第七話 共闘
灼熱の砂漠を巨大な影が駆け抜ける。
暴走した砂竜。
その胸部では第五の星核が不安定な光を放っていた。
黒い魔力と蒼い光が混ざり合い、激しく脈動している。
「このままじゃ本当に爆発する!」
ノアが叫ぶ。
彼は古文書から危険性を理解していた。
星核の暴走。
それは周囲一帯を消し飛ばす災厄になりかねない。
リアンは砂竜を見上げた。
苦しそうだった。
怒っているのではない。
助けを求めているように見えた。
「絶対に助ける!」
リアンが前へ出る。
だがその直後。
砂竜の尾が振り下ろされた。
轟音。
砂が数十メートル吹き飛ぶ。
「危ねぇ!」
アルトがリアンを抱えて飛び退いた。
尾が通った場所には深い溝が刻まれている。
「あ、ありがとう」
「礼は後だ!」
アルトは剣を構え直した。
「来るぞ!」
砂竜が大きく口を開く。
内部に黒い光が集まった。
次の瞬間。
巨大な熱線が放たれる。
「散れ!」
ヴァルドが低く叫んだ。
全員が左右へ飛ぶ。
熱線が街外れの岩山へ直撃した。
山が消えた。
文字通り蒸発したのである。
サラが顔を引きつらせる。
「冗談じゃないわよ」
砂竜の危険度を改めて理解した。
ヴァルドは大剣を構える。
黒い魔力が吹き上がった。
以前リアンと戦った時よりさらに強い。
彼は一直線に砂竜へ突撃した。
「下がっていろ」
次の瞬間。
大剣が振り抜かれる。
黒い斬撃が空を裂く。
轟音。
砂竜の左前脚に巨大な傷が走った。
巨竜が悲鳴を上げる。
「すご……」
サラが呟いた。
だがヴァルドは眉をひそめる。
「浅いか」
あれほどの一撃でも致命傷にならない。
砂竜は異常な強さだった。
「リアン!」
エリシアが叫ぶ。
「胸の星核を何とかしないと!」
「うん!」
リアンも分かっていた。
倒すだけでは駄目だ。
星核を救わなければならない。
しかしどうやって近付く。
胸部は厚い鱗に守られている。
その時だった。
「私が道を開く」
サラが前へ出た。
短剣を握る。
金色の瞳に闘志が宿る。
「三十秒」
「え?」
「三十秒あれば十分」
言うなり砂の上を駆け出した。
速い。
ほとんど瞬間移動だった。
砂竜の背中を駆け上がる。
飛ぶ。
回る。
そして短剣を突き刺した。
鱗と鱗の隙間へ。
「そこよ!」
直後。
砂竜が激しく暴れる。
だが胸部の鱗がわずかに開いた。
「今!」
リアンの四つの星が輝いた。
第一。
第二。
第三。
第四。
全てが共鳴する。
蒼い光が天空へ伸びた。
「星よ!」
砂漠の空に無数の光粒が現れる。
「その力を!」
両手を前へ突き出す。
巨大な光の流れが生まれた。
だが。
砂竜の黒い魔力がぶつかる。
押し返される。
「負けない!」
リアンは叫んだ。
すると。
背後から風の力が流れ込む。
「一人でやるな!」
エリシアだった。
精霊たちの魔力がリアンへ集まる。
さらに。
「使ってください!」
ノアも魔力を送り始めた。
アルトも前へ出る。
「行け、リアン!」
サラも笑う。
「外したら怒るわよ!」
そして。
最後に。
ヴァルドが剣を地面へ突き立てた。
黒い魔力が砂竜を押さえ込む。
「今しかない」
リアンは目を見開いた。
敵のはずの男が力を貸している。
その理由は分からない。
だが。
今は信じる。
五人の力。
そしてヴァルドの力。
全てが重なった。
蒼い光が爆発的に膨れ上がる。
「届けぇぇぇぇ!」
光が砂竜の胸部へ突き刺さった。
轟音。
閃光。
そして。
黒い魔力が砕け散る。
砂漠中に蒼い光が広がった。
砂竜の悲鳴が変わる。
苦痛ではない。
解放されたような鳴き声だった。
巨大な身体から黒い霧が剥がれていく。
やがて。
胸の中心から蒼い結晶が浮かび上がった。
第五の星核。
ついに姿を現したのである。
だがその瞬間。
砂竜の身体が崩れ始めた。
「え……?」
リアンの顔が青ざめる。
星核に頼って生きていた守護竜は、その力を失ったことで命の終わりを迎えようとしていた。
砂竜は静かにリアンを見た。
その瞳には感謝が宿っていた。
そしてゆっくりと頭を下げる。
まるで礼を言うように。
夕陽の中。
黄金の身体は無数の光となって空へ消えていった。
砂漠に静寂が訪れる。
誰も言葉を発せなかった。
ただ第五の星核だけが、静かに蒼く輝いていた。
第七話了




