↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/11

予告状 3枚目 母の形見 前編

「亡くなった母の形見のネックレスを義妹(いもうと)に取られてしまったの」


登校した朝、エマは教室で一人憔悴しきっていたため、ルーシーは心配で声を掛けたらそう説明された。

昨日大泣きしたのだろう、涙の痕が残る顔でエマは窓の外をじっと見つめていた。

ルーシーはエマの視線をたどると、そこには庭で男子生徒に腕を絡める一人の女の子。

彼女が問題の義妹(いもうと)だろう。エマとは全然似ていない。

曲がりなりにも貴族があんな公共の場でいちゃいちゃするものだろうか、とルーシーは眉をひそめた。


「お父さんには話したの?」


「お父様にも当然言ったわ。でも譲ってやればいいだろうと取り合ってくれなかったの」


「それは酷い…」


「今までドレスもお気に入りの食器も、婚約者だって奪われたって我慢できた。でも、お母様のは…」


エマは肩を震わせて、手で顔を覆った。


「…ねえ、ルーシー知ってる?今話題の女怪盗クラヴィス。彼女に頼めば盗んでくれるかしら。妹の手で汚されていくならば、他人のものになってしまった方がいいわ」


震える声で話すエマのパサついた髪が風によって乱されていく。

エマは整った顔をしているので、手を加えたらすれ違った人が必ず振り向くほど美人になれると思うのだが、家族の嫌がらせでみすぼらしい状態にされている。

ルーシーは腹の底から怒りがわいてきた。

まだ日は浅いものの、エマはルーシーによくしてくれた。

そんな優しい人を悲しませる人間が許せなかった。


「私トイレに行ってくる!」


ルーシーは走って教室を出た。

丁度教室に入ろうとしていたローラたちにぶつかってしまう。


「わっルーシー危ないじゃない。ちょどこいくの!?」


「もうすぐ始業のベルがなるよ!」


「すぐ戻ってくるから!」


ルーシーは誰もいないところで身をひそめ、相棒のドミノを呼び出す。

「私、エマのお母さんの形見のネックレスを奪うわ。予告状をエマの家に届けて!」


「キュイ!」


ドミノは受け取った予告状を咥え、エマの家へ走っていった。



・

・

・

同日 夕方 エマの生家ヴァーレ邸


「怪盗から予告状だと?!」


予告状を報告された当主であるエマの父は大慌て使用人に指示を出し、警察に連絡しろと慌てていた。


「どうしたの、お父様?」


「ああ、マリア。家に予告状が届いたんだ。前の妻のネックレスを盗りに来るらしい」


父親はマリアと呼ばれたエマの義理の妹に不安が移らないように話した。

丁度そのタイミングでエマが玄関の扉を開けて入ってきた。

メイドがエマに予告状が来たことを説明する。


「ネックレスって…。ああ、大丈夫よお父様。そのネックレスは家にはないわ。」


「どういうことだ、マリア?」


「第一夫人のネックレスはもう売ってしまったの」


「売った…?」


エマは義妹の言葉にショック受け、持っていた鞄を落とし、床にへたり込んだ。


「なら家に侵入してくることはないな!怪盗は予告したもの以外盗まない。何ら問題ないな!」


安心だとエマの父は笑いながら使用人達に伝え、解散させていった。

玄関ホールにへたり込んでいるエマを義理の妹マリアは意地汚い目で見降ろして高らかに言った。


「私がネックレスを回収してよかったじゃない。この家を守ったのよ!この私が!!」


マリアはエマを横切り私室へ向かう途中の廊下ではた、と足を止めた。


「(怪盗クラヴィスが狙う宝はすごい価値があると言われている。ってことはあのネックレスは値打ちモノだったの?!適当な値段で売っちゃったじゃない!)」


マリアはデザインが古臭く好みでなかった姉のネックレスを二束三文で売ってしまっていた。


「誰か馬車を用意して!」


金が惜しくなったマリアは急いで売った商人の店に向かったのだった。



「(ネックレスはここにはない。誰に売ったか突き止めないと) 」


玄関ホールの天井に一つの影。

くるりと天井から影が落ちると現れたのはエマの家ののメイド服に着替えたルーシーだった。

食堂で準備をしている使用人たちにルーシーはメイドの仕事をする振りをしながら声をかけた。


「怪盗の件びっくりしましたね。マリアさんはいつ売ったのですか?誰に?その人が狙われちゃうんでしょうか…こわ~い」


「さあ、私は知らないわ」


「私知ってるわよ。何時もドレスとか購入する時に家に来るカール髭の商人!不要品処分も請け負いますって言って一昨日持って帰ったのを見てたわ。」


「(なるほど)」


メイド達もおしゃべりしたかったのだろう、それぞれがほっとしたやら、エマのネックレスを売ったなんて!と怒るメイドなど騒がしくなった。

ルーシーはばれないようにそっとその場を離れた。


「あれ?喋ってた子は?」


「っていうかあの子うちにいたっけ?」


「こら!騒がしいわよ!!」


メイド長に怒られたメイド達はささっと持ち場に戻るのだった。


・

・

・

エマは自室のベッドの上で声を殺すようにシーツに顔を押し付け泣いていた。


「 (もう生きる意味なんてない。お母様、私もそちらに…) 」


