【第7話】子供の遊びは「遊び」じゃない
異世界に転生してしまった元社畜の主人公が、特別な力を持ちながらも英雄や勇者を目指すことなく、平凡で穏やかな「村人B」としての人生を送ろうとする。
何気ない日常の中で経験値を獲得し、少しずつ成長していく主人公。 しかし、本人はあくまで平穏な生活を望んでいるようで……?
果たして彼は、望み通りののんびりした人生を送ることができるのでしょうか。
どうか、主人公、ミナモ・アステルの第二の人生を温かく見守っていただければ幸いです。
それでは、異世界で始まる彼の物語をお楽しみください!
――それから10年の時が過ぎた。
俺、ミナモ・アステルは10歳になった。
この10年は色々なことがあった。
歩けるようになり、言葉も話せるようになった。食事を自分で取れるようになった。
母さんの手伝いを少しずつ出来るようになった。
そしてその度に経験値が入ってくる。
勿論レベルアップを拒否しようともした。
しかし、結果はいつも同じ。
『レベルアップしました』
……この世界のシステムに拒否権は存在しない。
おかげで俺は10歳にしてすっかり諦めの境地に達していた。
レベルが上がるのはもう仕方ない。
大事なのは目立たず平穏に暮らす事だ。
幸い、今の所俺は村の外に出たこともないし、魔物と戦ったこともない。
そうだ、このまま何事もなく大人になれればそれで良いのだ。
そう思いながら俺は久々に自分のステータスを確認してみた。
名前 ミナモ・アステル
【年齢】10歳【レベル】17
【体力】24 【魔力】28
【筋力】24 【俊敏】25
【知力】35 【器用】23
【未使用ポイント】16
【固有能力】日常成長
…………。
俺は静かにステータス画面を閉じる。
うん、見なかったことにしよう。
まぁ10歳児のステータスとしてこれが普通なのかどうかは知らないが。
と言うかこの世界の平均的なステータスも知らないのだからどうしようもない。
だからきっと大丈夫なはず…だ。
「ミナモー!早く来てよぉー!」
家の外から聞き慣れた声が鳴り響いた。
「あーい、今行くー。」
俺は返事をして外へと向かった。
今日もいつもの「遊び」の時間だ。
幼馴染のダンマ、カミル、フォートの3人だ。
俺はいつもかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたり、いかにも子供らしい遊びをしている。
――まぁかくれんぼでよく知力の経験値が溜まるのだが……
△
「今日はかけっこをしよう!」
村の広場に着くと、ダンマが元気よく宣言した。
「そうだな!誰が一番速いか勝負しようぜ。」
カミルが拳を握っている。
「ぼ、僕も負けないぞ!」
フォートもやる気満々だ。
ちなみにこの三人はいつも元気いっぱいだ。
遊びの時間だとより張り切る。
そういう所は10歳と歳を重ねても変わらないのだ。
……うん。
そうだよ、こういうのが良いんだ。
子供達と遊んで、笑って、一日を過ごしていく。
勇者だの、英雄だのとは無縁の平和な日常。
「ミナモも参加するよね?」
ダンマが俺を見る。
「勿論!」
俺は元気良く答える。
ここで断ると逆に不自然だ。
いつも鬼ごっこもしてるしな…
少し速く走るくらいなら問題ないはずだ。
俺は10歳の可愛い子供だ。
いくらレベルが上がっているとはいえ、
見た目は普通の子供なのだから。
「じゃ、あそこの大っきい木までね!」
ダンマが広場の端を指さす。
「位置についてぇー…」
カミルが声を上げる。
「よーい…ドン!!」
僕達は一斉に走り出した。
俺も走る。
最初は皆と同じくらいのスピードを意識した。
速すぎず、遅すぎない普通の子供らしい走り方。完璧だ。これなら目立たない…
そう思っていたのだが…
「え…?」
気づけば俺は皆のずっと前を走っていた。
あれ…おかしいな。
ちょっと力を抜いたはずなんだが…
俺は慌ててスピードを落とそうとしたが、
遅かった…
結局俺は誰よりも先に大きな木の所へたどり着いてしまった。
「あ、やべ…」
思わず呟く。
少し遅れてダンマ達がやってきた。
「はぁはぁ…ミナモ、速すぎだろぉー!」
「何でそんなに速いのぉ!?」
3人は驚きを隠せないようだ。
そりゃそうだよな…
――くっ、やってしまった…
でも待てよ…少し足が速いなら才能って事で片付けれるかもしれない。
「へへ、まぁたまたまだよ。」
「たまたまであんな差はつかないよ!」
ダンマが叫ぶ。
うん、ですよね。俺もそう思います。
心の中で謝りながら俺は空を見上げる。
―――どうやら平穏な日常への道は今日も険しいらしい…
△
少し休憩をし、ダンマは宣言した。
「次は勇者ごっこをしよう!!」
勇者ごっこ。
木の枝を剣に見立てて、勇者と魔王に分かれて戦う子供達の定番の遊びだ。
勿論本物の魔王が出るわけではない。
あくまでもごっこ遊びだ。
安全で平和的な子供らしい遊びである。
「僕、勇者ね!」
ダンマが枝を掲げる。
「じゃあ、僕王様!」
カミルが手を挙げた。
「僕は魔法使いかな!」
フォートも続く。
そして皆の視線が俺に集まった。
「ミナモは魔王ね!」
「……え?」
「だってミナモが一番強そうだもん!」
つ、強そうって…君達僕のステータス見えてるのか?
