それぞれ
一日遅れの投稿となってしまいました!
台風、来てますね…
平日に来ないことを祈るばかりです
最高だった。
見事、海山は全国大会の大トリを飾り終えた。
本当に、本当に素晴らしい演奏だった。
俺も、みんなも笑ってる。
結果はどうであれ、俺やみんなが成長したのは間違いない。
(みんなに感謝だな。
写真撮影を終え、大急ぎで楽器をトラックに積み込み、会場へ戻った。
7ヶ月間の努力が、結果となって帰ってくる。
俺としては部員のおかげで多くのことを体験できた。
全国大会金賞を狙ってここまでやってきた。
みんなは誰よりも強く願っているが、俺だってそれに負けないくらいに望んでいる。
「14番。海山高等学校。」
会場内は水を打ったように静かだ。
俺の心臓の音しか聞こえない。
(頼むっ…!)
「ゴールド金賞。」
拍手が会場を包んだ。
聞こえてくるのは、喜びの叫びではなく、喜びのすすり泣きの音だった。
会場を出ると、部員の親御さん達が迎えてくれた。
各々が親に感謝を伝える。
この年頃、親に素直に想いを伝えるのは難しいことだが、吹奏楽部はそれさえも乗り越えられる。素晴らしいものだ。
「よーし!帰るぞっ!」
((はーいっ!))
〜〜〜~~〜〜~~~~~~~~~~~~~
やった。ついにやったんだ!
僕はバスの座席でひとり喜びを噛み締めていた。
みんなは帰りのバスの中、ぐっすり眠っている。
大体学校につくまで4時間はかかる。
新幹線を使えばあっという間なのだが、部費は限られている。
こういうことも、今日で最後だけど。
(…まだ実感ないなぁ…これで仮引退か…)
今日を以て僕達3年生は受験に向けて仮引退となる。
僕の志望校は、日本で三指に入る名門校だ。
(受験、頑張ろ。)
帰りのミーティング。
「えー、今日で3年生は仮引退だ。祐也、最後の部長の話だぞ。」
「はい!先生。」
「今日は『仮』引退だから、僕しか話しません。
今日はお疲れ様でした!僕達にとって大きな1歩を踏み出せたんじゃないかな?
これから1、2年生はアンサンブルコンテストと、新人戦があるね。どれも大変なことだけど、遠くから応援しています!
では!また3月に!」
また会える、というのにみんなの目からは涙がこぼれていた。
荷物と気持ちをまとめ、帰ろうとした時
「祐也!!!」
「沙奈!」
「言ったよね!お願いごとがあるって!」
「う、うん」
沙奈があまりに大きな声を出すので先生も部員もこちらを見ている。
沙奈はそれに構わず深呼吸をして、口を開いた。
「ずっと前からすきでした!私と付き合ってください!」
「えええっ!?」
周りが騒然とし始めた。
先生に至ってはフリーズしている。
もう1度沙奈を見た時、僕の心が苦しくなった。
(あれ…?沙奈、いつもより可愛い…)
そっか。
僕は沙奈のことが好きだったのか…。
沙奈の手を取った。
「うん!こちらこそ、よろしくね!」
((ふぅーーーーっっっっ!!))
みんなでバカ騒ぎしていると先生が手を叩きながらこっちへ来た。
「はいはいはーい。青春したことない先生の前でそんなことやっちゃダメでしょー!帰んなさいもう!」
((先生彼女いないのー!?))
「生まれてこのかたな!」
((沢本せんせーはどーなのー??))
「んん…それは…いいかも…」
((きゃー!!似合わねー!!))
