予告状 4枚目 生徒会長は悪役令嬢? 後編
「エレン!君がこんなことする女性だと思わなかった!婚約破棄だ!!」
ざわざわと生徒たちが食堂の階段の上にいるエレン会長と、階段から転げ落ちて足にケガをしたアストラの肩を抱くエレン会長の婚約者の男の様子を見ている。
突然大きな音と叫びから始まった事件に同じ食堂にいたルーシーは昼食をのどに詰まらせ咽てしまった。
「私は突き落としてなどいません。彼女が足を滑らせてしまったのですわ。」
エレン会長はいつものようにドジをしたと呆れていた。
「君は毎日平民のアストラを非難しているのを皆見ている!」
「それは彼女が―」
「人を見下すのをやめろ!同じ貴族院の生徒会員として恥ずかしいよ。…保健室に行こうアストラ。」
エレン会長の婚約者はアストラを抱き上げ食堂を去っていった。
「なんということ…会長!私共は見ておりましたし、会長がそんな非道なことをする方だと思っていません!!」
「そうですわ!誤解を解くよう私もご協力いたします」
エレン会長をよく知っている人は味方になってはいるが、生徒会と関りを持っていない生徒たちはエレン会長の優しさは知らず、アストラが今まで広めた嘘の評判を信じているようだった。
「皆さまお食事中に騒がしくして申し訳ございません。私は退場いたしますわ」
引き留める生徒がいたが、エレン会長は生徒会室で食事をとると言って出ていった。
生徒会長がいなくなった後、一斉に生徒たちは騒ぎ出した。
「ついに婚約破棄を告げられたわね」
「学校の評判でエレン様の家にかかわっている人の家の経営も悪くなってるそうよ」
「ざまぁないわね」
これはルーシーにとって由々しき問題だった
エレンの評判が落ちる→幼馴染のレイヴンも評判が落ちる→レイヴンが働いているルーシーの店の評判も落ちることになるのだ。
ルーシーは昼食をかきこんで勢いよく立って食堂を後にした。
アストラを成敗できる要素があるか探ったが、付け入る隙がなかった。
「盗み一つしてくれたらいいのだけれど…」
犯罪は起きないのがいいのだが、現状それくらいしてほしいと思うくらいエレン会長の立場が急速に悪くなっていた。
廊下を歩いているとある扉の前で教師たちが騒いでいた。
「大変だ!!金庫に保管していた大魔法石が無くなった!!」
教師の一人が盗難で騒いでいる。
ルーシーは中をのぞくと中央のオブジェの中に浮いていた石が消えていることが分かった。
「入室記録を確認しろ!」
「先生!部屋の中にこれが…」
女性教師が何かを見つけて他の教師に見せた。
すぐさま校長室に容疑者としてエレン会長が呼ばれた。
校長先生の机の上にエレンの家の紋章が入ったハンカチが置かれる。
「これに見覚えは?」
「…私のハンカチですわね」
魔法石を保管する部屋に落ちていたそうだ。
エレン会長は無実を訴えるも受け入れてはもらえず、学校側から停学処分と禁固刑を言い渡されたのだった。
エレンの生家のマクリー家にも家宅捜索が入るという。
ルーシーはエレン会長が物を盗むような人ではないと思っていた。
しかし、魔法石の倉庫は教師か、教師が信頼した人物・貴族院の生徒会の人間だ。
あのハンカチどこかで――。
ルーシーは思い立ったある人物を追跡した。
魔法学校の女子寮 ー夜ー
「ふふふ…これでダンが喜んでくれるはず…明日やっと認めてもらえる。あのムカつく女もいなくなってくれて最高だわ」
アストラはベッドの下から袋を引っ張り出し、中身を確認すると、それは今日盗まれた巨大魔法石だった。
約束の時間まで隠し通すため、丁寧に元の場所に戻そうとした時。突如大きな音を立てて部屋にガラスの破片が散らばった。
「なっ何!?」
部屋の中心には一枚の小さな紙が床に刺さっていた。
アストラはその紙を確認すると『今宵、魔法学校の大事な魔法石を頂きに参ります。怪盗クラヴィス』と書かれていた。
