる。
だが一歩ごとに大地が崩壊する。
森が消える。
山が砕ける。
あまりにも異常だった。
「倒せるの?」
エリシアが尋ねる。
レインは首を横に振った。
「無理です」
「軍でも勝てません」
その時。
リアンが前へ出た。
仲間たちが振り向く。
彼女は巨大な怪物を見つめていた。
七つの星核は消えた。
以前のような力はない。
それでも。
見捨てるつもりはなかった。
「まずは人を助けよう」
リアンが言う。
「この世界の人たちを」
レインは驚いた顔をする。
セレスも目を見開いた。
その表情は少しだけ昔を思い出したようだった。
かつて自分もそう信じていた。
誰かが来てくれると。
希望が来てくれると。
そして今。
その希望が目の前に立っていた。
だがリアンたちはまだ知らない。
その巨大な怪物ですら。
ネヴァルの軍勢の中では下位の存在に過ぎないことを。
星喰王ネヴァル。
その真の恐ろしさは。
まだ誰も見ていなかった。
第五話了




