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星詠みのリアン  作者: 雨月 玲
第一部 星の継承者
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第十四話 皇帝の剣


 星喰いの巨腕と皇帝ゼルファードの黒剣が激突する。

 轟音が神殿を揺らした。

 衝撃波だけで周囲の石柱が粉々に砕け散る。

「なっ……」

 アルトが言葉を失う。

 リアンも同じだった。

 信じられない。

 あれほどの怪物を、ゼルファードは片手で押し止めている。

 星喰いが咆哮した。

 六本の腕が同時に振り下ろされる。

 だが皇帝は動かない。

 静かに剣を振る。

 一閃。

 黒い光が走った。

 次の瞬間。

 星喰いの腕が三本同時に切り落とされる。

「そんな……」

 エリシアが息を呑む。

 切断された腕は地面へ落ちる前に霧となって消滅した。

 しかし星喰いもただでは終わらない。

 胸の結晶が赤く輝く。

 魔力が集まり始めた。

「まずい!」

 ノアが叫ぶ。

「魔力砲撃です!」

 星喰いの口から漆黒の光線が放たれる。

 神殿を飲み込むほど巨大な一撃。

 だが。

 ゼルファードは左手を上げた。

 黄金の魔法陣が展開される。

 光線は魔法陣へ吸い込まれた。

 そして消滅する。

 完全に。

 跡形もなく。

「嘘でしょ……」

 リアンは言葉を失った。

 ヴァルドが強かった。

 レオスも危険だった。

 だが格が違う。

 皇帝は別次元の存在だった。

 ゼルファードは静かに言う。

「継承者」

 視線は星喰いへ向いたままだ。

「よく見ておけ」

 黒剣が光る。

「星核とは何かを」

 次の瞬間。

 彼の足元に七つの光が現れた。

 リアンは目を見開く。

「星核!?」

 違う。

 完全な星核ではない。

 しかし確かに似た力だった。

 七つの光が皇帝の周囲を回転する。

 それを見た星喰いが初めて後退した。

 恐怖している。

 怪物が皇帝を恐れていた。

「なぜ……」

 リアンの呟きにノアが答える。

「まさか」

 顔面蒼白だった。

「皇帝は星王の技術を再現している……?」

 ゼルファードが剣を構える。

 空間が軋んだ。

「終われ」

 その一言。

 剣が振り下ろされる。

 黒でも白でもない。

 金色の光が奔流となって放たれた。

 神殿全体を埋め尽くす閃光。

 誰も目を開けていられない。

 そして。

 静寂。

 ゆっくりと光が消える。

 そこには。

 何もなかった。

 星喰いは消滅していた。

 一撃だった。

 たった一撃で。

 神殿には深い静寂が落ちる。

 誰も言葉を発せない。

 ゼルファードだけが変わらぬ表情で立っていた。

「化け物……」

 アルトが小さく呟く。

 皇帝は聞こえていたはずだが否定しない。

 ただ第三の星核だった結晶の欠片を見る。

「間に合わなかったか」

 その声に僅かな悔しさがあった。

 リアンは気付く。

 この男は本気で星核を壊したかったわけではない。

 何か別の目的がある。

 まだ分からないが。

「あなたは何者なの?」

 リアンが問い掛ける。

 ゼルファードは初めて彼女を真っ直ぐ見た。

「その答えはまだ早い」

「どうして?」

「お前はまだ二つしか星核を持っていない」

 皇帝は静かに続けた。

「七つを集めた時、全てを知ることになる」

 その時。

 神殿の奥から蒼い光が立ち上った。

 星喰いが消滅した場所だった。

 砕けたはずの第三の星核。

 その中心に小さな光が残っている。

 リアンの紋章が激しく輝いた。

「リアン!」

 アルトが叫ぶ。

 光がリアンへ飛ぶ。

 避ける間もない。

 第三の星核の核片だった。

 それはリアンの胸へ吸い込まれる。

 莫大な力。

 膨大な記憶。

 知らない景色が脳裏へ流れ込む。

 巨大な城。

 七つの星。

 涙を流す王。

 崩壊する世界。

 そして。

 一人の青年。

 黄金の瞳。

 黒い髪。

 若き日のゼルファードだった。

「え……?」

 リアンは息を呑む。

 その記憶の中で。

 若き皇帝は星王アストラルと共に立っていた。

 まるで仲間のように。

 いや。

 それ以上に親しい存在のように。

 次の瞬間。

 記憶は消えた。

 リアンは膝をつく。

「今のは……」

 顔を上げる。

 だがゼルファードの表情は変わらない。

 しかし黄金の瞳だけが僅かに揺れていた。

 まるで。

 見られたくない秘密を見られたように。

 そして彼は背を向けた。

「次に会う時まで生き延びろ」

 黒い霧が広がる。

「継承者」

「待って!」

 リアンが叫ぶ。

 しかし霧は皇帝を包み込む。

 その姿は闇の中へ消えていった。

 神殿にはリアンたちだけが残される。

 そしてリアンの左手の紋章には。

 三つ目の星が刻まれていた。

 第三の星核。

 その継承が完了したのである。

第十四話了

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