「(なんで私が盗んだことが怪盗にばれているの!?ダンにすぐに渡しに行かなきゃ!)」
「すごい音がしたけれど、大丈夫?」
騒音を聞き付けた寮生がアストラの部屋に尋ねてドアを叩く。
アストラは慌てて魔法石を隠し、滑って窓に突っ込んだと皆に嘘の説明をして部屋に返した。
寮が完全消灯され、皆が寝静まった頃、アストラは魔法石を抱いて寮から抜け出した。
それを高い場所から見ていた怪盗クラヴィスはアストラの後を追う。
「(ダンとやらがアストラを入学させて魔法石を盗ませる計画を指示したのかもしれない。彼女だけを捕まえても問題解決にはならないわ…。警察を呼ぶにしてもどう説明を――)」
「待ってくれ!!」
振り向くとそこには屋根を上っているレイヴンがいた。
怪盗はびっくりしてとっさに逃げようとしたが、レイヴンが怪盗に向かって投げよこした。
「これでエレンを、俺の幼馴染を救ってくれ!!窃盗団はこちらで対処する!」
「……確かに受け取ったわ」
怪盗はそれを受け取り確認すると、勝利を確信したのかにやりと笑いアストラの後を再び追った。
「頼むぞ、怪盗クラヴィス」
レイヴンは怪盗を見送ると、すぐさま次に向かう場所に走っていった。
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どんどんと下町の入り組んだところの建物のドアを叩くアストラ。
暫くすると無精ひげのごろつき男が一人出てきた。
「ダンを出して!今すぐ!」
「はあ?ダンは今いねぇぞ。」
「今すぐ呼びもどして!これを持ってきたの!」
アストラは男に盗んできた魔法石を見せた。
「おお…渡してくれたら俺が届ける。金は明日の約束の時間だ」
「ダンに直接渡したいの。ダンが来ないなら渡さないわ」
アストラはすぐさま魔法石を抱きしめ、ごろつき男から離れた。
「…わかった、通信を入れるから中で待ちな」
アストラと男が中に入ろうとした瞬間、夜空にドンと大輪が咲いた。
「善を行う美しき花を陥れ、甘い蜜を吸う醜い虫は卵から根こそぎ駆除しに参りました。怪盗クラヴィスただ今参上!」
「っ中にいるやつら全員逃げろ!」
男が叫んだと同時に、陰から一斉に警官たちが現れ取り囲んだ。
予想していなかったことに、怪盗クラヴィスは一瞬固まってしまったが、すぐに立て直した。
「(レイヴンがすでに警察を呼んでくれていたんだ…さすが私の助手!)」
アストラは魔法を使い、警官たちを吹き飛ばし一人逃げだした。
「こらこらダメでしょ」
「ひっ」
怪盗はアストラより先回りして前に立ちふさがった。
流石魔法力は百年に一度の逸材とか言われているのもあって一年生なのに強力な風魔法を怪盗に向かって放った。
しかし怪盗は鍵型ステッキを一振りでかき消した。
アストラは何度も魔法を発動するが、怪盗には一切足止めにもならない。
「わっ私は言われたとおりにやっただけ!これも返すわ!だから命だけは…っ」
「盗んだもの渡されたからって、許せると思う?貴方のせいで店の評判が落ちる危機だったのよ。彼にも苦労させて…ちゃんと牢屋で反省しなさい!」
怪盗は魔法で数頭の牛を空中に出現させ、アストラの頭めがけて落とした。
ズドドドンと大きな音を立て直撃したアストラは大けがを負ったかと思ったが、ひとつも怪我がなく泡を吹いて気絶していただけだった。
「ただのイリュージョンよ。…さて、後は警察にまかせましょうか」
怪盗はアストラをロープで巻き上げて、地面に転がしたままその場を去った。
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翌日、学校は大騒ぎとなった。
学校中の壁に写真が大量に貼られるといういたずらがあったのだ。
その写真には学校の備品を質に入れたり、誰かに手渡しているアストラが写っていた。
アストラは学校の備品を壊した後、その破片を魔法で修復し売りさばいていたのだ。
