第八話 最後の戦い
忘れられた聖域の空は二つに割れていた。
一方には終焉の闇。
一方には七つの星の光。
世界中の人々が空を見上げていた。
誰も知らない。
今この瞬間に世界の運命が決まろうとしていることを。
レオスは空中へ浮かんでいた。
黒い翼が広がる。
終焉の力が際限なく彼へ流れ込んでいる。
「手遅れです」
低い声が響く。
「もう止めることはできない」
巨大な終焉の門が開く。
その奥。
漆黒の虚無。
存在するだけで世界を崩壊させる力。
リアンはまっすぐ見上げた。
「だったら」
七つの星核が周囲を巡る。
まるで七つの流星。
「止まるまでやるだけ」
レオスが笑った。
「あなたらしい」
その瞬間。
空が消えた。
終焉の力が津波のように押し寄せる。
山ほどの闇。
都市を飲み込むほどの破壊。
今までとは比較にならなかった。
「リアン!」
アルトが叫ぶ。
だがリアンは動かない。
静かに手を伸ばす。
「星よ」
七つの星核が共鳴する。
世界中の星空が輝いた。
夜の大地。
海。
山。
砂漠。
あらゆる場所から光が集まる。
轟音。
巨大な光の壁が出現した。
終焉の津波と正面から衝突する。
世界が揺れる。
聖域が軋む。
それでも光は消えない。
レオスの表情が変わった。
「なぜだ」
信じられないという顔だった。
「なぜ耐えられる!」
リアンは答えなかった。
代わりに後ろを見る。
そこには仲間たちがいた。
アルトが剣を握る。
「一人でやるな」
エリシアが杖を掲げる。
「そういう約束だったでしょ」
サラが笑う。
「最後くらい派手に行こうじゃない」
ノアも魔法陣を展開する。
「全力です!」
アイリスも両手を合わせた。
白銀の光が広がる。
そして。
ゼルファードが前へ出た。
レオスが目を見開く。
「皇帝陛下」
その声には迷いがあった。
初めてだった。
ゼルファードは静かに言う。
「レオス」
黄金の瞳が悲しく揺れる。
「お前は優しすぎた」
「黙れ!」
レオスが怒鳴った。
闇が荒れ狂う。
「私は見た!」
「救えなかった人々を!」
「終わらない戦争を!」
「何も変えられない世界を!」
その声は痛々しかった。
怒りではない。
絶望だった。
ゼルファードは目を閉じた。
「そうだ」
否定しない。
「だから私は変えようとした」
静かな声。
「だがお前は」
黄金の瞳が開く。
「未来まで捨てようとしている」
レオスが絶叫した。
終焉の門が完全に開く。
漆黒の巨大な存在が姿を現し始める。
空より大きい影。
世界を呑み込む終焉そのもの。
その時。
リアンの中で何かが繋がった。
七つの星核。
星王。
守護者たち。
仲間たち。
全ての想い。
「分かった」
リアンが呟く。
誰もが振り向いた。
七つの星が彼女の周囲を回る。
柔らかな光。
「閉じ込めるんじゃない」
「壊すんでもない」
リアンは空を見上げた。
「繋ぐんだ」
七つの星核が眩く輝いた。
星の輪が広がる。
終焉の門を包み込む。
世界を囲む結界が変化し始めた。
アストラルの声が響く。
『それが第三の道か』
ゼルファードも気付いた。
目を見開く。
「まさか」
リアンは頷いた。
「終焉を拒絶しない」
「でも支配もさせない」
「未来を選ぶのは世界に生きる人たちだから」
光が爆発した。
終焉の門を包む。
レオスが叫ぶ。
「やめろ!」
しかし止まらない。
七つの星の光が終焉へ届く。
闇が砕ける。
世界を覆っていた絶望が剥がれていく。
そして。
レオスの身体から黒い紋様が消え始めた。
「私は……」
レオスが膝をつく。
涙が流れていた。
「何を……」
正気が戻り始めている。
終焉の門は静かに閉じていった。
ゆっくりと。
確実に。
何千年も続いた終焉との戦いが終わろうとしていた。
そして最後に。
七つの星が空を駆け抜けた。
世界中を照らしながら。
まるで新しい時代の始まりを祝福するように。
第八話了




