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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第一部 星の継承者
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第三話 星竜の森


 リアンとアルトが村を旅立って三日。

 二人は王国北部に広がる大森林へ足を踏み入れていた。

 古くから禁域と呼ばれる場所。

 人々はそこを「星竜の森」と呼んでいた。

「本当にここなのか?」

 アルトが周囲を警戒しながら尋ねる。

 巨大な樹木が空を覆い隠し、昼間だというのに薄暗い。

 鳥の鳴き声すら聞こえない。

 不気味な静けさだった。

 リアンは古文書の地図を広げた。

「たぶん」

「たぶんか」

「たぶんだよ」

「自信なさそうだな」

「だって何千年も前の地図だし」

 アルトが大きくため息をつく。

 だがその顔には笑みが浮かんでいた。

 旅に出てからずっとこんな調子だ。

 不思議と緊張はなかった。

 その時。

 リアンの左手の紋章が淡く光り始めた。

「また?」

「どうした?」

「何か近い」

 胸の奥がざわつく。

 昨夜と同じ感覚。

 誰かが呼んでいる。

 リアンは森の奥へ歩き始めた。

 アルトも黙って後に続く。

 やがて木々が途切れた。

 二人の前に巨大な湖が現れる。

 鏡のような水面。

 風もない。

 空だけが静かに映っていた。

「綺麗……」

 リアンが思わず呟く。

 その瞬間だった。

 湖面が揺れた。

 ゴォォォォォォ―――。

 大地が震える。

 湖の中央から巨大な影が現れた。

 水柱が天高く吹き上がる。

 次の瞬間。

 巨体が姿を現した。

 青銀色の鱗。

 黄金の瞳。

 翼を広げれば城ほどの大きさ。

 伝説にしか存在しないはずの生き物。

「竜……」

 アルトが剣を抜く。

 だがリアンは動けなかった。

 圧倒されていた。

 それほど神々しい存在だった。

 巨大な竜は静かにリアンを見つめる。

 やがて声が響いた。

 口は動いていない。

 頭の中へ直接聞こえる。

『星核を持つ者よ』

 リアンは息を呑む。

『久しいな』

「私を知っているの?」

『知っている』

 黄金の瞳が細められる。

『正確には、お前を待ち続けていた』

「待っていた……?」

『蒼き星の継承者を』

 リアンの胸が高鳴る。

 またその言葉だ。

 継承者。

 あの夜の声と同じ。

「あなたは誰?」

『我が名はアストリア』

 竜はゆっくりと首を上げた。

『最後の星竜である』

 森全体が静まり返る。

 風すら息を潜めているようだった。

 アルトも驚きを隠せない。

 星竜。

 神話に記された存在。

 王国の子供なら誰もが知る伝説だった。

「本当にいたんだ……」

 リアンが呟く。

 アストリアはゆっくり頷いた。

『だが時間は残されていない』

 その声に重みがあった。

『闇が再び動き始めた』

「闇帝国?」

『それだけではない』

 湖面に映像が浮かぶ。

 燃える街。

 逃げ惑う人々。

 空を覆う黒い雲。

 巨大な魔物。

 崩壊していく世界。

 リアンは思わず目を見開いた。

「これって……」

『未来の可能性だ』

 映像が消える。

『七つの星核を集めねば、この未来は現実となる』

 リアンは拳を握った。

 村を襲った魔物。

 あれも始まりに過ぎないのかもしれない。

「私は何をすればいいの?」

 アストリアは少しの間沈黙した。

 そして静かに答える。

『覚悟を示せ』

「覚悟?」

『継承者となる資格があるか試そう』

 湖が激しく揺れ始めた。

 地面に光の紋様が広がる。

 リアンとアルトを包み込む。

「なっ!」

 視界が眩しく染まる。

 気付けば二人は別の場所に立っていた。

 白い空間。

 どこまでも続く世界。

 そこには一枚の扉があった。

「何ここ……」

『試練の迷宮』

 アストリアの声だけが聞こえる。

『その扉の先で己の心と向き合え』

『逃げれば資格は失われる』

『進めば真実へ近付く』

 静寂。

 アルトがリアンを見る。

「どうする?」

 尋ねるまでもなく答えは決まっていた。

 リアンは扉へ歩き出す。

「行く」

 迷いはなかった。

 ここで立ち止まれば何も変わらない。

 世界を救えるかは分からない。

 星王の後継者なのかも分からない。

 それでも。

 自分の目で真実を見たい。

 その思いだけは本物だった。

 リアンは扉に手をかけた。

 ゆっくり押し開く。

 眩い光が溢れ出した。

 そして二人は試練の中へ足を踏み入れる。

 一方その頃。

 遥か西に位置する闇帝国ネメシス。

 黒曜石で築かれた玉座の間で、一人の男が静かに目を開いた。

 長い黒髪。

 黄金の瞳。

 皇帝ゼルファード。

 彼の前に跪く部下が報告する。

「蒼き星の力が確認されました」

 皇帝は薄く笑った。

「ようやく現れたか」

 窓の外を見上げる。

 遠い空に蒼い光が瞬いていた。

「待っていたぞ。継承者」

 その微笑みは、あまりにも冷たかった。

第三話了

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