【第30話】何気ない日常
目立たず、騒がず、平穏に。
それが、前世の記憶を持って異世界に転生した少年、ミナモ・アステルの目標だった。
しかし、日常生活を送るだけでレベルが上がり、十歳の適性鑑定では全職業適性あり。能力値も規格外だったミナモは、バーデンセリア学園に首席で入学することに。
さらに、幼なじみのダンマ、カミル、フォートと共に始まる学園生活。個性豊かな生徒たちや厳しい授業、実技訓練が待ち受ける中、ミナモの固有能力【日常成長】は、本人の意思に反して彼をどんどん強くしていく。
「頼むから、普通に成長させてくれ……!」
果たしてミナモは、憧れの平穏な学園生活を送れるのか?
これは、村人Bを目指す少年が、望まぬ成長と周囲の期待に振り回されながら、普通の日常を守ろうと奮闘する物語。
翌朝になり、
ミナモはいつもと同じ時間に目を覚ました。窓から差し込む朝日を眺めながら身支度を整え制服に着替える。
昨日まで新入生対抗武闘大会が開催されていたとは思えない程、
寮の中はいつも通りの朝を迎えていた。
「――今日から普通の授業、か…」
大会で優勝した事も、
究極能力を獲得したことも、
まだ昨日の出来事だ。
しかし、いつまでも余韻に浸っているわけにはいかない。
ミナモは軽く伸びをしてから部屋を出た。
食堂へ向かうと、
既にダンマ、カミル、フォートの三人が席についていた。
「おっ、ミナモ!おはようさん!」
「おはよう。みんな早いなー。」
「俺、昨日興奮しててあんまり眠れなかったんだよ!」
ダンマが身を乗り出して言った。
隣ではフォートも大きく頷いている。
「決勝戦凄かったからね!
剣で戦いながら魔法まで使うなんて、
僕も初めて見たよ!」
「俺もだよ。
アストレアの剣術もすごかったけど、
最後はミナモが上回ったな!」
カミルの言葉に、
ミナモは少し困ったように笑う。
「ま、まぁ昨日はたまたまだよ。
アストレア本当に強かったし。」
「おいおい。
優勝したんだから、もっと胸を張れよ!」
ダンマはそう言って笑った。
――出来れば大会の話題は程々にして欲しい。優勝したこと自体は嬉しいけど、
あれだけ観客の注目を集めてしまったからなぁ。
これ以上、目立つようなことは避けたい…
そんなことを考えながら、
ミナモは朝食を口に運んだ。
食事を終えた四人は教室へ向かった。
廊下では昨日の大会について話している生徒が何人もおり、
ミナモの姿に気づくと、ひそひそ…と話し始める者もいた。
「はぁ、やっぱりこうなるか…」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
ダンマに聞き返され、
ミナモは慌てて首を振った。
教室に入ると、
すでに多くの生徒が登校していた。
ミナモが席に着くと、
近くにいたレオンが声をかけてきた。
「おはよう、ミナモ。優勝おめでとう。」
「ありがとう、レオン。」
「決勝見ていたよ。本当に凄いね!
アストレアの剣を相手に、あそこまで戦えるなんて思わなかったよ。
特に魔法と組み合わせるなんて聞いたことなかったね!」
「ま、まぁたまたまだよ。初めてやってみたら出来たんだよ。」
嘘ではない。
昨日の戦いで、剣術と魔法を組み合わせることがどれほど有効なのか、
ミナモ自身も改めて実感していた。
そしてその戦いの最中に手に入れた
魔剣双流。
あの能力を使えばきっと剣と魔法をより自然に連携させられるはずだ。
さらに魔力を剣に流し込むことで、今までとは違う攻撃も出来るらしい…
ただ実際にどこまでできるのかは、
まだ分からない。
「僕ももっと自分の腕を磨かないとな…」
レオンが自分の手を見つめながら呟いた。
「レオンは十分強いと思うけどな…」
「いや、まだまだだ。
上には上がいるって、昨日の大会を見てよく分かったからな。」
その言葉にミナモは内心で頷いた。
強くなることに終わりはない。
自分だって、今の力を完全に使いこなせているわけではないのだから。
やがて予鈴が鳴り、教師が教室に入ってきた。 生徒たちが席に着くと、
教師は教壇に立って教室を見渡した。
「お前ら、昨日はご苦労さんだったな。
参加した者も、観戦した者も、
それぞれ得るものがあっただろう!
