好きなこと
どうもおはこんばんにちは!
海街真衣です!
最近は寒暖差がとんでもないですよね…
体調管理には気をつけて!
支部大会当日。
全国に行きたいか、問うたあの日からここまで早かった。
1人1人が必死に練習し、人数的に出場出来なかった1年生たちも、手厚くサポートしてくれた。
程よい緊張感で、当日に持ち込めた。
今は楽器準備室にて、チューニングの準備をしている。
みんなの顔が今まで以上にかたい。
去年の敗北の記憶が蘇ったのか、みんなの表情が暗かった。
去年俺はいた訳では無いから、なんと声をかけようかオタオタしているうちに、チューニングの時間が始まった。
今回、海山は12校中7校目という微妙な順番だ。
微妙だからこそ、審査員に存在感をアピールしなくてはならない。
そんな状況からも、緊張が来ているのだろう。
舞台裏スタンバイの前に、突然祐也が前に出て話し始めた。
「みんな、ここまで来たね。」
空気がしーん…と静まり返る。
「みんなの力でここまで来たんだ。自分と楽器に自身を込めて!」
みんなの表情が和らぎ、凛々しくなった。
「ここからが本当の勝負だよ。必ず全国に行こう。」
皆がそろって力強く頷いた。
「全国!行くぞー!」
(((おぉーっ!)))
祐也の一言でみんなの雰囲気が変わった。
思えば、1人1人がよくぞここまで成長したなと実感した。
花菜は、もういつかのあがり症はなくなり、笑顔で打ち解けるようになっていた。
奈津子と涼も上手くいっているし、今のサックスパートは他に負けない力を持っていると思う。
紗奈はいつも通りの元気でみんなを引っ張ってきた。
一瞬の挫折を糧に、より人の気持ちを、耐える心を強くした。
そして、祐也はここまで本当に強くなった。
紗奈に強く当たられたり、涼から厳しい言葉を受けて泣いていた時もあった。
それを全て乗り越え…今では唯一無二の海山吹部の部長だ。
色んな想いに浸りながら、舞台へと向かった。
俺が指揮棒を掲げる。
緊張の瞬間…でもこれが気持ちいいほどに楽しい。
指揮棒を振り下ろすと同時に、演奏が始まった。
全国に、いくぞ。
演奏が終わり、それぞれが満足気な笑みを浮かべていた。
お互いハイタッチを交わしたり、楽しげに話したり。
みんなの中でも、上々の演奏だったらしい。
その中に、1人暗い顔をしている子がいた。
3年生のホルンパートの子だ。
平田 真央さん。
伸びやかな音が特徴的で、何よりホルンパートだけでなく、その他の中低音楽器を引っ張ってくれている。
何かあったのだろうか。
話を聞こうかと思ったが、時間とスタッフに押され、聞く暇がなくなってしまった。
しばらく他団体の鑑賞をしていたのだが、真央のことが気になって鑑賞どころでは無かった。
気付いたら、もう結果発表の時間だった。
いかんいかん。気持ちを引き締めないと。
第一関門である金賞は危なげなく頂いた。
しかし、これからだ。
全国の切符を手に入れられなければ、俺達の夢は果たせない。
「それでは、全国大会への推薦団体、2校をプログラム順に発表します。」
ホール中につばを飲み込む音が聞こえる。
「8番。青葉学園高校。」
(((きゃーーっ!!)))
耳をつんざく歓喜が、ホールいっぱいに響き渡った。
海山の子達は手の血が止まるんじゃないかと思うくらいに握りしめている。
去年のように悲劇は起こしたくない。
頼むっ…みんなを全国に行かせてくれっ…
「9番。うみや…」
(((キャーーーっ!やったーっ!!)))
