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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第四部 新たなる時代
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第三話 星喰王ネヴァル


 空が割れていた。

 青空の中央を引き裂く巨大な亀裂。

 その向こう側から覗く黄金の瞳。

 山脈よりも大きい。

 生物という概念すら超えている存在だった。

 リアンたちは言葉を失う。


『見つけた』

 低い声が世界を震わせる。

 耳で聞いているのではない。

 心へ直接響いてくる。

 黄金の瞳はリアンだけを見つめていた。


 セレスは膝をついた。

 顔面は蒼白だった。

「そんな……」

「どうしてここが……」


 アルトが剣を抜く。

 本能的な行動だった。

 だが意味がないことは誰にも分かった。

 相手は巨大すぎる。

 あまりにも規格外だった。


「ネヴァルなの?」

 リアンが尋ねる。


 セレスは震えながら頷いた。


「星喰王ネヴァル」

「第五世界を滅ぼそうとしている存在」


 黄金の瞳が細くなる。

 まるで笑ったようだった。


『継承者』


 その一言にリアンは息を呑む。


『七つの星を統べた者』


「どうして私を知ってるの」


 返事はすぐに返ってきた。


『知っている』


『我は世界を喰らう者』

『全ての世界を見ている』


 空間が震える。

 周囲の木々が音を立てて倒れた。

 空気が歪む。


 ネヴァルは続ける。


『お前は興味深い』


『だから最後まで残してやろうと思った』


 その声に感情はなかった。

 人が虫を見るような。

 そんな冷たさだった。


 リアンは拳を握る。

「ふざけないで」


 黄金の瞳が止まる。


「世界はおもちゃじゃない」


『世界?』


 ネヴァルは静かに言った。


『世界とは食物だ』


 その瞬間。

 セレスが叫んだ。

「下がって!」


 全員が反射的に動く。


 轟音。


 黄金の瞳の前に光が集まる。

 次の瞬間。

 巨大な光線が放たれた。


 山脈が消えた。


 遠くに存在していたはずの山が。

 一瞬で。

 跡形もなく。


「嘘だろ……」

 アルトの声が震えた。


 今の一撃だけで国一つが消せる。

 そう理解できるほど圧倒的だった。


 しかしネヴァルの攻撃は続かなかった。


 突然。

 空の亀裂が揺れ始める。


 黄金の瞳が僅かに動いた。


『まだ不完全か』


 その声には初めて苛立ちが混じる。


 セレスが驚いた顔をする。

「第五世界との接続が安定してない……!」


 ネヴァルの姿が少しずつ薄れる。

 だが黄金の瞳だけは最後までリアンを見ていた。


『継承者』


『来るがいい』


『第五世界へ』


 空間がさらに歪む。


『お前が絶望する顔を見てみたい』


 次の瞬間。

 亀裂は閉じた。


 空に青さが戻る。

 まるで何事もなかったかのように。


 だが静寂は長く続いた。


「今のが……」

 エリシアの声は震えていた。


「ネヴァル」

 セレスが答える。


「本体じゃない」


 全員が凍り付く。


「今のは視線だけ」


「本体は第五世界にいます」


 リアンは思わず言葉を失った。

 あれで本体ではない。

 あれでほんの一部。


 ノアがかすれた声を出す。

「勝てるんですか……?」


 セレスは答えなかった。


 その沈黙が何よりの答えだった。


 リアンは空を見上げた。

 さっきまで黄金の瞳があった場所。


 怖い。

 正直にそう思った。


 終焉との戦いですら比較にならない。

 今まで出会ったどんな敵よりも恐ろしい。


 だが。


 ふと隣を見る。


 アルトがいる。

 エリシアがいる。

 ノアがいる。

 サラがいる。

 アイリスがいる。

 そしてセレスもいる。


 一年前と同じだった。

 あの時も怖かった。

 それでも進んだ。


 リアンは静かに息を吐く。


「行こう」


 全員が顔を上げる。


「第五世界へ」


 セレスが目を見開いた。


「本当に?」


「うん」

 リアンは微笑む。


「助けを求められたから」


 アルトが額を押さえる。


「また始まるのか」


「また始まるわね」

 エリシアが笑う。


 サラも不敵に笑った。


「今度は世界越えの冒険か」


 ノアは既に興奮していた。


「異世界ですよ!?」


 こうして。

 蒼き星の継承者リアン・セレスティアの新たな旅が始まる。


 目指すは第五世界。

 滅びゆく異世界。

 そして。

 世界を喰らう王。


 星喰王ネヴァルとの戦いが幕を開けようとしていた。

第三話了

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