疲弊しきった心がついにガラスのように砕けてしまい、エマは窓を開けて飛び降りようと足をかけようとした。

その時外から大量の花びらが部屋に吹き込んで、エマを部屋に押し戻した。

エマは転びそうなところに腕を引かれ、抱き締められた。


「死んではダメ。私が貴女の大切なお母さんの形見を取り戻す。だから待ってて」


エマを抱き締めていたのは怪盗クラヴィスだった。

エマからは抱き締められていて首を横に向くことが難しく、怪盗の姿がよく見えなかった。

怪盗は言い終わるとすぐさま窓から逆さまに落ちていった。

あっっと慌てたエマは勢いよく身体を乗り出し窓の下を見ると誰もいなかった。


「(本当に取り戻してくれるの…?怪盗クラヴィス)」


エマは最後の希望だと、怪盗の言葉を信じることにした。


・

・

・


メイド服を脱ぎ、怪盗服を纏ったルーシーは屋根から屋根へ飛んで目的地へ急いだ。

ルーシーは怪盗業をするために、有力人物が住む家や店については調べつくしており、頭の中の地図に記録していたため場所はすぐ特定できた。


「(早くしないと追えなくなる。急がなきゃ!) 」


怪盗はネックレスを買い取ったと言う店にたどり着いた。

入口を見てみると明かりがついており、まだ閉店しておらず、中が騒がしかった。

ルーシーはそっと中を覗いてみた。

驚いたことにそこでマリアがネックレスを取り戻そうと店主との交渉の最中だった。


「あのネックレスを返してほしいの!」


「先日のやつですかい?しかし今日欲しいと検討されている方がいて…」


「あのネックレス売っちゃいけないやつだったの。お父様がカンカンで…。今すぐ取り戻さなければ家を追い出すって…」


マリアは女優さながら涙をにじませながらしおらしく叱られた娘を演じた。


「 (ヴァーレ家の財産を搾り取れなくなるのは痛手だし、返さなければそれで店が危ない…)そっそれは大変だ。しかしこちらも商売です買値より少し上乗せさせてください」


「はあ?!お得意様なのに?………まぁいいわ、急ぎだし。今回は許すわ。いつものように家に請求して」


マリアは値段に眉を吊り上げたが、しぶしぶ店主が用意した契約書にサインし、さっさとネックレスを受け取り屋敷に帰っていった。


「(これはラッキーね!) 」


マリアは怪盗が狙った宝石だと銘打って、別のところでもっと高値で売るつもりだ。

お望み通りショーを盛大に開いてあげよう。

怪盗はにやりと笑ってその場を離れた。


・

・

・


「エマ今日学校に来ないね。どうしたんだろう」


エマを心配するローラたちと行動しながら、主人公は目的の人物を探していた。

マリアは貴族クラスにいるため、教室の建物自体が違うった。

貴族棟のどこの階のクラスかは分かっていても、平民であるルーシーは貴族棟には入ることはできない。

狙うのは共同地だ。


昼食の終わりの鐘が鳴り、食堂や中庭などで休憩していた生徒たちが教室に戻っていく。

同じく女子に人気な花が咲き乱れるガーデンでおしゃべりしていたマリアも教室に戻ろうと歩いていた。

茂みから突然マリアの前に現れこう言った。


「怪盗クラヴィスに狙われた宝をぜひボクに売ってください!!」


眼鏡をかけたむくむくに太った青年がマリアに、勢いよく頭を下げた。


「何で予告状が来たと知っているの?まだ誰にも…」


たじろくマリアに対して、ふふんと青年は眼鏡をくいっとあげた。


「ボクは怪盗クラヴィスの大っだいっだいファンなんです!!彼女が盗んだものが市場に流れてないか毎日チェックして探してるんです!情報網は世界一ですよ!この前の事件でも――」


青年はいかに怪盗が素晴らしいかペラペラと解説し出した。


「は、はぁ…」


「でですね、とある情報から貴女の家に予告状が届いたと聞き、いてもたってもいられなくて!」


「あんたみたいなやつに売らないわよ。もっと高値で売る「これでいかがでしょうか」


鞄をバカリと開けて中身を見せた。

ぎっしりと束ねられた札束が入っている。


「紙幣で不都合ありましたら相当値の金貨でご用意できます。ボクは商人の息子!交渉には負けません!」


眼鏡の太ったの青年はこっそりマリアの手に宝石を握らせた。

たじろぐ妹だったが、確認のため札束から札を取りだし、偽物か本物かじっくりと観察した。

本物だと理解すると口端を上げた。


「いいわ、あんたに譲ってあげてもいいわ。でも今そのアクセサリーは手元にないから、お父様が帰ってくる時間までに家に来て。」


「それはダメです!未婚の女性の家に婚約者でない男が入り込むなど、マリア様の評価が下がります。ボクの信頼する女使用人に贈り物を預けますので、交換という形ではどうでしょう?」


「いいわ。17時に私の家で。使用人たちに来訪を事前に言っておくわ。」


太った眼鏡の青年は訪ねる使用人の特徴を伝え、ルンルンとステップを踏みながら去っていった。

マリアも嬉しそうに教室に戻っていく姿に対して一瞬だけ眼鏡の太った青年の舌が出されたのだが、誰も見てはいなかった。

評価リアクション頂けると創作の励みになります。

20時に後編が更新される予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。