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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第二部 失われた神殿
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第八話 第五の星核


 夕暮れの砂漠。

 空は赤く染まり、風だけが静かに砂を運んでいた。

 先ほどまで暴れていた砂竜の姿はもうない。

 残されたのは無数の光。

 それらは夜空へ昇り、星々の中へ消えていった。

「終わった……」

 リアンが小さく呟く。

 だが胸の奥は晴れなかった。

 助けたはずだった。

 それでも砂竜は消えた。

 あれで本当に良かったのだろうか。

 そんな思いが残っていた。

 その時だった。

 蒼い光がリアンの前へ降りてくる。

 第五の星核。

 まるで彼女を慰めるように優しく輝いていた。

 リアンはゆっくり手を伸ばす。

「ありがとう」

 誰に向けた言葉か自分でも分からなかった。

 砂竜か。

 星核か。

 それとも旅の仲間たちか。

 その瞬間。

 第五の星核が強く光った。


 視界が白く染まる。

 身体が浮かぶ感覚。

 そしてリアンは再び星の世界へ立っていた。

 無数の星々。

 広がる銀河。

 静かな宇宙。

 その中心に一人の老人が立っている。

 白い髭。

 杖を持った背の高い老人だった。

「あなたは……」

 老人は微笑んだ。

『砂海の賢者オルフェン』

『第五の星核の守護者だ』

 リアンは頭を下げた。

「砂竜は守護者だったんですね」

 老人は静かに頷く。

『長い間よく耐えた』

 その言葉には深い哀しみがあった。

『あの竜は世界を守るため、自ら星核の器となった』

「器……?」

『終焉の力を封じ続けていたのだ』

 リアンは息を呑む。

 終焉。

 またその言葉だった。

『継承者よ』

 老人が杖を地面へ突く。

 無数の星が動き出す。

『お前は何のために戦う』

 リアンは少し考えた。

 以前ならうまく答えられなかったかもしれない。

 だが今は違う。

「守りたいから」

『何を』

「大切な人を」

 アルト。

 エリシア。

 ノア。

 サラ。

 そして故郷。

 これまで出会った全ての人たち。

 老人は微笑んだ。

『迷いながら進め』

「え?」

『迷わぬ者は過ちに気付けぬ』

 その言葉にリアンは目を見開いた。

『疑え』

『考えろ』

『真実を見失うな』

 老人の姿が光になる。

『第五の星核を託そう』

 光がリアンを包み込んだ。


 気付くと現実へ戻っていた。

 眩い蒼光が砂漠を照らす。

 第五の星核がゆっくりとリアンの胸へ吸い込まれていく。

「リアン!」

 アルトたちが見守る。

 星の紋章が輝く。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 四つ。

 そして。

 五つ目の星が刻まれた。

 その瞬間、砂漠に強い風が吹き抜けた。

「五つ目……」

 ノアが震える声で呟く。

「本当に五つ集めてしまった……」

 誰も否定できない。

 旅立った頃は伝説だった。

 だが今は違う。

 確実に世界の真実へ近付いている。


 その時。

 背後から足音が聞こえた。

 ヴァルドだった。

 彼は砂竜が消えた場所を見つめている。

 黒剣を肩へ担ぎながら静かに言った。

「継承は成功したか」

「……うん」

 リアンは頷いた。

 ヴァルドは一瞬だけ目を閉じる。

 安堵したようにも見えた。

「どうして」

 リアンが尋ねる。

「どうして私を助けるの?」

 沈黙が落ちる。

 夕陽が砂漠を赤く染める。

 やがてヴァルドは口を開いた。

「理由は一つだ」

「?」

「お前が必要だからだ」

 リアンが眉をひそめる。

 ますます分からない。

「皇帝陛下の計画には継承者が必要だ」

 それだけ告げると、ヴァルドは背を向けた。

「待って!」

 リアンが呼び止める。

 だがヴァルドは振り返らない。

「次に会う時まで生き残れ」

 黒い霧が立ち上る。

 そしてその姿は闇の中へ消えた。


 静寂。

 アルトが腕を組む。

「相変わらず説明不足な奴だったな」

「それは同意する」

 サラが笑う。

 エリシアもため息をついた。

「敵なのか味方なのか分からないわ」

「どちらでもないのかもしれません」

 ノアが真面目な顔で呟く。

 全員が少し考え込む。

 だが答えは出なかった。


 その夜。

 サラームの宿。

 リアンは星導板を取り出した。

 五つの星核が揃ったことで地図は大きく変化している。

 新たな光が現れていた。

 今まで隠されていた場所。

 世界の北端。

 氷雪に閉ざされた未知の地。

「これが……」

 ノアが資料をめくる。

 そして顔色を変えた。

「まさか」

「知ってるの?」

 エリシアが尋ねる。

 ノアはゆっくり頷いた。

「ここは古代文献にしか存在しない場所です」

 震える指で地図を示す。

「氷結神殿」

 リアンたちも息を呑む。

「第六の星核が眠る場所……」

 その時。

 窓の外で流星が空を横切った。

 まるで次の旅路を示すかのように。

第八話了


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