第一話 忘れられた聖域への道
氷結神殿を後にしてから五日。
リアンたちは世界地図にも記されていない地へ向かっていた。
忘れられた聖域。
第七の星核が眠る場所。
そして世界の真実が隠された場所。
旅は終わりへ近付いていた。
だが世界は静かではなかった。
北方の街へ立ち寄った時だった。
広場に人々が集まっている。
皆、不安そうな顔をしていた。
「何かあったのかな」
リアンが尋ねる。
すると近くの老人が答えた。
「知らんのか?」
「え?」
「闇帝国が動いたんだよ」
その言葉に全員の表情が変わる。
「動いた?」
アルトが聞き返す。
老人は重々しく頷いた。
「昨日だ」
「国境沿いの城塞都市が落とされた」
空気が凍った。
リアンは息を呑む。
これまでの戦いはあくまで局地的なものだった。
だが今度は違う。
国家規模の戦争。
闇帝国が本格的に侵攻を始めたのだ。
ノアも青ざめている。
「そんなはずは……」
「王国軍の主力が配置されていた場所ですよ」
老人は首を振った。
「それでも一日で落ちた」
静かな絶望がその声に滲んでいた。
その夜。
宿の一室。
リアンたちは円卓を囲んでいた。
誰も笑わない。
皆、現実を理解していた。
「どうする?」
サラが尋ねる。
重い沈黙。
最初に口を開いたのはアルトだった。
「聖域へ向かう」
迷いのない声。
「でも王国が」
エリシアが言う。
アルトは頷いた。
「分かってる」
「だが今引き返しても根本的な解決にはならない」
誰も反論できなかった。
第七の星核。
世界の真実。
それを知らなければ終わらない。
ノアが地図を広げる。
星導板の光はさらに強くなっていた。
「聖域まではあと三日です」
「近いね」
リアンが呟く。
六つの星が刻まれた左手を見つめる。
あと一つ。
本当にあと一つだった。
その時だった。
窓の外から眩い光が差し込んだ。
「何!?」
エリシアが立ち上がる。
一同は外へ飛び出した。
そして息を呑む。
夜空だった。
だが。
天空の中央で巨大な蒼い光が輝いている。
まるで第二の月。
いや。
巨大な星だった。
「第七の星核……」
リアンが呟く。
間違いない。
あの光だ。
しかし。
同時に別の異変も起きていた。
光の周囲に黒い亀裂が広がり始めたのである。
空間そのものが裂けている。
人々が悲鳴を上げる。
「終焉の門だ!」
ノアが叫んだ。
今までより遥かに大きい。
空そのものに門が開こうとしていた。
その瞬間。
リアンの脳裏へ声が響く。
聞き覚えのある声だった。
『継承者よ』
「アストラル!」
星王の声だ。
『時間がない』
『急げ』
声は今までになく切迫していた。
『忘れられた聖域へ』
『世界の均衡が崩れ始めている』
声が途切れる。
空の亀裂はさらに大きくなった。
誰も言葉を発せない。
その光景を見つめることしかできなかった。
ただ一人。
リアンだけが拳を握り締める。
「行こう」
仲間たちが振り返る。
リアンの瞳に迷いはなかった。
「全部終わらせるために」
アルトが笑う。
「その言葉を待ってた」
エリシアも頷く。
サラは短剣を回した。
ノアは地図を抱える。
そして六人は再び歩き始める。
忘れられた聖域へ。
最後の星核へ。
そして。
世界の運命を決める戦いへ。
第一話了




