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第五章 恋情(4)

「それでどうなったんだい?龍時はなんて言った?」


「……分からなくても良いじゃん、みないなこと。なんかその時は、私もそれで良いかなって思ったんだけど、今思うと上手く丸め込まれたのかな?」


眞銀の部屋、夏泉と眞銀は二人だけで夏泉の恋愛の進展について話し合っていた。ただ、ほとんどが夏泉の目標通りの結果となっていた今は、眞銀が興味を抱いているだけだった。


「まさかね、それは考えられないことだ。あの龍時に限ってそこまで頭が回るはずがない。……しかし、本当にここまできてしまうなんてね。最初から見ていた私としては、本当に面白かったよ」


眞銀はそう言って笑う。龍時が人とあまり関わりを持たない人間だと知っていながら夏泉はアプローチをし始め、そして紆余曲折を経て今日に至るまで、眞銀はずっと二人のことを見てきていた。そんな眞銀にとって、二人の関係は非常に面白く見えていた。


「……それでさ、それがもう一週間も前のことなんだって?」


「う、うん。そうだけど……」


夏泉の異常はほどの食いつきに夏泉は少し驚く。眞銀は非常に楽しそうな顔をしていた。


「どこまでいったんだい?」


「ど、どこまで……って?」


夏泉は分かっていない素振りを見せる。ただ、本当に分かっていない訳ではないことなど、眞銀は勿論気付いていた。


「キスはしたんだろう?その続きだよ」


「えっ、いや、それは……」


眞銀がここまで興味を持ってくるとは思っていなかったため、夏泉は返答に困る。嘘をつくべきかつかないべきか、夏泉には判断がつかなかったのだ。


夏泉はどうしようかと迷って口を閉ざす。するとそんな時、突然眞銀の部屋の扉が開いた。二人が驚いてそちらの方に振り向くと、そこには龍時が立っていた。


「おい、眞銀」


「なんだい?」


「あまり夏泉を困らせないでやってくれ」


「あれ、聞いていたのかい?失礼だな」


標的を龍時に移した眞銀は、そう言って龍時を追及する。しかし、龍時は特に態度を変えることなく夏泉の隣に座った。


「馬鹿言うな。この壁じゃ筒抜けなんだよ」


「それじゃ話は早いね。……どうなんだい?」


「何がだ?」


龍時であればあっさりと口を割ると思ったのか、眞銀は簡潔に龍時に尋ねた。しかし、龍時はそれに質問で返す。


「聞いていたんじゃ?」


「何の話をしていたのかは知らない。……ただ、夏泉が困っているようだったから」


「なんだい、ラブラブじゃないか」


眞銀は笑いながらそう口にする。その途端、夏泉は顔を赤く染めた。しかし、夏泉はそれを悟られないように、ゆっくりと呼吸して火照りを直そうとした。


「当たり前だろ、そんなの」


夏泉がゆっくりと大きく息を吸い込んでいた時、龍時が何気ない様子で眞銀にそう言葉を返す。そんな龍時の言葉に、夏泉は我慢出来なくなって咳き込んだ。


「一体どうしたんだい?龍時がここまで変わるなんて」


「何かおかしいか?……とにかく俺が言いたいのは、夏泉に変なことは聞くなということだ」


龍時はそう言うと共に夏泉の方へ振り向く。夏泉は自分の顔を見られまいと顔を背けた。


「そんなことを言わないでくれよ。私は二人のことが気になって仕方がないんだ。母親的立ち位置に私はいるじゃないか」


「……なんだよそれ」


龍時は呆れてため息をつく。確かに龍時は夏泉と交際しており、その発端が眞銀の紹介であることに間違いはない。しかしそうだからといって、龍時は眞銀に感謝するつもりはなかった。