審査員が学校名を読み上げる前にホールは喜びでいっぱいになった。
俺は腰が抜けてしまった。
海山は、雪辱の全国出場を果たした。
帰りのバスではみんな疲れきって眠っていた。
ふとバスのバックミラーに目を向けると、真央が悔しげな、そして悲しそうな顔で風景をぼーっと、眺めていた。
本当にどうしたのだろうか。
学校へ戻り、片付けを終えて俺は準備室に真央を読んだ。
「真央、今日何かあったのか?」
「いえ、何も無いですよ。」
素知らぬ顔で真央は返す。
「本当に大丈夫か?」
「…大丈夫ですよ。気にしないでください。」
そう冷たく言い残し、彼女は帰っていった。
どうしても気になった俺は、片っ端から音楽について調べた。
結果、俺は『スランプ』という言葉にたどり着いた。
これは勉強でも、ほかの事でも起きることだが、いわゆる伸び悩みだ。
実際わずかながらだが確実に成長している。しかし。本人からしたら一切成長していないと思い込み、そこから生まれる悩みによって普段通りのパフォーマンスが出来ない状態の事だ。
実力があればあるほど、それに陥りやすいらしい。
真央は音大を志望校として、小学生の頃からホルンに触れていたらしい。
そりゃスランプにも陥るわ。
何とかスランプから抜け出させてあげたいが、俺は策がまったく思いつかなかった。
考えていても時間が進むだけで、翌日の休日になってしまった。
本当は練習したいところなのだが、さすがにここまでぶっ続けで活動していて、疲れていない人はいない。
1日でも休んで欲しかったために無理やり休みを作った。
みんなからはとんでもないくらいの批判を受けたが。
休みを使って、俺は久々に友達の家へと遊びに行った。
「よう。文博。相変わらずゲーム好きだなぁ。」
「おぉ!一義!いつも通りで安心しただろ。」
「あぁ。」
文博は、小一からのゲーム好きがこうじて、sharetubeという動画サイトでゲーム実況者として活動している。
文博のチャンネルの登録者数は日本で3位を誇っており、一切顔出しせずに活動している。
「相変わらずFPSか?」
「うんにゃ、RPGとアクションにも、手をつけ始めたよ!最近はレトロゲームにも魅力を感じるねぇ。」
「はっは。よくわかんねぇ。」
「お前はゲーム、あまりやらなかったもんなぁー。」
「親が許してくれなくてな。お前んとこの親は甘いんだよ。」
「おかげで舌も甘党さ〜」
訳の分からない会話をするのが本当に楽しい。
初めて俺が友達と認識したのも、文博だ。
今は大画面でFPSゲームに興じている。
眺めていたらいつもの彼らしくなく、3回戦連続で負けてしまった。
俺なら汚い言葉を発してしまいそうだが、彼は違った。
「あらら〜」 、「おっ!やるなぁ!」
誰かも分からない相手を褒めたり、どんなことが起きても汚い言葉や、苛立ちを見せるようなことはしなかった。
「なぁ文博。」
「うん?」
「お前、そんな負けっぱなしで悔しくないのか?」
「そりゃー悔しいよ!でもゲームが好きだから、そんな小さいことでキレたりなんてしないよ。」
「ふーん…あ、じゃあさ、お前ほどの実力者なら、スランプに陥ったこともあるんじゃないか?」
文博は少し悩みつつ、1人で相手5人を一斉に倒してから答えた。
「そりゃーあるっちゃあるよ?でもねー別に気にならないよー。」
「なんでー?」
「だって、スランプだなんだっていっても、それが本当に好きなら続けてるもん。大事なのは好きかそうじゃないかだよ。」
「まぁ、確かにそうだな。」
「でしょ?好きを貫ける人こそ、さらに上達できるんじゃない?」
「よしっ勝った!」と喜ぶ文博を尻目に俺は真央の顔が浮かんだ。
今も、悩んでいるのだろうか。
「なぁ、少し出かけてきてもいいか?」
「どうぞ〜。大切な部員に、いいこと言ってやれよ。」
「お前は相変わらず勘はするどいな。」
「何年友達だと思ってんだ。」
「そうだな。」
そう言って俺は、真央を探しに行った。




