↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第三部 闇帝国の侵攻
PR
37/44

第九話 星々の未来


 静寂だった。

 あれほど荒れ狂っていた空が嘘のように静まり返っている。

 忘れられた聖域の上空。

 終焉の門は消え去り、黒い亀裂も閉じ始めていた。

 世界を覆っていた圧迫感もない。

 ただ無数の星々だけが夜空で輝いている。


 リアンはその場に膝をついていた。

 七つの星核の光がゆっくりと弱まっていく。

 身体中から力が抜けていく感覚。

 だが不思議と怖くはなかった。

「終わった……?」

 エリシアが小さく呟く。

 誰もすぐには答えられない。

 信じられなかったのだ。

 長く続いた戦いが。

 本当に終わったのだろうかと。


 その時。

 聖域の中央から光が立ち昇った。

 七つの星核。

 それらがリアンの周囲へ現れる。

 一つ。

 また一つ。

 ゆっくりと空へ浮かび上がる。

「星核が……」

 ノアが息を呑んだ。

 七つの結晶は以前とは違っていた。

 ひび割れ始めていたのだ。


『継承者よ』

 アストラルの声が響く。

 柔らかく。

 どこか寂しげな声だった。

『役目は終わった』

「え……?」

 リアンの顔色が変わる。

『終焉を封じるために生まれた七つの星核』

『しかし今』

『お前が新たな道を開いた』

 星々が輝く。

『もはや我らは必要ない』


「待って」

 リアンは立ち上がる。

「消えるの?」

 返事はすぐに返ってきた。

『ああ』

 静かな肯定だった。

 胸が痛む。

 ここまで共に歩いてきた力。

 多くの人々を守った光。

 それが失われる。


 だがアストラルは微笑んでいた。

『悲しむことはない』

『これは終わりではない』

『始まりだ』


 七つの星核がさらに空へ昇る。

 世界中の空に無数の光が降り注いだ。

 王国へ。

 帝国へ。

 砂漠へ。

 海へ。

 山へ。

 全ての土地へ。

 温かな光が広がっていく。


 その時だった。

 ゼルファードが静かに前へ出る。

 誰も言葉を発しない。

 皇帝は空を見上げていた。

 長い沈黙。

 やがて小さく呟く。

「アストラル」

 その声には六千年分の想いが込められていた。


 光の中に星王の姿が現れる。

 若き日のまま。

 優しく微笑んでいた。

『久しいな』

 ゼルファードは答えない。

 ただ静かに見つめる。


『すまなかった』

 アストラルが言った。

 しかし皇帝は首を横に振る。

「謝るな」

 低い声だった。

「間違っていたのは私も同じだ」


 二人は長い時間を越えて再び向き合っていた。

 友として。

 かつての仲間として。


『未来は託した』

 アストラルがリアンを見る。

『この子たちに』

 ゼルファードもゆっくり振り返る。

 リアン。

 アルト。

 エリシア。

 ノア。

 サラ。

 アイリス。

 ヴァルド。


 そして。

 星王アストラルの姿が光へ変わっていく。

『ありがとう』

 最後の言葉。

『リアン・セレスティア』


 無数の光となり。

 星王は夜空へ消えていった。


 その後。

 七つの星核も次々と砕ける。

 美しい光の粒となって。

 夜空へ還っていく。


 リアンは黙って見送った。

 涙が流れていた。

 けれど悲しいだけではない。

 温かな涙だった。


 やがて空に朝日が昇り始める。

 長い夜が終わる。

 新しい時代の始まりだった。


 レオスは聖域の端で座っていた。

 終焉の力は完全に消えている。

 以前の穏やかな顔へ戻っていた。

「私は……」

 俯く。

「多くの人を傷付けた」

 ゼルファードが静かに言う。

「生きろ」

 レオスが顔を上げる。

「罪を償うために」

 レオスは目を閉じた。

 そして小さく頷いた。


 ヴァルドは黒剣を鞘へ収める。

「終わったな」

 アルトが笑った。

「ああ」

 短い返事だった。

 だがその顔には初めて穏やかな表情が浮かんでいた。


 リアンは朝日に照らされる世界を見つめる。

 空に終焉の門はない。

 黒い亀裂もない。

 ただ青空が広がっていた。


「これからは」

 リアンが呟く。

 仲間たちが振り返る。

「みんなの時代だね」


 誰かが笑った。

 そしてまた誰かが笑う。

 長い旅の果てに。

 ようやく掴んだ未来だった。

第九話了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。