人との出会いは偶然であり、誰かが操作して変化をもたらすようなことではないのだ。


「分かったよ。龍時は夏泉が弄られるのがお気に召さないらしい。私も我慢しよう」


「……くれぐれも頼んだ」


龍時はしっかりと眞銀に忠告する。龍時は言いたいことを伝え終えると、すぐに立ち上がって眞銀の部屋から出て行こうとした。


「もう帰るのかい?夏泉が寂しそうだ」


眞銀が夏泉の顔を見て、龍時にそう声をかける。


「二人で話していればいいじゃないか。……部屋に来るなら、まあそれでもいいが」


龍時は振り向くことなく答えるとそのまま部屋を出て行った。眞銀は龍時が出て行ったのを確認してから、声を小さくして夏泉に言葉を発した。


「知っているとは思うけど、龍時がああいった時は来て欲しいということだ。私は二人の惚気(のろけ)た雰囲気を壁越しに聞いておくとするよ」


眞銀はそう言って夏泉を部屋から追い出そうとする。ただ、夏泉は今のやりとりを見て、眞銀に一つの疑問を持った。


「ねぇ、一つ教えて欲しいことがあるんだけど」


「なんだい?さっきの私の答えと交換で答えてあげるけど?」


眞銀はふざけた様子で夏泉に答える。しかし、眞銀のそんな姿を見た夏泉は尋ねることを決意する。


「眞銀って……もしかしたらなんだけど、龍時のことが好きだったりするの?」


夏泉は静かに質問する。さすがの眞銀も夏泉の質問に驚いたようで、珍しく声を詰まらせた。


「……そうだとしたらどうするんだい?」


「いや……確信はないんだけど」


すぐに平静を取り戻した眞銀は、いつも通りの口調で夏泉に質問で返す。今度は夏泉が眞銀の言葉に黙り込んだ。


そんな夏泉を見た眞銀は、静かに話し始めた。


「……嫌いではないよ、もちろんね。まあただ、龍時は変わった人間だ。私がそんな龍時と色々関係を保っていたのは、もしかするとそういう感情があったからかもしれないね」


眞銀は簡単に夏泉に答える。すると、夏泉はその言葉を聞いて深く考え込んだ。自分が眞銀に嫌な思いをさせ続けていたかもしれないと、夏泉は今更になって思い始めたのだ。


「ほら、そんな顔して深く考えようとする。そんな気がしたからあまり言いたくなかったんだ。夏泉が気にすることは全くないじゃないか。別に私は、二人の仲に関係のない人間だ」


「………」


眞銀は夏泉に心配しないよう伝える。しかし、今の夏泉にはそれが苦し紛れに本音を隠しているようにしか見えなかった。これをもって、夏泉は眞銀が龍時に好意を抱いていると確信した。


「……さて、私のことはいいじゃないか。今度は夏泉が答える番だ。……どうなんだい?」


「……秘密よ」


夏泉は考え抜いた結果そう答える。しかし、眞銀はすでに事実を握っていたも同然だった。


「もう進んだんだね、早いじゃないか。どっちから動いたんだい?」


「…………」


夏泉は顔を赤らめて黙る。しかし、夏泉の様子を見た眞銀は、この質問に関してもすぐに答えを把握した。


「龍時か。意外だけど納得できるね」


「……びっくりした。けど、優しかった」


夏泉は観念してそう呟く。眞銀はそんな夏泉を見て頬を吊り上げる。眞銀の目に映る夏泉が、可愛くて仕方がなかったのだ。


「おい」


眞銀が恥じらう夏泉を堪能していると、再び眞銀の部屋の扉が開く。


「なんだい?夏泉を待ちきれなくなったのかい?」


「違う。また夏泉で遊んでただろ!」


龍時は眉間にしわを寄せて眞銀に詰め寄る。ただ、眞銀は夏泉を見て嫌な笑みを浮かべた。


「いやぁ、すまない。夏泉が可愛すぎて苛めたくなったんだ。知っているかい龍時?夏泉は本当に可愛いんだ」


「そんなこと知ってる。そんなことを言いたいんじゃなくて……はぁ」


龍時は眞銀を叱責しようとしたが、諦めてため息をついた。


「夏泉もだな、きっぱりと嫌なら嫌だと言わないと、将来詐欺とかに引っかかるぞ」


「う、うんそうだよね。うん……」


「……どうした?」


龍時は夏泉の返答が上の空であることに気付き、心配になって様子を窺う。夏泉の意識はどこかに飛んでいるようで、その顔は惚けていた。


「夏泉は龍時に可愛いと言われて嬉しかったんだ。それくらい察することができないと、将来夏泉を泣かせることになる」


眞銀が龍時の言葉に合わせてそう口にする。ただ、すでに夏泉を泣かせてしまったことのある龍時は、何も言うことができなかった。


「……夏泉、俺のところに来い。眞銀はなんというか危ない奴だ」


龍時はそう言って、夏泉の腕を取り引っ張って玄関に向かう。夏泉はそれに従って、龍時の後についていった。


「くれぐれも龍時の部屋でそういうことはしないでくれよ。壁が薄いことを忘れるな」


「はいはい」


龍時は眞銀に適当に答えて、夏泉と共に部屋から出ていく。夏泉はそんな二人の背中を眺め続ける。


二人が出て行った後、眞銀は誰もいなくなった部屋で脱力して座り込んだ。ただ、小さくため息をつくと、いつも通りの眞銀に戻った。

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