予告状 4枚目 生徒会長は悪役令嬢? 前編
今日は卒業までのスケジュールについての説明会があった。
「皆知っておると思うが、魔法学校は六年間学び、卒業試験や論文で学問を治めるところである。一年生からは基礎を学び、三年生まで家庭魔法を含む一般魔法を習得する。四年生からようやく自身の適性を見つけ、各属性の上級魔法を身につけ極めていく。」
教師は黒板に魔法でチョークを動かし、生徒がわかりやすいように図を書いていく。
「しかし商家クラスは三年で卒業することが多い。中には魔法に長けている者が現れた時、推薦と面接で貴族と同じクラスになり、高レベルな魔法を習得していくこととなる。まあ安心しなさい、商業クラスから貴族クラスに昇格する者は十年に一人くらいだ。皆、励みなさい。」
ルーシーは机に頬杖をつきながら話を聞いていた。
「(私は魔法許可証が手に入ればいいと思ってたけど、魔法をもっと勉強したいな~。上級魔法ってどんなんだろう)」
ルーシーは学校生活が楽しくなり、延長希望が湧いてきていた。
しかし一つ問題があり、魔法学校の学費は高額で、現在身元保証を兼ねたレイヴンの家が代替わりしてもらっている。
学費はルーシーが習得した特許の一つを譲渡さないといけないくらい高い。
金はおいおい返すとしても、ルーシーはレイヴンから借りを沢山しているという現状だった。
(私…レイヴンに知らないところで徐々に囲まれている…?)
レイヴンは自分は伯爵家に魔法適性の高さから養子に入ったと話しており、ルーシーも実際に本当かどうか調べて養子の話は真実だった。
レイヴンは自分の家に会社の権利をよこせとも、独占契約を結んでほしいとも言ってきてはいない。
金庫のお金も無くなってはおらず、本当にルーシーがいい思いしかしていないのだ。
もしかしたら伯爵家がゆっくりじっくり籠絡せよと指示しているかもしれない。
今後レイヴンの家に多大なる礼をするつもりではあるが、うっかり契約書とか設計図を奪われないように厳重に隠して注意しなければと、ルーシーは震えた。
(大じいちゃんに経営の指導をしてもらいたかった~~~!!)
今は亡き尊敬する曾祖父に嘆きながら、法律の勉強をすることを決意した。
ルーシーはまた忙しくなるのであった。
カーンカーンカーン…
授業の終了のベルが鳴り、教師から各就職先について記入する紙が配られ授業は終了した。
「ねぇ~ねぇ~。ルーシーってどこの会社に就職するの?」
「それはちょっと秘密…(店長自身が就職っていう言葉自体おかしい。どう説明したものか…)」
「こらクロエ!就職先を聞くのはタブーよ!誰かが高い給料で引き抜きを起こしかねないし、商家同士や貴族の信用を無くすわ!」
「ごめんなさ~い」
エマに叱られててへぺろと舌を出しているクロエ。
学校に自分の会社に就職するという報告はややこしくなるため、ルーシーはレイヴンに相談しようと紙を畳みカバンに入れた。
「ルーシーばいばーい!」
最近クロエやエマ、ローラ達はクラブ活動にいそしんでおり、帰りが別になることになった。
ルーシーはこれから帰って仕事なので帰宅部。
乗合馬車の停留所に向かっている途中声を掛けられた。
「レイヴン様が入学を推薦したのが貴女?」
見事な縦巻きロールの貴族令嬢が階段の上からルーシーに声をかけてきた。
「貴女!エレン様が声をかけたのに無視とは何事!?」
知らない人に突然声を掛けられて固まってしまったルーシーに、取り巻きだろうか、後ろに控えている女子生徒がルーシーを叱った。
近づいてくるエレンと呼ばれた女子生徒の胸元のバッチを見ると生徒会長の文字が。
六年生は最終試験や論文で忙しいため、生徒会長は五年生が勤めることになっている。
ルーシーより四歳年上ということだ。
「レイヴンの知り合いですか?」
平民であるルーシーがレイヴンを呼び捨てしたことが悪かったのか、エレンの眉毛がピクリと動いた。
「私、貴族院生徒会長のエレン・マクリーですわ。レイヴン様の面子を汚すことないように過ごしなさい。これは命令よ」
エレンはそれだけ言うとそっけなく去っていった。
お待ちくださいと慌てて二人の取り巻きもついて行く。
「命令って…」
なんだこいつ偉そうに…とルーシーは呆れて気にも留めず帰路に就いた。
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「おかえりなさい、ルーシー店長」
工房に戻るとレイヴンは今日の午前の仕事を完璧にこなし、乙女が見惚れるような笑顔で迎えてくれた。
出されたお菓子にルーシーは舌鼓を打っていると、はたと気付いた。
先ほどの上から目線は、エレンがレイヴンに惚れているとかそういうのだろうか。
いやまさか、二人とも貴族であるのだからもしかして婚約者!?
