やりきるぞ!
どうもおはこんばんにちは!
海街真衣です!
素人マエストロ、第1部的な括りは佳境を迎えています!
これからもお楽しみに!
文博の家を飛び出し、俺は学校で真央の連絡先を持っている人を血眼になって探した。
案外すぐ見つかったが。
(真央。立花だ。もし時間があれば、午後6時に学校の屋上まで来てくれ。)
まるで告白でもするのかというような文だが、残念ながらこれ以上の文章を作ることは出来なかった。
一足先に屋上でまっていると、ドヴォルザークの「新世界」、もとい「遠き山に日は落ちて」
が流れた。
ぼーっと聞き入っていると、屋上の扉が開く音がした。
「来ました。」
「おぉ、真央。来たか。」
「何のようで?」
顔はあの時のように暗い顔だ。
「今日、本当にどうしたんだ?」
「…別に、なんでもないと言ったはずです。」
「あのなぁ、お前は俺の大事な部員の1人だ。何でもないで済ませると思うなよ?」
真央ははぁ…と溜息をつき、夕焼けを見ながら話し始めた。
「皆は、練習すればするほど音もよくなるし、心意気も変わっています。でも、私は音色も、心意気も何一つ変わっていない。」
真央の目から涙がぽたぽたと垂れた。
「私だって練習してるのに!なのに…なんで…なんでよぉ…。」
やはり、彼女はスランプに陥っていたのだ。
確かに多くの人が支部大会を通して爆発的に成長した。
その中でも埋もれることのなかった真央は素晴らしいのだが、まわりの成長にプレッシャーを感じていたのだろう。
「なぁ真央。好きか?」
「…え?」
「ホルン吹くこと、好きか?」
「うん…。」
「じゃあ、大丈夫だ。」
「どういうことですか?」
「よく聞けよ真央。音楽をやってて一番辛い事はな、その楽器を吹くこと、奏でることが好きじゃない事だ。
お前は今、大変なことと向き合っている。
でも、そんなこと忘れて、今はこうして音楽ができることに感謝して、思いっきり楽しめばいいじゃないか。」
真央の透き通った目がじいっと俺の目を見つめてくる。
「うん…ありがと。」
「おう。じゃあもう帰りな。呼んで悪かったな。」
「うん。…先生、思ったよりイケメンだね。」
真央が頬を赤らめながら去っていった。
(イケメンだったら彼女くらいいるだろうな…)
そんなことを考えながら文博の家へと戻った。
「おーおかえりー。ちゃんとつたえられたー?」
「おう。お陰様でな。」
「あ!一義!」
家の奥から文博よりも大きい女性が顔を出した。
「おおー!乃愛!久しぶり!」
「うんっ!」
乃愛は文博の奥さんであり、プロのトロンボーン奏者だ。
とある事情があって高校時代、文博は3年間も乃愛の事を待ち続けていた。
とにもかくにも一番いい関係になれた訳だが。
「今日泊まってきなよ!」
「うん。そうさせてもらうよ。」
「お、乃愛〜変なことすんなよー?」
「しないっつの!」
2人が爆笑しているのをみていると微笑ましくなる。
いつまでもこうあって欲しいものだ。
3人で夕飯を食べていると、乃愛が口を開いた。
「ねぇ文博!後でドカ〇ングランプリやろうよ!」
「おお!それいいな!」
俺が不思議そうな顔をしていると、文博がかつて動画で投稿していたゲームと、教えてくれた。
スゴロクRPGらしく、内なるゲスが出てくるとか出てこないとかという邪悪なゲームらしい。
夕飯を食べ終え、ゲームをしながら3人で爆笑していたら、既に2時だった。
やべー。明日から部活なのに。
「俺、寝るわ。」
「ん?ああ。明日から部活だもんな。おやすみ。」
「お前は寝ないのか?」
「ああ。動画の編集するからな。」
「乃愛は寝ないの?」
ソファーに座っていたはずの乃愛に目を向けると気持ちよさそうに寝ていた。
「乃愛を抱っこするの、大変なんだよな…。」
想像してつい笑ったら、文博に叩かれた。
こうして俺の休日は終わった。
翌日。
1日でも休日は効果てきめんだった。
みんなスッキリした顔で練習に打ち込んでいた。
全国大会は10月12日。
今日は9月22日。
日数はあるように見えるが実際時間はない。
涼が仕切ってくれてるが、曲の方に関しては俺と部員で横一列に進めている。
翌日はホールでの練習なので、今のうちに詰めるところは詰めたい。
みんなの集中力もかなり高いところまで来ていた。
練習が終わり、俺は明日のためのスペシャルゲストたちに電話した。
彼らには最後の最後まで上へ登ってほしい。
だからこそ、俺も人脈をここまで広げた。
(よし。帰るか。)
俺は意気揚々と帰路についた。
翌日のホール練。
朝も早めに運搬が完了し、ホールへ赴いた。
午前中は何事もなく練習を終えた。
午後、スペシャルゲストが来る時間だ。
「よーし。今日はこのホール練のためにゲストを用意した!」
部員たちがざわつき始めた。
「どうぞ!」
扉が開き、顔が見えた瞬間にみんなの悲鳴が轟いた。
入ってきたのは、前顧問の沢本先生、OBの松浦 慶太君、杢先 綾加さんだ。
そしてここからが本物のスペシャルゲスト。
40人近くの人たちがぞろぞろと入ってきた。
その瞬間、皆は驚きのあまり静まり返ってしまった。
入ってきたのは日本で最も上手いとされるプロ吹奏楽団、橋吹の愛称で知られる橋本吹奏楽団だ。
ここに辿り着くまでにどんなに時間をかけただろうか。
「あ、どーも。」
沈黙を破ったのは橋吹指揮者の五島 隆さんだ。
ヴァイオリンにも長けていて、かつては超有名ソリストだった。
「こちらがゲストの皆さんです!拍手!」
俺が拍手を促した刹那、拍手の音が耳をつんざいた。
頑張ったかいがあった。
俺たちには支部大会当日に決めた目標がある。
「世界に通用するクオリティを目指す」
いつか、カーネギーホールで、オペラハウスで高校生が音楽をする時が来るかもしれない。
それが俺たちなのかもしれない。
いや。
俺たちでありたい。
その為に俺は世界を舞台にする吹奏楽団、昔から親しみのある先生や、先輩を呼んだ。
これで協力してくれる方々は揃った。
まずは全国大会だ。
この夢を叶えるのは、俺たちだ。
「みんな!やりきるぞ!」
(((はいっっ!!)))