「うっせー!はよ帰んしゃい!」
こうして僕達3年生の挑戦は終わった。
帰り道。
……
(どうしよう…何話せばいいんだろう…)
沙奈と2人で帰っているものの、いつものように話せない。
(やっぱりここは僕が…)
「きっ今日楽しかったね!」
「う、うん…」
……
(お互い付き合うのは初めてだもんな…お兄ちゃんに相談してみよ。)
「ねっねぇ?」
「ん、なに?」
「あの…TWO OK ROCKってバンド、知ってる…?」
ツーオクの略で知られる超人気ロックバンドだ。ちなみに僕大ファン。
「うん!ファンクラブ入ってるよ!」
そう言ったら、沙奈の顔がぱぁっと輝いた。
「えっ!ほんと!?私もなんだ!」
「そうなんだ!前の全国ツアー行ってきたよ!」
「ええっ!チケット当たったの!?いーなぁー」
「今度一緒にいこうよ!」
「やったぁ!いこいこ!」
こりゃ受験勉強との両立、頑張んなきゃね。
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みんなを返した後、俺は音楽準備室でひとり座っていた。
新人戦の曲を決めなければ。
新人戦は夏のコンクールのように課題曲と自由曲に分かれる。
課題曲は歴代のコンクールの課題曲から選び、演奏する。
これがまたとんでもなく迷うのだ。
どの年度のコンクールにも「マーチ」と言われる行進曲があるのだが、一つ一つ聞いてみると同じように見えて少し違ったり、中には雰囲気がらっと違うものもある。
俺が聞くに年度が古くなっていくほど、シンプルかつ難易度が上がる。
部員の得意分野で攻めていきたいよな。
自由曲はもう既に決まっていた。
完全に一目惚れだった。
彼らにはこの曲が、他のどんな曲よりも似合っている。
よし!
「課題曲は、これだ!」
翌日。
今日は本番お疲れ様の意味での休みだ。
といっても俺はすべきことがあるが。
「あ!立花先生ですね!どうぞ!」
今日は、とある楽器屋さんに来ていた。
都会にある大きな店ではなくて、知る人ぞ知るというような感じで、不思議と居心地がいい。部費で買った楽器のメンテナンスをお願いしていた。
「メンテナンスの方は、終わりましたか?」
「それが…まだ。すみません…」
「大丈夫ですよ。こちらこそ昨日お願いしてしまってすみません。」
「いえいえ!あ、良ければ見学されて行きますか?」
「じゃあ是非!」
作業場の扉を開けると、60歳後半くらいの方がコントラバスのメンテナンスをしていた。
「失礼します。」
「おう。あんたが顧問やってるとこのか。」
「はい。無理言ってこんな早くにやってもらってありがとうございます。」
「いいんだよ。暇ぶっこいててもパ〇ドラしかやることないんだから。」
(あれ、意外と近代的…)
「そう言えば、お名前を伺っても良いですか?」
「俺は田中 マイケル 哲三だ。」
「…へ?」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「俺はクォーターなんだよ。まっ気軽にマイケルって呼びな。」
「いえ!田中さ…」
「マイケル」
「たな」
「マイケル」
「…マイケルさん」
「おうなんだ?」
どの角度からみても純日本人だ。
俺もクォーターって言ってもバレなさそうだな。
「マイケルさんはいつからこのお仕事を?」
「22の頃からだ。」
マイケルさんは他の職人さんと一線を画すほどの腕前を持っていたらしく、海外の楽器屋さんやプロ楽団の専属調整人もやっていたそうだ。
「まー今はそんな体力ねーけどな。」
「はは…」
「にしてもあんたの部員さんは楽器に優しいな。」
「そうなんですか?」
「あぁ。プロ気取ってる偉そうなやつよりも数倍丁寧な扱いをしてるよ。」
「それは言い過ぎですよ。」
「言い過ぎじゃねぇよ。ほら、確かに傷は付いちゃいるが、手汗とか演奏中に付着する水分とかは完璧に拭き取ってあるし、何より楽器が暖かい。」
「暖かい…?」
「そうだ。奏者の楽器に対する優しさっつーのかな。言ってしまえば楽器に意思はねーよ。でも生き物だと思って接すれば、お互い愛着が湧くんだよ。」
「へぇー…」
「お、分かってねぇ声だなぁ?」
「あはは。僕も楽器を始めてみたら、分かるものなんですかね?」
「人次第だろ。そもそも人にあれこれ思想を押し付けたり、物を丁寧に扱えないやつに音楽をする資格はないと思うがね。」
「なるほど。精進します。」
「ほーら。できだぞぉっ!」
見違える程ではないが、さっきマイケルさんが口にした楽器の暖かみというのがすこしわかった気がした。
「ありがとうございます。」
「明日早朝に送るよ。この子を使ってるやつに伝えとけ。仲良くしろよって。」
「必ず。」
「ありがとうございました!」
(今日はいい経験したなぁ…)
音楽っていうのは奥が深い。
よーし!うまいもん食べて帰るか。
秋が深まる空。
また新しいことが俺を待ってる。