レイヴンは優男で有能だ。
婚約者でなくとも欲しい男であるのは間違いない。
考えが本当だったらルーシーがレイヴンを独占しているという行為はエレンにとって腹立たしいこの上ないこと。
今日二回目の震え。
「大丈夫ですか?風邪ですか?」
「あっ大丈夫よ!気にしないで!あはは…」
ルーシーは汗をかきながら、学校生活、波風立てないように決意をした。
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翌日、登校すると隣の教室が騒がしかった。
「貴族ってやっぱりサイテーね!」
「生徒会長のエレンにやられたって!?」
「平民をいじめるなんて…っ!」
ルーシーは教室の中を見ると、机に座って泣いている少女を取り囲むように男女の同級生が怒り狂っていた。
「ごめんねみんな。心配させて。でも私は大丈夫だから!どんくさい私が悪いの」
泣きながら皆を宥めているピンク髪の少女の名は『アストラ』。
ルーシーと同じく編入してきた子で、ものすごい魔力量を秘めていると分かり、将来を期待された魔法使いの候補生だ。
話をよくよく聞くと、エレンに荷物を運ぶよう指示されたのだが、アストラは誤って壊してしまい、エレンが起こって彼女の頬を叩いたらしい。
アストラは商会院の生徒会役員に入って貴族とのやり取りなどマナーを学んでいる。
そのため貴族院の生徒会ともよく交流していた。
アストラは貴族院の生徒会から嫌われており、エレンを中心にいじめを受けているとのこと。
「(嫌味な人だと思ったけれど、本当にやばい人だったんだ…。ってそんな人にレイヴンは渡したくない!!)」
ルーシーは嫌味な生徒会長を敵認定し、生徒会長から引きずり落としてやろうと思い立った。
ルーシーは休み時間も含めて放課後も連日エレンを監視した。
しかし調査の結果、ルーシーの予想とは真逆の真実を知ることとなった。
エレン会長は授業中も生徒会長の仕事をしている時も品性高潔で頭がよく、貴族同士でもマナーが悪い人間に対して厳しく指導していた。
ただ風紀に厳しいとかではなく、部下にはねぎらいの言葉をよくかけ、お礼に高級菓子などを振舞ってあげるなど優しい行為をしていた。
部下は派閥や親が決めた子同士の関係ではなく、各々がエレン会長を尊敬し、従っていた。
エレンは身分差も気にせず、すべての生徒を分け隔てなく接していた。
ルーシーは貴族の中だけでしょと思っていたが、贔屓している店の子だろうか、商会クラスの人間とも楽しそうに会話していた。
ある時には商会クラスの生徒を含めた国立魔法研究員になりたがっている生徒が勉強する部屋などを優先的に許可して感謝される場面を見た。
エレンは生徒会長という肩書に相応しく人に役立つことを行っていたのだ。
エレン会長の人柄を知っていくと違和感を感じていく。
「(もしかしてアストラって子は怒られた腹いせにエレン会長の評判を落とそうとしている…?)」
それが真実ならエレン会長が可哀そうであると、ルーシーはアストラの方も探ることにした。
アストラは本当にドジっ子らしく、いろんな場所で物を壊しては掃除をしていた。
エレン会長がこの酷いクラッシャーに堪忍袋の緒が切れてもおかしくないと思えるほどの惨事だった。
ある日またエレン会長がアストラを叱る場面に出くわした。
エレン会長はツボを割った拍子に手が切れたアストラにハンカチを渡し、すぐさま保健室に向かいなさいと言い、部下に掃除を命令していた。
あーあ、とエレン会長がかわいそうと完全にエレン会長に同情し、アストラに呆れかえっていた。
アストラがルーシーの横を横切った一瞬、ルーシーはアストラが笑っていのが見えてゾクリと嫌な寒気が背中を走った。
とっさに振り向くが、友人たちに慰められながらただ泣いているアストラがいた。
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ルーシーは工房に帰ってレイヴンにエレン会長の事を聞いた。
「エレン?私の同い年の幼馴染です。私は飛び級して大学院に入ったので現在の学校内の彼女を知りませんが、賢くて頼りがいがある子です、ただ、口調が少しきつくて…誤解されやすく、ルーシー店長もきっとびっくりされたでしょう。代わりに謝罪します」
レイヴンは苦笑いしながらエレン会長の事を話してくれた。
ルーシーから見たエレンとレイヴンが話すエレンは似ていたので本当の事だろう。
「実は今学校でエレン会長が困ってて…」
ルーシーはレイヴンにアストラの事を話した。
「なるほど…それは苦労している。今度私の方からも労いをエレンに送ります」
「レイヴンのお菓子と紅茶を食べたら元気になると思うよ!」
「ふふ、そうだといいですね」
レイヴンのお菓子を食べながらとっさに言うとレイヴンは笑った。
「…店長ちょっと用事が出来まして、ここ1週間早退もしくは遅く出勤か勤務時間を減らしていただけませんか?」
「最近は学校の事もあって大きな仕事がないし、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。シフトの方カレンダーに書き込んでおきますね」
レイヴンはすぐさま手帳を取り出し、カレンダーに向かった。
「(どうにかしてアストラを商会の生徒会からクビにさせてあげたほうがエレン会長の負担が減るかな…)」
こんなに問題を起こすアストラがなぜまだ生徒会にいるかというと、彼女の美貌と庇護欲を掻き立てる演技力に虜になっている生徒が多く、彼らからの支持があついのだ。
どうしたもんかとルーシーは頭を抱えたのであった。




