【第35話】迷宮の洗礼
目立たず、騒がず、平穏に。
それが、前世の記憶を持って異世界に転生した少年、ミナモ・アステルの目標だった。
しかし、日常生活を送るだけでレベルが上がり、十歳の適性鑑定では全職業適性あり。能力値も規格外だったミナモは、バーデンセリア学園に首席で入学することに。
さらに、幼なじみのダンマ、カミル、フォートと共に始まる学園生活。個性豊かな生徒たちや厳しい授業、実技訓練が待ち受ける中、ミナモの固有能力【日常成長】は、本人の意思に反して彼をどんどん強くしていく。
「頼むから、普通に成長させてくれ……!」
果たしてミナモは、憧れの平穏な学園生活を送れるのか?
これは、村人Bを目指す少年が、望まぬ成長と周囲の期待に振り回されながら、普通の日常を守ろうと奮闘する物語。
学園を出発してしばらく歩くと、
ミナモ達の前に大きな岩山が見えてきた。
その麓にはぽっかりと口を開けた洞窟のような入口がある。
「よし、着いたぞ!
あれが今回探索する迷宮だ。」
先頭を歩いていた教師が足を止めた。
「――こ、ここが迷宮か…」
フォートが入口を見上げながら呟く。
入口の周辺には学園の教師だけでなく、
武器を携えた冒険者らしき人々の姿もある。
迷宮は魔物が出現する危険な場所である一方で、
魔物の素材や貴重な資源が手に入る場所でもある。
その為、冒険者達にとっては重要な活動場所だ。
「教科書で見た写真より大っきいね…」
「うん、中はもっと広いのかもね…」
ダンマとレオンは興味深そうに入口を眺めている。
教師は生徒たちを集めると、
改めて説明を始めた。
「これから入るのは第一階層だ。
今回はこの階層を中心に探索し、
魔物の観察と討伐を行うからな!
先程も説明したが、
勝手に先へ進む事は禁止だ。いいな…?
必ず班でまとまって行動するように!」
「はい!」
「あと、魔物を倒した後も気を抜くな。
周囲に別の魔物が潜んでいる可能性がある。戦闘が終わったと思っても、
直ぐ武器を下ろすなよ。」
教師の言葉に、
生徒達は真剣な表情で頷いた。
「では、出発する。」
教師を先頭に、
生徒たちは迷宮の入口へと足を踏み入れた。
中に入ると、外の明るさが嘘のように薄暗くなった。
壁や天井は岩で覆われており、
所々に設置された魔道具の明かりが通路を照らしている。
「うわぁ、凄い…
本当に迷宮の中なんだね。」
フォートが周囲を見回す。
「足元にも気をつけろよ。
石が転がっている場所もあるからな!」
カミルが注意を促した。
通路は人が数人並んで歩ける程の広さがあり、奥へ向かって緩やかに続いている。
壁には所々に傷のような跡が残っていた。
「この傷は何だろう…?」
ダンマが壁に近づくと教師が声をかけた。
「恐らく魔物の爪痕だな。
こんな痕跡からどんな魔物が近くにいるのか推測出来る事もある。
むやみに触らず、まずは観察する事だな!」
「なるほど、分かりました!」
ダンマは少し離れた場所から、
改めて傷を眺めた。
ミナモも周囲に目を向ける。
(ダンマは素直な奴だ。
でもこういう所は見習わなければならないな…)
観察眼を使えば、魔物の動きを詳しく分析が出来る。
だが、魔物が現れる前から能力に頼る必要はない。
まずは自分の目で周囲を確認することにした。
しばらく進んだところで、教師が足を止めた。
「前に魔物がいるぞ。
全員、戦闘態勢を取れよぉ!」
その声に、生徒たちは一斉に武器を構えた。
通路の先から小柄な緑色の魔物が三体現れた。
手には粗末な棍棒を持ちこちらに気づくと甲高い声を上げる。
「ゴブリンだ!」
教師が告げる。
「ゴブリンは小柄だが、
複数で襲いかかってくることが多い。
動きをよく見て連携して対処しろよ!」
「はい。分かりました!」
ミナモたちの班が前に出る。
「カミル、レオン。前衛を頼む。
ダンマは後ろから援護、フォートも魔法の準備をして!」
ミナモが声をかけると、全員が頷いた。
「任せろ!」
カミルとレオンが剣を構え、
ゴブリンとの距離を詰める。
ゴブリンたちは甲高い声を上げながら、
一斉に二人へ向かってきた。
「はっ!」
カミルが先頭のゴブリンの棍棒を剣で受け流し、そのまま胴体を斬りつける。
ゴブリンは苦しそうな声を上げて倒れた。
一方、レオンはもう一体の攻撃を横に避け、隙を見て剣を振るう。
こちらも一撃で仕留めることに成功した。
――うん、カミルもレオンも授業の時より剣の扱いに慣れてきてるな…
残る一体は二人を避けるように横へ回り込み、後衛のダンマ達へ向かおうとする。
「行かせない!」
ダンマが弓を引き絞り、矢を放った。
矢はゴブリンの肩に命中し、
その動きを止める。
「今だ、フォート!」
「うん!」
フォートが杖を掲げると、
小さな火の魔法が生まれた。
「ファイアボール!!」
放たれた魔法がゴブリンに直撃すると、
魔物は短い悲鳴を上げその場に倒れた。
「よし、全員無事だな。」
カミルが周囲を確認する。
「うん。皆、動き良かったよ。
真面目に授業受けてて良かったね!」
ミナモも剣を構えたまま、
周囲に別の魔物がいないか確認した。
観察眼を使い、倒れたゴブリンにも目を向ける。
三体とも戦闘不能になっているのを確認すると剣を下ろした。
「うむ。今の戦闘は悪くなかったぞ。」
後ろで見ていた教師が近づいてくる。
「前衛が魔物の注意を引きつけ、
後衛が援護する。
最後の一体が後衛へ向かったときも、
ダンマが素早く対応出来ていたな!
非常に良いぞ!」
「ありがとうございます!」
ダンマが嬉しそうに答えた。
「戦闘中は自分の相手だけに集中しすぎないこと。
仲間がどこにいるのか、別の魔物が近づいていないか、常に周囲を確認するようにな!」
「はい!分かりました!」
教師は倒れたゴブリンに目を向けた。
「ゴブリンの特徴も確認しておけよ。
小柄で素早く、単独よりも複数で行動することが多い。
今のように連携して対処するのが基本になる。
教科書で見るもの大切だが実物を見るのが一番だからな!」
生徒たちはそれぞれゴブリンの姿を観察し、特徴を確認していた。
「思ったよりもあっさり倒せたな。」
レオンが剣についた血を拭いながら言った。
「皆で協力出来たからだよ。
油断はするなよ。」
ミナモがそう返すと、レオンも頷いた。
「そうだな。
まだ実習は始まったばかりだしな!」
教師の指示で、班は再び探索を始めた。
最初の戦闘を終えたことで、生徒たちの緊張も少し和らいだようだった。
ダンマとフォートは先ほどの連携について話し合い、カミルとレオンも剣の振り方について意見を交わしている。
ミナモ達はたわいもない会話もしながら更に奥へと進んでいった。
その後も何度か魔物と遭遇したが、
いずれもゴブリンや小型の魔物ばかりだった。
ただ、彼らが進む先では普段なら別々の場所に現れるはずの魔物たちが、
同じ方向へ向かって移動していた。
――それに気づく者はまだ誰もいない…
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