第十三話 忘れられた聖域
氷結神殿は静まり返っていた。
レオスの背後に出現した巨大な終焉の門。
その存在だけで空間そのものが歪んでいる。
リアンの左手に刻まれた六つの星が激しく脈動した。
遠くから呼ばれている。
最後の星核が。
「第七の星核が目覚めた……」
ノアが震える声で呟く。
レオスは満足そうに微笑む。
「そうです」
「全てはここへ至るための準備でした」
ヴァルドが黒剣を向ける。
「黙れ」
凄まじい殺気だった。
これほど怒りを露わにしたヴァルドを、リアンたちは初めて見た。
しかしレオスは笑うだけだった。
「皇帝陛下も」
「継承者も」
「白銀の解放者も」
「皆同じ場所へ向かう」
その目が細くなる。
「忘れられた聖域へ」
終焉の門から黒い光が溢れた。
次の瞬間。
神殿の天井が大きく裂ける。
空が見えた。
いや。
空ではない。
巨大な光の柱だった。
世界の遥か彼方から伸びる蒼い光。
第七の星核が放つ導き。
リアンは思わず息を呑む。
「綺麗……」
誰も言葉を発せなかった。
その光には不思議な力があった。
恐怖さえ忘れさせるほど神秘的だった。
ルシアが静かに言った。
「始まったのね」
「何が?」
エリシアが尋ねる。
ルシアは空を見上げる。
「最終継承」
その表情は真剣だった。
「第七の星核は特別なの」
「他の星核とは違う」
リアンの胸がざわつく。
星王アストラルも同じことを言っていた。
第七の星核で全てを知ることになると。
その時だった。
リアンの脳裏へ再び映像が流れ込む。
巨大な神殿。
七つの星。
そして。
一人の青年。
若き日のゼルファード。
その隣に立つ星王アストラル。
二人は争っていない。
笑っていた。
信頼し合う友のように。
「そんな……」
リアンは思わず声を漏らした。
ゼルファードと星王。
敵同士ではなかった。
少なくとも昔は。
映像がさらに変化する。
世界の中心。
巨大な銀色の扉。
その前で言い争う二人。
『この世界は間違っている』
若きゼルファードが叫ぶ。
『ならば創り直すしかない』
だが星王アストラルは首を振る。
『それでは人々の未来を奪う』
次の瞬間。
映像は消えた。
「リアン!」
アルトの声で我に返る。
気付けば膝をついていた。
「大丈夫か?」
「うん……」
だが心臓は激しく鳴っていた。
今の記憶。
あれは嘘ではない。
皇帝と星王はかつて仲間だったのだ。
その時。
レオスがゆっくり後退した。
終焉の門が彼を包み始める。
「待ちなさい!」
エリシアが叫ぶ。
しかしレオスは止まらない。
「次に会う時は終着点です」
最後にリアンを見る。
「継承者」
「あなたがどちらを選ぶのか」
「楽しみにしています」
そう言って。
レオスは門の中へ消えた。
終焉の門も消滅する。
神殿に静寂が戻った。
しばらく誰も動かなかった。
やがてヴァルドが剣を納める。
「行け」
低い声。
リアンが顔を上げる。
「忘れられた聖域へ」
「あなたは?」
ヴァルドは振り返らない。
「俺も向かう」
短い返事だった。
だがそこに敵意はなかった。
ノアが星導板を広げる。
六つの星核の光が集まる。
そして。
世界地図の中央に最後の光が現れた。
誰も到達したことのない場所。
古代文献にしか存在しない禁域。
「忘れられた聖域……」
リアンは呟く。
そこに第七の星核がある。
全ての答えがある。
アルトが笑った。
「ここまで来たら最後まで付き合うぞ」
エリシアが頷く。
「当たり前でしょ」
サラも不敵に笑う。
「途中で降りる気なんてないわ」
ノアも胸を張った。
「歴史的大発見ですから!」
全員が笑った。
不安はある。
恐怖もある。
それでも。
一人ではない。
リアンは仲間たちを見渡した。
旅立ちの時は二人だった。
今は六人いる。
かけがえのない仲間たちだ。
だから前へ進める。
だから真実と向き合える。
「行こう」
リアンが言う。
六つの星が輝く。
「最後の星核を見つけに」
仲間たちは力強く頷いた。
こうして。
忘れられた聖域を目指す新たな旅が始まる。
そしてその先で、
世界の真実。
星王の秘密。
皇帝ゼルファードの願い。
全てが明らかになろうとしていた。
第十三話了
第二部 完
(第三部 闇帝国の侵攻 へ続く)




