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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第二部 失われた神殿
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第九話 氷結神殿への旅


 忘却の砂漠を出発してから十日後。

 リアンたちは王国最北端へ向かっていた。

 景色は大きく変わった。

 灼熱の砂漠は遠くなり、代わりに冷たい風が吹き付ける荒野が広がっている。

「寒い……」

 リアンは厚手のマントを握り締めた。

「数日前まで暑いって言ってたのに」

 アルトが呆れたように言う。

「暑いより寒い方が苦手なの!」

「知らなかった」

「今知って」

 サラが肩を震わせて笑う。

 エリシアも苦笑した。

 だがノアだけは真剣な顔で地図を見ている。

「そろそろです」

「氷結神殿?」

 リアンが尋ねる。

 ノアは頷いた。

「文献によれば、この先には古代時代から続く永久氷壁があります」

「その奥に神殿が存在するはずです」


 しかし。

 夕方になった頃。

 一行は足を止めることになった。

「これは……」

 目の前に巨大な氷の壁が立ちはだかっていた。

 高さ数百メートル。

 左右の果ては見えない。

 まるで世界を分断する城壁だった。

「通れそうにないな」

 アルトが見上げる。

 サラが壁を叩いた。

 コンコンと乾いた音が響く。

「登る?」

「絶対嫌」

 リアンが即答した。

「私も嫌」

 エリシアも続いた。

 その時だった。

 リアンの星導板が光り始めた。

「また?」

 五つの星が刻まれた紋章も反応している。

 淡い蒼光が氷壁へ伸びた。

 すると。

 氷の表面に無数の古代文字が浮かび上がる。

「遺跡だ!」

 ノアが叫ぶ。

 次の瞬間。

 轟音と共に氷壁が割れ始めた。

 巨大な一本道が姿を現す。

 奥へ続く氷の回廊。

「歓迎されてるみたいね」

 サラが笑った。

 リアンは嫌な予感しかしなかった。


 氷の回廊を進み始めて数時間。

 空気はさらに冷たくなった。

 やがて。

 一行の前に巨大な神殿が現れる。

 純白の氷で造られた建造物。

 月光を受けて青く輝いている。

「綺麗……」

 リアンが思わず立ち止まった。

 幻想的だった。

 だが同時に。

 強い違和感もある。

「静かすぎる」

 アルトが低く言った。

 確かに。

 風の音すら聞こえない。

 まるで神殿そのものが息を止めているようだった。


 一行が神殿へ足を踏み入れた時。

 突然。

 氷の床が光り始めた。

「!?」

 全員が身構える。

 そして神殿中央に巨大な魔法陣が出現した。

 白銀の光。

 冷たい輝き。

 その中心から少女が現れる。

 十五歳ほどに見える。

 銀髪。

 蒼い瞳。

 雪のような白い衣。

 透き通るほど美しい。

「誰?」

 リアンが問い掛ける。

 少女は静かに答えた。

『氷結神殿の管理者』

『名をフェリシアという』

 神秘的な声だった。

 人間ではない。

 それが分かる。

 精霊とも違う。

 もっと古い存在。

『継承者リアン・セレスティア』

 少女はリアンを見つめた。

『よくぞここまで辿り着いた』

「第六の星核を知ってるの?」

『知っている』

 フェリシアは頷く。

 だが次の言葉は予想外だった。

『しかし継承はできない』

「え?」

 全員が固まる。

『既に別の者が神殿へ侵入している』

 空気が変わった。

 アルトが剣へ手を掛ける。

「闇帝国か」

 フェリシアは静かに頷く。

『いいえ』

「違う?」

 リアンも驚いた。

『第六の星核を狙う第三勢力』

 その言葉に全員の表情が変わる。

 闇帝国以外の敵。

 そんな存在は初めてだった。

『既に最深部へ到達している』

 神殿全体が小さく震えた。

 遠くから轟音が響く。

 戦闘音だった。

『急げ』

 フェリシアの瞳が揺れる。

『第六の星核が奪われれば世界の均衡が大きく崩れる』

 リアンは仲間たちを見た。

 全員が頷く。

 答えは決まっている。

「行こう」

 リアンが言った。

 氷結神殿の奥へ視線を向ける。

 そこにはまだ見ぬ敵が待っている。

 第六の星核。

 第三勢力。

 そして世界の真実。

 新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。

第九話了


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