第十二話 第六の継承者
氷界巨神が膝をついた。
その巨体は静かに輝いている。
先ほどまで神殿を破壊していた暴走の気配は消えていた。
赤く染まっていた瞳も、今は澄んだ蒼色へ戻っている。
『継承者』
巨神の声が響く。
『感謝する』
リアンはゆっくり近付いた。
「もう苦しくないの?」
『ああ』
巨神は静かに頷く。
『長い眠りだった』
その言葉に深い疲労が滲んでいた。
『終焉の力は少しずつ我を蝕んでいた』
『あと百年も経てば完全に支配されていただろう』
リアンは胸が締め付けられた。
第五の星核を守っていた砂竜もそうだった。
世界のどこかでずっと戦い続けていた者たちがいたのだ。
巨神の胸部が開く。
その中心で。
第六の星核が静かに輝いていた。
今まで見たどの星核よりも美しい。
透明な結晶の内部で、まるで銀河が回転しているようだった。
『受け継げ』
巨神が告げる。
『最後の試練を越えるために』
リアンは息を呑んだ。
「最後の試練……」
『七つ目の星核が眠る地にて全てを知る』
その言葉にノアも反応する。
「七つ目……!」
ついにそこまで来たのだ。
リアンはゆっくり手を伸ばした。
第六の星核へ触れる。
その瞬間。
眩い光が弾けた。
再び。
星々の世界。
無数の銀河が広がる静寂の宇宙。
だが今回は違った。
目の前に立っていたのは一人ではない。
六人だった。
星王アストラル。
空の巫女セレナ。
砂海の賢者オルフェン。
そして他の守護者たち。
歴代の星核の継承者たちが並んでいる。
リアンは思わず立ち止まった。
「みんな……」
星王アストラルが前へ出る。
『よくここまで辿り着いた』
その声は以前より優しかった。
『六つの星核を得た者は久しい』
「あなたたちに聞きたいことがある」
リアンは迷わなかった。
「星核って何なの?」
星王の表情が少し曇る。
『その問いに答える時が近付いている』
「近付いている?」
『第七の星核は世界の中心に眠る』
すると周囲の星々が動き始めた。
銀河が集まり、一枚の地図を描く。
リアンは目を見開いた。
「これ……」
世界地図だった。
そして。
中央に巨大な光点が現れる。
『忘れられた聖域』
アストラルが告げた。
『世界の始まりの場所』
「そこに第七の星核があるの?」
『そうだ』
だが。
星王の表情は重かった。
『しかし第七の星核を得れば』
『お前は選ばねばならない』
「何を?」
静寂。
そして。
アストラルはゆっくり答えた。
『世界を今のまま残すか』
『あるいは世界を解放するか』
意味が分からなかった。
しかしその言葉だけは深く胸に残った。
気付くとリアンは現実へ戻っていた。
神殿には眩しい光が溢れている。
第六の星核がゆっくりリアンの中へ溶け込んでいく。
左手の紋章が輝いた。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
そして。
六つ目の星が刻まれる。
仲間たちが息を呑んだ。
「六つ……」
エリシアが呟く。
リアンは自分の手を見つめた。
本当にあと一つなのだ。
その時。
ルシアが静かに近付いてきた。
アルトは警戒する。
しかしルシアに敵意はなかった。
「継承は完了しましたね」
「うん」
リアンが頷く。
ルシアは少しだけ微笑んだ。
「なら私たちの目的も近い」
「目的って何?」
ルシアは答えなかった。
代わりに懐から一枚の古い結晶板を取り出した。
そこには古代文字が刻まれている。
「第七の星核を探しているのは、あなただけではありません」
その言葉に全員の表情が変わる。
「まさか」
ノアが息を呑む。
「闇帝国も……」
ルシアは頷く。
「そして私たち白銀の解放者も」
さらに。
ルシアの視線が氷結神殿の出口へ向く。
「もう一人」
その瞬間。
ヴァルドの表情が変わった。
轟音。
神殿の外壁が吹き飛ぶ。
猛烈な衝撃波。
全員が身構えた。
崩れた氷の向こう。
そこに立っていたのは。
銀髪の魔導士レオスだった。
だが様子がおかしい。
空気が違う。
今まで以上に強大な魔力が渦巻いている。
そして。
彼の背後には巨大な黒い門が出現していた。
終焉の門。
それも今までのものより遥かに巨大だった。
レオスは静かに笑う。
「ようやく準備が整いました」
ヴァルドが剣を抜く。
「レオス……貴様」
だがレオスは止まらない。
その瞳に狂気にも似た光が宿る。
「継承者」
リアンを見る。
「第七の星核が目覚めました」
神殿内が静まり返る。
リアンの六つの星が激しく共鳴し始める。
遠く。
世界のどこかから。
最後の星核が呼んでいる。
そしてレオスは、初めて心から楽しそうに微笑んだ。
「さあ」
「物語を終わらせましょう」
第十二話了




