第十三話 皇帝ゼルファード
地下都市アルテシアの最深部。
リアンたちは蒼い光の柱を追って走っていた。
崩壊しかけた遺跡の中を進みながらも、誰一人足を止めない。
第三の星核が近い。
それは全員が感じていた。
しかし同時に。
これまでに経験したことのない圧力が空気を支配していた。
「息が苦しい……」
エリシアが胸を押さえる。
精霊たちも怯えていた。
リアンの紋章も激しく明滅している。
まるで危険を警告するように。
やがて巨大な神殿へ辿り着いた。
高さ数十メートル。
無数の石柱が並ぶ荘厳な空間。
その中央に。
蒼く輝く巨大な結晶が浮かんでいた。
「第三の星核……!」
リアンが息を呑む。
間違いない。
だが視線は自然と別の人物へ向かった。
星核の前に立つ男。
長い黒髪。
漆黒の外套。
黄金の瞳。
ただそこに立っているだけで空気が震えている。
男は静かに振り返った。
「ようやく会えたな」
低い声。
不思議なほど落ち着いている。
だが圧倒的だった。
リアンは無意識に身構える。
「あなたが……」
「ネメシス帝国皇帝」
男は小さく微笑んだ。
「ゼルファードだ」
神殿が静まり返る。
闇帝国の皇帝。
世界最大の敵。
その本人が目の前にいた。
アルトが前へ出る。
剣を抜く。
「下がれ、リアン」
だがゼルファードは動かなかった。
敵意も見せない。
ただ静かにリアンを見つめている。
「二つの星核を得たか」
「どうして星核を狙うの?」
リアンは問い掛けた。
ずっと聞きたかったことだった。
「世界を滅ぼすため?」
ゼルファードはゆっくり首を横に振る。
「逆だ」
「え?」
「救うためだ」
全員が言葉を失った。
皇帝は続ける。
「お前は世界を守るために星核を集めている」
「それは正しい」
「だが真実の半分でしかない」
リアンの胸がざわつく。
星王アストラルも似たことを言っていた。
真の敵は闇ではない。
人の願いだと。
「何を言っているの?」
「星核は世界を守る力だ」
ゼルファードの黄金の瞳が揺れる。
「同時に世界を縛る鎖でもある」
「鎖……?」
「いずれ分かる」
そう言って第三の星核へ視線を向けた。
その時だった。
星核が突然激しく輝き始める。
ゴォォォォォォ―――。
神殿全体が揺れる。
無数の亀裂が結晶表面に広がった。
「まずい!」
ノアが叫ぶ。
「星核が暴走している!」
ゼルファードも眉をひそめた。
予想外だったらしい。
「レオスか……」
小さく呟く。
次の瞬間。
第三の星核が砕けた。
轟音。
閃光。
そして。
そこから巨大な怪物が現れた。
全長二十メートル。
黒い鎧のような外殻。
六本の腕。
全身に蒼い結晶が埋め込まれている。
「何よあれ……」
エリシアの声が震えた。
ノアが顔面蒼白になる。
「古代文献に記録があります……」
「星喰い……」
怪物が咆哮した。
神殿の柱が一斉に砕け散る。
圧倒的な破壊力だった。
「下がれ!」
アルトが叫ぶ。
だが。
星喰いは一直線にリアンへ襲い掛かる。
速い。
避けられない。
その瞬間。
黒い影が割り込んだ。
ガァァァン!
轟音。
ゼルファードの剣が怪物を受け止めていた。
リアンは目を見開く。
「どうして……」
皇帝は振り返らない。
「死なれては困る」
そう言い放った。
そして黄金の瞳が輝く。
「見ているがいい、継承者」
闇帝国皇帝ゼルファード。
その本当の力が解き放たれようとしていた。
第十三話了




