第五話 忘却の砂漠
天空神殿を後にしてから二週間後。
リアンたちは王国南方に広がる忘却の砂漠へ到着していた。
視界の果てまで続く砂。
容赦なく照り付ける太陽。
吹き付ける熱風。
「暑い……」
リアンが額の汗を拭う。
「暑いしか言えない……」
「同感だ」
アルトも珍しく疲れた顔をしていた。
エリシアはぐったりしている。
「精霊たちまで暑がってるわ……」
肩に乗った風の精霊も元気がない。
一方でノアだけは妙に元気だった。
「忘却の砂漠には数多くの古代遺跡がありまして!」
「元気だな」
アルトが呆れる。
「学者ですから!」
いつもの返答だった。
三日後。
一行は砂漠の中央にある交易都市サラームへ辿り着いた。
砂岩で造られた美しい街。
噴水広場。
巨大な市場。
各地の商人たちで賑わっている。
久しぶりの大都市だった。
「今日は宿に泊まれる……」
リアンが感動している。
「野宿続きだったものね」
エリシアも頷く。
ところが。
街の雰囲気はどこかおかしかった。
兵士が多い。
住民たちも落ち着かない様子だ。
「何かあったのかな」
リアンが呟く。
その時。
広場の中央で怒号が響いた。
「離せ!」
若い女性の声だった。
人だかりができている。
リアンたちは駆け寄った。
兵士たちに囲まれていたのは一人の女性だった。
赤銅色の長い髪。
褐色の肌。
鋭い金色の瞳。
リアンたちより少し年上に見える。
「盗賊だ!」
兵士隊長が叫ぶ。
「遺跡から禁制品を持ち出した!」
「違うわ!」
女性も負けていない。
「私は調査していただけよ!」
双方とも譲らない。
だが。
リアンはその女性が抱えている物に目を奪われた。
古い石板だった。
その表面に刻まれた紋様。
見覚えがある。
「星導板と同じ……」
思わず呟く。
女性が反応した。
鋭い視線がリアンを捉える。
「あなた今何て言った?」
兵士たちより先に女性が駆け寄ろうとする。
「止まれ!」
兵士たちが剣を抜いた。
空気が一気に険悪になる。
その時だった。
突然地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……
「なに!?」
人々が騒ぎ始める。
砂漠の外れ。
街の南方で巨大な砂煙が立ち上がった。
あまりにも巨大だった。
城壁より高い。
そして。
砂の中から巨大な影が姿を現した。
「魔物だ!」
兵士が叫ぶ。
全長三十メートルを超える巨大な砂竜だった。
黄金の鱗。
巨大な顎。
燃えるような赤い瞳。
街の人々が悲鳴を上げる。
砂竜は真っ直ぐ街へ向かっていた。
「まずい!」
アルトが剣を抜く。
リアンも走り出した。
兵士も住民も関係ない。
まずは止めなければならない。
ところが。
先に飛び出した人物がいた。
先ほどの女性だった。
「邪魔よ!」
兵士たちを押し退ける。
腰から二本の短剣を抜いた。
次の瞬間。
驚異的な速度で砂竜へ向かう。
「速い!」
アルトが目を見開く。
女性は砂竜の身体を駆け上がった。
一瞬で頭部へ到達する。
そして短剣を振り下ろす。
火花。
だが鱗が硬すぎて通らない。
「ちっ!」
舌打ち。
砂竜が暴れる。
女性は吹き飛ばされた。
「危ない!」
リアンが結界を展開する。
蒼い光が女性を受け止めた。
彼女は驚いた顔でリアンを見る。
「助かった」
「お礼は後で!」
リアンは前を向く。
四つの星核が脈動していた。
この砂竜。
普通ではない。
体内に強い星核の気配がある。
「まさか……」
ノアも気付いた。
「第五の星核です!」
全員の顔色が変わった。
砂竜の胸部。
鱗の奥で蒼い光が輝いている。
第五の星核。
忘却の砂漠に眠るはずの力が、この魔物に取り込まれているのだ。
女性が立ち上がる。
「なるほどね」
短剣を構える。
「同じものを追っているらしい」
リアンを見る。
「私はサラ」
不敵な笑みを浮かべた。
「遺跡探索者よ」
リアンも杖を構える。
「リアン・セレスティア」
「星核を取り戻す」
サラが笑う。
「気が合いそうね」
砂竜が咆哮する。
大地が震える。
こうして忘却の砂漠での新たな戦いが始まった。
そして第五の星核を巡る激闘の幕が上がったのだった。
第五話了




