第二話 天空神殿の試練
白い回廊に一人取り残されたリアンは、目の前に現れた三つの扉を見つめていた。
金の扉。
銀の扉。
蒼い扉。
どれも同じように見える。
だが放つ気配は全く違った。
『一つ選べ』
再び声が響く。
『選択は継承者の意思に委ねられる』
リアンは唇を噛んだ。
「みんなはどこにいるの?」
返事はない。
ただ静寂だけが続く。
胸の奥が不安になる。
アルトは無事だろうか。
エリシアは。
ノアは。
しかしその時、左手の紋章が淡く光った。
三つの星が脈打つ。
そして蒼い扉だけが共鳴するように輝いた。
「……こっちなの?」
扉へ近付く。
すると星導板も光り始めた。
間違いない。
何かがある。
リアンは決意した。
「行こう」
蒼い扉へ手を伸ばす。
その瞬間。
視界が光に包まれた。
次に目を開けた時。
リアンは広大な草原に立っていた。
「え?」
思わず声が漏れる。
天空神殿の中だったはずだ。
だが周囲には青空が広がっている。
どこまでも続く草原。
遠くには村まで見える。
「ここ……」
見覚えがあった。
故郷アストル村だった。
「また幻?」
第一部の試練を思い出す。
だが景色はあまりに鮮明だった。
風の匂いまで再現されている。
やがて村の中から一人の少女が走ってくる。
銀色の髪。
蒼い瞳。
まだ幼い。
十歳くらいだろうか。
「えっ……」
リアンは立ち尽くした。
その少女は。
幼い頃の自分だった。
「すごい!」
幼いリアンは星空を描いた絵を抱えている。
「いつか世界中の星を見に行くんだ!」
無邪気な笑顔。
懐かしくて胸が痛くなる。
忘れていた。
昔の自分は恐れを知らなかった。
誰よりも夢を語っていた。
それなのに。
いつからだろう。
自分には無理だと思うようになったのは。
幼いリアンが振り返る。
そして本物のリアンを見た。
まるで最初からそこにいることを知っていたように。
「どうして泣きそうなの?」
「え?」
リアンは目を瞬かせた。
気付けば目元が熱かった。
「私、泣いてる?」
「うん」
幼いリアンは首を傾げる。
「夢、叶ったんでしょ?」
その言葉に胸が締め付けられる。
「それは……」
叶ったと言えば叶った。
村の外へ出た。
旅に出た。
世界を見ている。
だが。
危険ばかりだった。
苦しいことも多かった。
自信を失うことだってある。
すると幼いリアンが笑った。
「じゃあ大丈夫!」
「え?」
「だって私は諦めないもん」
まっすぐな言葉。
飾りも嘘もない。
「絶対に最後まで行く」
そう言って笑う。
その姿は眩しかった。
景色が崩れ始めた。
草原が光になる。
村も空も消えていく。
最後に幼いリアンが手を振った。
「負けないでね!」
そして世界が白く染まる。
気付くと再び回廊に立っていた。
「今のは……」
『試練を突破した』
声が響く。
『過去を受け入れた者に資格を与える』
前方の壁が開き始める。
轟音と共に現れたのは巨大な階段だった。
遥か上空へ続いている。
「これは?」
『天空への道』
階段の最上部で蒼い光が輝いていた。
第四の星核。
リアンには分かった。
しかし。
その直後だった。
神殿全体が激しく揺れ始めた。
ゴォォォォォン!
「なに!?」
遠くから戦う音が聞こえる。
剣戟。
爆発。
悲鳴。
仲間たちだ。
アルトたちも別の試練に挑んでいる。
そして何者かが神殿へ侵入している。
『警告』
声が響く。
『闇帝国の勢力を確認』
リアンの表情が変わる。
「レオス……!」
『第四の星核が危険に晒されている』
階段の最上部の光が揺らいだ。
時間がない。
リアンは駆け出す。
一段飛ばしで天空への階段を駆け上がる。
仲間たちを信じて。
第四の星核を守るために。
そして階段の頂上では。
銀髪の魔導士レオスが薄く笑いながら待ち構えていた。
第二話了




