第二話 多世界の旅人
クレーターの中心。
リアンたちは現れた少女セレスを見つめていた。
誰も言葉を発せない。
世界が一つではない。
そんな話は聞いたこともなかった。
「待って」
最初に口を開いたのはリアンだった。
「今、何て言ったの?」
セレスは静かに答える。
「世界は一つではありません」
「数え切れないほど存在します」
ノアが眼鏡を押さえた。
完全に混乱している顔だった。
「学術的に大変興味深いんですが、ちょっと理解が追い付きません」
「私も」
エリシアが頷く。
「一つの世界を救うだけで精一杯だったのに」
セレスは空を見上げた。
その瞳には深い哀しみが映っている。
「例えばこの世界を第一世界とします」
指先に光が集まる。
空中へ無数の光球が現れた。
それぞれが小さな世界のように回転している。
「第二世界」
「第三世界」
「第四世界」
「そして私が来た第五世界」
リアンたちは息を呑んだ。
本当に存在する。
少なくともセレスは嘘を付いているようには見えない。
「どうして私たちの世界へ?」
アルトが尋ねた。
セレスは迷わず答える。
「助けを求めるためです」
その声は震えていた。
「第五世界が滅びかけています」
静寂。
「終焉の力?」
リアンが聞く。
しかしセレスは首を横に振った。
「違います」
その答えに全員の表情が変わる。
「終焉より古い存在」
風が吹いた。
妙に冷たい風だった。
「星を食らう者」
その名前を口にした瞬間。
セレスの顔色が青ざめた。
「奴は世界そのものを捕食します」
「既に第四世界は消滅しました」
誰も声を出せなかった。
「消滅?」
ノアがかすれた声を出す。
「世界が?」
セレスは小さく頷いた。
「空も」
「海も」
「大地も」
「人々も」
「全部です」
重い沈黙が落ちる。
リアンは拳を握った。
胸の奥が痛かった。
知らない世界。
知らない人々。
だが一年前まで、自分たちも同じ立場だったかもしれない。
「助けたい」
リアンは自然にそう言っていた。
アルトが苦笑する。
「言うと思った」
エリシアも笑った。
「ここで見捨てるならリアンじゃないものね」
サラが肩をすくめる。
「平和な一年だったし、ちょっと退屈してたのよね」
「その理由はどうなの」
ノアが突っ込んだ。
少しだけ空気が和らぐ。
セレスも驚いたようだった。
「本当に?」
「うん」
リアンは頷く。
「でもまず話を全部聞かせて」
セレスは深く息を吸った。
「第五世界には星核がありません」
「え?」
「正確には作られなかった」
リアンたちの世界では、星王アストラルが七つの星核を作った。
だが別世界では違うらしい。
「だから終焉は存在しませんでした」
「じゃあ安全だったんじゃ」
エリシアが言う。
しかしセレスは悲しそうに首を振る。
「その代わり」
「別の災厄が来ました」
光球の一つが黒く染まる。
「世界を喰らう存在」
「星喰王ネヴァル」
その名前が響いた瞬間。
リアンの背筋を冷たいものが走った。
理由は分からない。
だが本能が告げていた。
終焉を超える敵だと。
その時だった。
空が揺れた。
ゴォォォォォォ―――。
全員が反射的に見上げる。
青空の中央。
何もないはずの空間に黒い亀裂が走っていた。
「うそ……」
セレスの顔から血の気が消える。
「もう来た」
亀裂が広がる。
空間そのものが裂けていく。
そして。
裂け目の向こう側から。
巨大な黄金の瞳が現れた。
山より大きい。
空を埋め尽くすほど巨大な瞳だった。
その視線が。
真っ直ぐリアンを見つめた。
世界が震える。
誰も動けない。
そして亀裂の向こうから、低く不気味な声が響いた。
『見つけた』
セレスが絶望した顔で後退する。
「そんな……」
「ネヴァル……」
平和だった世界の空に。
新たな災厄が姿を現した。
第二話了