そのことからエレン会長が無実無根と分かり、復学できることとなった。
今でも彼女は生徒会長を務めている。
なお、エレンに婚約破棄と一方的に告げた婚約者の男は、エレンの家の方から正式な婚約破棄を言い渡され、両親の怒りをかったという。
さらに分かったことに元婚約者はアストラに騙され、魔法石の倉庫に彼女を入れたことがわかり、大問題となった。
彼には廃嫡のうわさが流れていて、元婚約者は真っ白になっていた。
これにてようやくエレン会長を悪役に仕立てた事件が幕を閉じた。
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マクリー邸の庭にて
「本当に大変だったわ。もうあんな目に会いたくない」
「君の無実が晴れてよかったよ、エレン」
レイヴンとエレンは数年ぶりのお茶会をしていた。
エレンは制服とは違い、美しい青いドレスを着て、レイヴンの方はルーシーの店の時よりずっと高価な服装で座っている。
「何もしてないのに悪役に仕立て上げられるなんて…。」
「いつも言っているだろう?正論を告げる時は最初は言い方と愛想が大事だって。君がいい奴だって知ってもらえば強い味方になってくれるけれど、プライドが高い奴らは君との間にすぐさま壁を作るし、反抗的になるんだよ」
「…反省するわ。でも貴方みたいにずっとにこにこするのはちょっと…」
エレンは疲れた顔で甘い香りがする紅茶を一口飲んだ。
テーブルには彼が作ったお菓子が持参され、きれいに並べられていた。
「最近はどう?いい人材を見つけて囲っているようだけど」
「ルーシー店長の事かい?彼女はすごいぞ」
「貴方が褒める人は本当に優秀な人ばかりだから、そうなんでしょうね。」
「店長から君の事を聞かなければ俺は君を救えなかった。感謝してあげてくれ」
エレンは初めてルーシーと合った時のことを思い出していた。
自分より年下でまだ十四歳のあどけない顔をした子供。
エレンはまだ彼女がそれほどの人物なのか実感できないでいた。
「彼女が考案した防犯設備のおかげで下町の窃盗事件が大幅に減った。下町に警官を大量に配置することは難しく、汚職も蔓延していたから多大なる功績だ。彼女には国から勲章と多額の褒賞金を授けるべきだよ」
「それは聞いたわ。そういえばその子が魔法を組み込んだ強力な防犯具を開発しているそうね。私のところも設置してくれないかしら。」
「優先的に依頼を受けてやってもいいが、高いぞ?」
「金は末端に流さなければ経済は大きく回らないと言うわ。まあ、家が傾く価格はやめて頂戴ね」
「ははっ、完成品ができたら一番にお届けしよう」
同い年で幼馴染だからか、男女の意見の違いはあるものの、冗談を言い合えるほど気を許し合った二人だった。
「貴方が全方位に圧力をかけているから、他の貴族がラッキースミス工房に手を出す馬鹿はいないでしょうけど、そんな余裕ぶっていたら、いつか横からかすめ取られるわよ。それか店長に見限られるか」
「そうならないように日々がんばっているよ」
「店が開店して数週間で入り込んだんだっけ?どこでそんな早く彼女を見つけてきたのよ。教えてほしいわ」
「それは秘密だ」
目の前の男は昔から賢く、気に入ったものはずっと大切にするが、誰にも見せないように己の巣に隠してしまうことがあるし、狙ったものは逃さない鳥のような男だ。
高いところからじっと観察されて、少し気味が悪いと感じる時もある。
エレンはこんな男に目をつけられたルーシーに哀れみを感じた。
「その小さな店長さん、大事にしなさいよ。飼うなら高級ベッドと温かい食事と風呂付きの豪邸という籠をあげなさい」
「ふふ、毎日お菓子付きでね。…でも彼女は自由に飛び回っている方がいい気もするな」
「ぶえくしょん!!!!!!」
レイヴンとエレンが楽しく会話している丁度その時、ルーシーはというと盛大に二回くしゃみをしていた。
「やっぱり風邪ひいたかなぁ……」




