第二話 崩れ始めた世界
忘れられた聖域へ向かう旅は続いていた。
しかし世界は、彼らを待ってはくれなかった。
王国北部。
雪原地帯を進むリアンたちは、行く先々で異変を目にすることになる。
空に浮かぶ黒い亀裂。
突如現れる魔物。
枯れ始めた森。
暴走する精霊たち。
どれも今までになかった現象だった。
「本当に世界がおかしくなってる……」
エリシアが不安そうに呟く。
肩の精霊たちも落ち着かない。
怯えるように震えていた。
ノアが地図を見つめる。
「終焉の門が各地で出現しているみたいです」
「そんなに?」
リアンが尋ねる。
ノアは黙って頷いた。
「今までは限定的でした」
「でも今は違う」
彼の表情は暗い。
「まるで世界そのものが壊れ始めているようです」
その日の夕方。
一行は小さな村へ到着した。
だが様子がおかしい。
人がいない。
煙も上がっていない。
静かすぎる。
アルトが剣の柄を握った。
「警戒しろ」
リアンも頷く。
村へ入る。
家々は無事だった。
戦闘の痕跡もない。
しかし人だけが消えている。
「なにこれ……」
サラが顔をしかめた。
そして広場へ出た瞬間。
一同は足を止める。
中央に巨大な魔法陣が刻まれていた。
黒い光を放っている。
「終焉の術式!」
ノアが叫んだ。
見たことがある。
レオスが使っていたものに似ていた。
その時だった。
魔法陣が輝く。
轟音と共に空間が裂けた。
黒い門が出現する。
「またか!」
アルトが前へ出る。
だが。
門から現れたのは魔物ではなかった。
一人の少女だった。
年齢は十歳ほど。
白い髪。
青い瞳。
裸足。
どこか現実感のない存在だった。
少女は周囲を見回す。
そしてリアンを見つけると微笑んだ。
「やっと会えた」
全員が警戒する。
しかし少女から敵意は感じない。
「あなたは?」
リアンが尋ねる。
少女は首を傾げた。
「私はアイリス」
そして。
信じられない言葉を口にした。
「第七の星核の管理者」
空気が凍り付く。
リアンの六つの星が一斉に輝く。
強い共鳴。
間違いない。
この少女は最後の星核と繋がっている。
「本当に……?」
ノアが震える声を出す。
アイリスは小さく頷いた。
「時間がないの」
その表情から笑顔が消えた。
「聖域が壊されてる」
「誰に?」
アルトが問い掛ける。
少女は静かに答えた。
「レオスに」
リアンたちの表情が一変する。
アイリスは続ける。
「レオスは終焉の門を開こうとしてる」
「世界の外側へ」
「外側?」
エリシアが首を傾げる。
アイリスは空を見上げた。
「この世界は閉じている」
「星核によって」
その言葉にノアもルシアの話を思い出す。
星核は封印。
世界を閉じ込める鎖。
ゼルファードも似たことを言っていた。
「じゃあ皇帝は正しかったの?」
リアンが呟く。
アイリスは首を横に振る。
「違う」
「レオスも」
「ゼルファードも」
「半分しか知らない」
その言葉に全員が息を呑んだ。
突然。
遠くの空が赤く染まった。
巨大な爆発。
衝撃波が雪原を揺らす。
「なに!?」
サラが叫ぶ。
アイリスの顔色が変わる。
「始まった」
少女が呟く。
「闇帝国が王都へ向かった」
リアンは固まった。
王都。
セレスティア王国の中心。
もし陥落すれば。
戦争は決定的になる。
その時。
黒い霧が現れる。
全員が身構えた。
霧の中から姿を現したのは。
ヴァルドだった。
しかし様子がおかしい。
肩で息をしている。
全身に傷があった。
今まで見たことがない姿だった。
「ヴァルド!」
リアンが驚く。
ヴァルドは剣を地面に突き立てた。
そして短く言った。
「皇帝陛下が動いた」
静寂。
「忘れられた聖域へ向かっている」
リアンの心臓が大きく脈打つ。
ついに。
ゼルファードが動き始めたのだ。
世界の運命を左右する最終局面が、すぐそこまで迫っていた。
第二話了




