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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第一部 星の継承者
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第二話 旅立ちの朝


 その日はほとんど眠れなかった。

 夜が明けても、リアンはベッドの上で天井を見つめていた。

 左手の甲には小さな星の紋章。

 何度見ても消えない。

 昨夜の出来事が夢ではない何よりの証拠だった。

「七つの星核を集めよ、か……」

 呟いてみても現実感はない。

 世界の危機。

 星の継承者。

 どれも物語の中の話にしか思えなかった。

 だが胸の奥に残る声だけは妙に鮮明だった。

 まるで今も誰かが見守っているような感覚。

 リアンは大きく息を吐いた。

「とりあえず調べなきゃ」

 考えるより先に動く。

 それが彼女の性格だった。

 朝食を終えると、村の中央にある古い資料館へ向かった。

 資料館といっても、村人たちはほとんど利用しない。

 埃まみれの本や古文書が保管されているだけの古い建物だ。

 しかしリアンにとっては宝の山だった。

 重い扉を開ける。

 ふわりと古紙の香りが漂う。

「星核について書かれているもの……」

 棚という棚を探し始めて数時間。

 ようやく一冊の分厚い本が目に留まった。

 表紙には古代文字。

 だがなぜか読めた。

『星王年代記』

「これ……」

 ページをめくる。

 そこには驚くべき記述が残されていた。


 数千年前。

 世界アルカディアは終焉の危機に直面した。

 大地は裂け、空は闇に覆われ、無数の魔物が現れた。

 その時、一人の王が立ち上がる。

 星王アストラル。

 彼は七つの星核を用いて世界を覆う巨大な結界を築いた。

 その結界によって世界は守られた。

 しかし星王の死後、星核は世界各地へ散った。

 もし七つすべてが失われれば結界は崩壊する。


「……本当だったんだ」

 リアンの背筋を冷たいものが走る。

 昨夜聞いた話と一致していた。

 つまりあれは幻ではない。

 そこで資料館の扉が勢いよく開いた。

「やっぱりここにいたか」

 聞き慣れた声だった。

「アルト」

 入ってきたのは赤茶色の髪をした青年だった。

 リアンと同い年。

 幼い頃から一緒に育った幼なじみだ。

 村では剣の腕前で有名だった。

「朝から探し回ったぞ」

「ごめん」

「昨夜何があった?」

 アルトの表情は真剣だった。

 リアンは思わず目を逸らした。

 隠しても意味はない。

 結局、昨夜の出来事を全て話した。

 流星。

 結晶。

 星核。

 そして頭に響いた声。

 話し終えると資料館は静まり返った。

 アルトは数秒黙ったまま考え込む。

「普通なら信じない話だな」

「だよね」

「でも、お前は嘘をつけない」

「それどういう意味?」

「そのままの意味だ」

 アルトは肩をすくめた。

 そしてリアンの左手を見る。

 星の紋章。

 それを見た瞬間、彼の目つきが変わった。

「本物か」

「信じるの?」

「証拠がある」

 リアンは少し安心した。

 誰か一人でも信じてくれる存在がいる。

 それだけで心強かった。

「どうするつもりだ?」

「旅に出る」

 自分でも驚くほど迷いのない返事だった。

「行かなきゃいけない気がするの」

 リアンは本を握りしめる。

「もし本当に世界が危険なら放っておけない」

 アルトはふっと笑った。

「そう言うと思った」

「え?」

「俺も行く」

「は?」

「お前だけで旅なんかさせられるか」

「危険かもしれないんだよ?」

「だからだ」

 即答だった。

「リアン、お前は昔から無茶をする」

「そんなことない」

「ある」

「ない」

「ある」

 五秒ほど見つめ合う。

 先に吹き出したのはリアンだった。

「勝てないなぁ」

「知ってる」

 アルトも笑う。

 その時だった。

 窓の外から鐘の音が響いた。

 村の警鐘だった。

「何?」

 二人は顔を見合わせる。

 次の瞬間、外から誰かの叫び声が聞こえた。

「魔物だ!」

「森から魔物が出たぞ!」

 資料館の空気が一変した。

 リアンとアルトは同時に飛び出した。

 広場へ向かう。

 すると村の入口付近で村人たちが逃げ惑っていた。

 森から巨大な狼のような魔物が現れていたのだ。

 全身が黒い霧に覆われている。

 赤い目が異様な光を放っていた。

「シャドウウルフ……!」

 アルトが剣を抜く。

 だが様子がおかしい。

 本来なら人里へ現れない魔物だった。

 しかも圧倒的に凶暴化している。

 狼が咆哮を上げる。

 近くにいた子供へ飛び掛かった。

「危ない!」

 リアンは咄嗟に走り出した。

 考えるより先に身体が動いていた。

 間に合わない。

 そう思った瞬間。

 左手の紋章が光る。

 蒼い光が溢れた。

 リアンの前方に巨大な光の壁が出現する。

 ドォォォン!

 狼が結界に激突した。

 村人たちが息を呑む。

「リアン……?」

 アルトも驚いていた。

 リアン自身が一番驚いていた。

「わ、私が?」

 結界は眩く輝いている。

 すると胸の奥から不思議な感覚が湧き上がった。

 やり方が分かる。

 誰かが教えてくれているようだった。

 リアンは両手を前へ伸ばした。

「退いて!」

 蒼い光が一直線に走る。

 狼を貫いた。

 黒い魔物は悲鳴を上げながら霧となって消滅した。

 静寂。

 誰も言葉を発せない。

 やがて村長が震える声で言った。

「今のは……星魔法か……」

 リアンは自分の手を見つめる。

 さっきまで使えなかった力。

 だが今は確かに存在する。

 胸の鼓動が速くなった。

 世界は変わり始めている。

 昨夜から続く予感が確信へ変わっていた。

 そしてその日の夕方。

 リアンは旅支度を終える。

 村の人々が見送りに集まっていた。

「絶対帰ってこいよ」

「無理するなよ」

「頑張れ!」

 温かな声が次々に飛ぶ。

 リアンは深く頭を下げた。

「行ってきます」

 その隣には剣を担いだアルトがいる。

「さて」

 アルトが空を見上げる。

「世界を救う旅の始まりだな」

「まだ救うって決まったわけじゃないよ」

「どうせそうなる」

「なんで断言するの」

「お前だから」

 リアンは苦笑した。

 そして故郷の村を振り返る。

 生まれ育った景色。

 しばらく見られないかもしれない。

 それでも足は止まらなかった。

 星核を探す旅。

 世界の真実を知る旅。

 二人は夕焼けに染まる街道を歩き出した。

 その遥か遠く。

 闇帝国ネメシスでは、一人の男が蒼い光の出現を見上げていたことを、彼らはまだ知らない。

第二話了

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