予告状 3枚目 母の形見 後編
コンコンとエマの部屋の窓を叩く音がして、ひどい顔のエマは窓の外をおそるおそる見下ろした。
屋敷の門に知らない馬車が一つ止まって、そこから一人の女性がトランクを掲げて屋敷に入ってくるのが見えた。
「(もしかしてマリアの商人の関係者かしら。だったら私が直接交渉して買い戻せば…っ)」
エマは気になって玄関ホールに向かった。
「来たわね。お金は持ってきたかしら」
マリアは眼鏡の太った青年から聞いていた特徴の女性を応接間に引き入れ、人払いをして金の確認を始めた。
「はい、こちらに」
女性は厳重なトランクを素早く開け、中のお金をマリアに見せた。
「それでは商品をお見せください」
「ええ」
マリアは木箱を開け、女性にエマの母親の形見であるネックレスを見せた。
「待って!それはお母様の!」
バンと勢いよくドアを開けて入ってきたのはエマ。
「申し訳ございません。エマ様。契約上もう私の主のものなので…」
「じゃあ私が買い戻すわ!いくらか言ってちょうだい!!」
「お姉様はしたなくてよ!いつまでたっても死者に縋り付くなんて――」
パンッと応接間に響きわたった。
エマはマリアの頬を怒りで叩いたのだった。
「なんてことをするの!?!この」
「何の騒ぎだ!!」
帰宅したエマたちの父親が応接間に入ってきた。
「マリア、その頬はどうした」
「お姉様に…」
「こんなところで喧嘩など――この女は誰だ?」
父親は知らぬ女が大金が入ったトランクの前に座っていることに、異常さを感じた。
「おっお父様、これは…。私の要らなくなったものをこの女性に譲る約束して、」
「なっこのネックレスは前の妻の――売ったというのはうそだったのか!?マリアなんてことを」
マリアと父親がが言い争いをし始め、一人残されている女性はため息をつき、立ち上がった。
「とりあえず、ネックレスは頂いてもいいのですよね?怪盗が来るのであれば早く持ち去らなければ。」
「そっそうだ、早く持って帰れ。家の安全が最優先だ!」
「待って!そのネックレス買わせて!」
「何を言うかエマ!」
父親がエマを静止した。
エマは暴れるも、連日大泣きし、食事もまともにとってなかったため男の父にかなうはずもなかった。
女性はネックレスの箱を大きな布で包み、大事そうに抱えて応接間を出るとき、振り返り皆に向けて一礼と挨拶をした。
「家族と言えど超えてはいけない一線を犯しつくすこの家は一度リセットされるべきだと存じます。それで私から一つ皆様にプレゼントを」
「何を言って、いらぬ!さっさと帰——」
女性は胸元から小さな鍵を取り出した。
その鍵は一瞬で杖へと変わり、女性は天井へ掲げて叫んだ。
「閉じ込められた真実をここにオープン!」
女性が持ってきたトランクに入っていた札が突然吹き出し、部屋中を埋め尽くしていく。
マリアは慌てて金を掴み集めようとするがあることに気付いた。
「これお金じゃないじゃない!!裏は変な数字が書いてある!!」
応接間にいた人間は扉の方を一斉に見たが、ネックレスを受け取った女性は忽然と姿を消していた。
「けっ警察を呼べ~!!!」
エマの父親が叫ぶと同時にどこからか若い女の声が屋敷中に響いた。
「はーい☆エマのお母様の形見を無事頂きました。お返しにマリア嬢が使いまくったお金の請求書や借金なのどの全契約書をお見せしちゃいまーす!!買いすぎには注意だよ~!」
エマの父親はその言葉を聞いて落ちていた偽札の裏を確認した。
よく見ると、様々な店での領収書やツケの契約書、中には借金のもあった。
「どっどういうことだマリア!!こんなに金を使うことを許した覚えはないぞ!!」
「えと、これは。でも何でも買っていいってお父様は言ったよ!!」
父と義理の妹が言い争っているのを放って、エマは急いで自室に戻り窓を開けた。
窓が開いたと同時にかつり、とヒールの音をたてて怪盗が窓枠に降り立った。
エマからは月の光の逆光と仮面で怪盗の顔はよくわからなかったが、自分と同じくらいの女の子だということははっきりと分かった。
怪盗は形見のネックレスをエマに差し出した。
「もう奪われないようにね。そうだ!下町のラッキースミスっていう店が防犯専門のものを作ってるって評判よね。電流が流れるからくりの引き出し注文してみたら?じゃあね!」
「待って!!」
店の宣伝も忘れず怪盗はさあ帰ろうと外を振り返ろうとすると、エマに引き留められた。
エマは手元のネックレスをしばらく見て、顔を横に降った。
「怪盗さん、お願いがあります。そのネックレスを預かって頂けますでしょうか。この家にいる限り、あの手この手で妹は私から奪うでしょう。私がこの家から出ることができたら、お返し頂けませんか…?」
「でも」
「ふふ、では言い換えましょう。私貴女のファンになったんです。これで貴女に会えるのがこれで最後なんて惜しいのですわ」
ふわりといたずらっぽく微笑むエマに呆気を取られる怪盗クラヴィス。
彼女の顔からは過去に囚われ続けるのはやめようというような決意を感じた。
怪盗は困った表情でネックレスを受け取り、シルクハットの中に閉まった。
「いい男捕まえて早く家から脱出しなさいよ!じゃなかったら今度は貴女自身を盗むから!!」
ポンと弾ける音がして驚いて一瞬目を閉じ、煙が引いて目を開くと怪盗はいなくなっていた。
エマは先ほどの怪盗の言葉になにそれとクスクス笑った。
いつぶりの心からの笑いだろうか、引きつって頬の筋肉が動かしにくいとエマは感じた。
(お母様、怪盗さんにネックレスを返してもらう時は、強い女性になっているようこれから頑張ります。それまで待っていてください…)
ひとしきり笑ったエマは窓の外に広がる夜空を見上げ、天にいる母に祈ったのだった。
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翌日エマは元気な顔で登校してきた。
ローラとクロエはエマの姿を見ると駆け寄った。
「エマの家に怪盗が来たって聞いたわ!ネックレスは奪われちゃったの?!」
「ネックレスは戻ってきたわ。実はこういうことがあって――」
「妹いなくなったの!?よかったじゃない!!」
多額のツケとヴァーリ家の財産を浪費していたことを父親に知られたあと、反省のためにマリアは修道院に一年入ることとなったのだ。
「でも一年後に返ってくるんでしょう?また奪われたりしちゃうんじゃ…」
「大丈夫よ。世界一安全な場所に預けてきたから。」
ふわりと微笑むエマはとても可愛らしく、友人たちも一瞬どきりとしてしまった。
「エマが言うなら大丈夫か」
「よかったね!次は家をさっさと出ることね!!」
エマは心の中で怪盗に感謝をしていた。
何年ぶりだろうか、憑き物が取れたように心も体も軽く、学校も楽しいと心から感じていた。
教室の一角で少女たちはつかの間の安息日を楽しんでいた。
ところでルーシーはというと、同じく教室で中途半端な時期に編入したため膨大な宿題があり、それをこなすのと仕事と怪盗の疲労から朝から机につっぷして、居眠りをしていたのだった。