とその前に俺が魔王だって!?
いやいやいや…俺は超平和主義者だぞ。
魔王なんて世界征服を企む悪者じゃないか…
(世界の半分あげるとかの交渉もしないぞ…)
……はぁ。まぁ子供のごっこ遊びだ。
別に良いか。
「しょうがないなぁ…」
俺は枝を拾い、魔王らしく構えてみた。
「ゼハハハハ!
この世界はこの俺様が支配する!」
……何を言ってるんだ俺は。恥ずかしい…
前世の記憶があるせいか、こういう台詞を口にするのは妙に恥ずかしいのだ。
だが子供達は大喜びだ。
「行くぞぉ!魔王ミナーモ!」
ダンマが枝の剣を構えて突っ込んできた。
「くらえー!!」
その剣が俺の肩に当たるが、勿論痛くない。
ごっこ遊びなのだから、当たったふりをすればいいのだ。
「ぐぉぉぉぉ!や、やられたぁー!」
棒読みにならないように台詞を言い、大袈裟に倒れた。
「やったぁ…ま、魔王を倒したぞ!」
皆が歓声をあげる。
よしよし…良い感じだ。
俺が負ければ皆が喜び、
俺が目立つ事はない…はずだ。
そう思った。そのとき…
「でもさ、ミナモって本当は強いよね…?
さっきのかけっこも凄かったし…」
ダンマが不思議そうに言った。
「確かにそうだな…」
フォートが振り返る。
「本気で戦ったら、僕達なんて簡単に倒せち
うんじゃない?」
おいおい…そう言う話題は辞めてくれ…
「おい、ミナモ。ちょっと対決してみてよ。」
ダンマが目を輝かせている。
俺は笑顔を引きつらせた。
「いやいや、僕弱いよ…?」
「じゃ、勝負しよう!」
ダンマが枝を構える。
……断れない。
子供の付き合いというのは当時は分からなかったがなかなか難しいものだ。
仕方ない…
ここは適当に相手をして、適当に負けよう。
俺は枝を持ち直した。
「じゃあ、いくよ!」
ダンマが踏み込んで来た。
俺は軽く枝を合わせる。
―――カンッ!!
一瞬だった。
ダンマの手から枝が飛んでいった。
「は…!?」
ダンマが固まる。まぁ、俺もだが。
いや、今のはちょっと受け止めただけだ。
力を入れたつもりはない。
なのにどうして、枝が飛んでいったんだ…?
俺は恐る恐る、自分の手を見つめた。
そして嫌な予感をした。
この五年間、俺は日常成長を送るだけで成長してきた。
「歩く」「走る」「物を持つ」「遊ぶ」
その積み重ねで能力値は上がり続けている。
俺は改めて思った。
俺は自分が思っている以上に強くなっているのかもしれない…と
「おいおい…凄いなぁ!俺ともしようぜ!」
フォートまで身を乗り出してくる。
まずい…。これはまずい。
このままでは村の子供達にまで注目されてしまう。
俺はただ、皆と仲良く遊びたいだけなのに…
どうしてこうなるんだぁぁ!!!
そのとき、見慣れた表示が浮かび上がった。
『日常行動を確認しました』
『行動実績:模擬戦闘』
『ボーナス経験値を獲得しました』
………。
俺は空を見上げた。もう、勘弁してくれよ…
その時俺は、まだ衝撃の事実を知ることになるとは夢にも思わなかった…
読んでくださりありがとうございました。
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