だが、大会が終わったからといって、
学園での学びが終わったわけではないぞ。
今日から通常どおり授業を進めていくぞ。」
教師の言葉に、生徒達は姿勢を正した。
「今後は座学だけでなく、
実技の授業も本格的に行っていく。
剣術、魔法、弓術。それぞれの適性に応じた訓練を通じて、基礎を身につけてもらう。
焦らず、確実に力を伸ばしていくぞ。」
ミナモは教師の話を聞きながら、今後の授業について考えていた。
剣術と魔法の両方を学べるのは、
自分にとって大きな利点だ。
これまではそれぞれを別々に鍛えることが多かったが、魔剣双流を手に入れた今なら、二つを組み合わせる練習にも取り組める…
勿論授業中に派手な事をするつもりは無い。できるだけ自然に、目立たない範囲で試していけばいい。
そう考えていると、教師が教科書を開いた。
「では、まずは魔力の制御について復習しようか。
魔法を扱う上で、魔力を必要な量だけ正確に操る技術は欠かせないよな。
威力を高めることばかり考えず、
無駄なく扱えるようになることが重要だ
昨日のミナモのようにな!」
(おいおい…辞めてくれよ…)
少し焦りながらミナモはその説明に耳を傾けた。
魔力の制御なら、魔剣双流を使いこなす上でも役立つはずだ。
剣に魔力を流すにしても、
魔法と同時に扱うにしても、魔力を正確に操れなければ始まらない。
よし、まずは基礎から見直してみよう…
そう考えミナモはノートを取り始めた。
授業は滞りなく進み、午前の時間はあっという間に過ぎていった。
昼休みになると、ミナモたちは食堂へ向かった。
食事を取りながら、フォートがふと思い出したように口を開く。
「そう言えばなんか実習が増えるんだよね。
どんな事をするのかなぁ…」
「分かんないね。模擬戦とは違うのかな…」
ダンマが期待に満ちた表情で答える。
「どうだろうね…でも楽しみ!!」
カミルも続けた。
「レオンも楽しみだろ?」
「あぁ。
基礎をしっかり身につけて、もっと強くなりたいね!」
四人の話を聞きながら、
ミナモは昼食を食べ進めた。
授業が本格化すれば、学べることも増える。いずれは学園の外で実習を行う機会もあるかもしれない…
「ミナモはこれからどんな訓練をしたいんだよ?」
ダンマに尋ねられミナモは少し考えた。
「うーん…
とりあえず自分の力を磨きたいかな…」
「やっぱりお前の向上心は凄いな…」
「そうでもないよ。
でもまだ試してみたいこともあるからね。」
ミナモは笑って答えた。
魔剣双流の力を確かめるのは、これからだ。
焦らず練習を重ねていけば、新しい戦い方も見つかるだろう。
午後の授業を知らせる鐘が鳴り、
四人は食堂を後にした。
午後は実技ではなく、魔物の生態や魔法の理論について学ぶ座学だった。
その授業が本当に面白い。
RPG好きだった身としては感動を覚えるほどだ。
教師の説明を聞きながらノートを取り、
分からない部分を教科書で確認しているうちに、気づけば授業の終わりが近づいていた。
最後に教師から翌日の授業内容が伝えられ、生徒たちはそれぞれ帰り支度を始めた。
ミナモたちも教室を出て、寮へ戻るために廊下を歩き始めた。
友人たちの会話に相槌を打ちながら、
ミナモは昨日手に入れた能力のことを思い出していた。
――究極能力…
魔剣双流の効果は確認したが、
そもそも究極能力とは何なのか…
俺は分からない。
これまで獲得してきた固有能力とは
名称も異なるため気になって仕方ない。
学園の教師なら、何か知っているかもしれない。
ミナモの脳裏に、ある先生の顔が浮かんだ。学園で分からないことがあれば、
真っ先に相談したいと思える、
信頼している先生だ。
「……今度、先生に聞いてみるか…」
「ん?何か言ったか、ミナモ?」
「いや、何でもない。」
ダンマにそう返すと、
ミナモは再び友人たちとの会話に戻った。
究極能力についてはその先生に相談してみよう…
読んでくださりありがとうございました。
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