第十話 白銀の侵入者
氷結神殿の奥へ続く通路を、一行は全力で駆け抜けていた。
壁も床も天井も氷でできている。
青白い光が反射し、まるで氷の迷宮だった。
先頭を走るリアンは胸騒ぎを覚えていた。
第六の星核。
第三勢力。
そして神殿最深部から伝わってくる強大な魔力。
「近い……」
左手の五つの星が脈打つ。
第六の星核が呼んでいる。
やがて巨大な扉が見えてきた。
高さ二十メートルはあるだろう。
純白の氷で造られている。
しかし。
その中央には大穴が開いていた。
「破壊されてる」
アルトが顔をしかめる。
正規の方法ではない。
力尽くで突破したのだ。
サラが床を調べる。
「複数人いるわね」
「分かるの?」
リアンが尋ねる。
「足跡」
サラは真剣な顔だった。
「少なくとも五人」
ノアが息を呑む。
「組織的な侵入者ですね」
扉の先へ入った瞬間。
冷気が一気に強くなった。
広大な空間。
神殿最深部。
中央に巨大な氷柱が立っている。
その内部には。
蒼く輝く結晶。
第六の星核だった。
「見つけた!」
リアンが声を上げる。
しかし。
既に先客がいた。
五人の人影。
全員が白銀の外套を纏っている。
顔は仮面で隠されていた。
その中心には一人の女性。
長い白髪。
紅い瞳。
年齢は二十代半ばほど。
神秘的な美貌を持っていた。
「遅かったですね」
女性が微笑む。
その声は不思議と穏やかだった。
「あなたたちが侵入者?」
リアンが問い掛ける。
女性は小さく頷く。
「そうです」
「私はルシア」
「白銀の解放者の代表です」
聞いたことのない名前だった。
アルトが剣を抜く。
「何者だ」
ルシアは星核を見上げる。
「世界を救う者です」
どこかで聞いたような言葉だった。
リアンの表情が曇る。
ゼルファードも似たことを言っていた。
「その星核から離れて」
リアンが言う。
ルシアは首を横に振る。
「できません」
「どうして?」
「第六の星核は封印だからです」
その言葉にノアが反応した。
「封印?」
ルシアは静かに続ける。
「あなたは何も知らない」
「星核は世界を守るためのものではありません」
「世界を閉じ込めるためのものです」
リアンの心臓が跳ねた。
まただ。
ゼルファードと似た話。
星王アストラルの言葉。
オルフェンの警告。
全てが少しずつ繋がり始めている。
その時だった。
轟音が神殿を揺らした。
全員が振り返る。
入口側の壁が吹き飛んだ。
黒い影が現れる。
「まさか……」
リアンが目を見開く。
そこにいたのは。
闇帝国四将軍ヴァルドだった。
「追い付いたか」
ルシアが呟く。
ヴァルドは剣を構える。
「白銀の解放者」
低い声だった。
「ここで終わりだ」
ルシアは笑った。
「あなたたちはいつも遅い」
しかし。
次の瞬間。
誰も予想しなかった事態が起きる。
第六の星核が激しく輝き始めたのだ。
蒼い光が神殿全体を満たす。
「なに!?」
エリシアが叫ぶ。
氷柱に巨大な亀裂が走る。
一本。
二本。
三本。
そして。
砕けた。
轟音。
極寒の嵐。
第六の星核が宙へ浮かび上がる。
だが。
その周囲には黒い霧が巻き付いていた。
「終焉の力!」
ノアが叫ぶ。
リアンの顔色が変わる。
第五の星核を暴走させた力と同じだった。
ルシアが初めて表情を変えた。
「まずい」
ヴァルドも剣を握り直す。
敵同士のはずの二人が同じ反応を見せる。
つまり。
目の前の事態は双方にとって予想外だった。
神殿が揺れる。
星核の光が膨れ上がる。
その中心から巨大な人影が現れ始めた。
氷でできた巨人。
全高五十メートルを超える白銀の怪物。
閉じていた瞳がゆっくり開く。
赤い光が灯った。
神殿全体に響き渡る声。
『封印解除を確認』
『排除を開始する』
リアンたちは息を呑む。
第六の星核を守る最後の守護者。
氷界巨神。
その目覚めによって、神殿は新たな戦場へ変わろうとしていた。
第十話了




