【第3話】初めてのスキルは努力の証
異世界に転生してしまった元社畜の主人公が、特別な力を持ちながらも英雄や勇者を目指すことなく、平凡で穏やかな「村人B」としての人生を送ろうとする。
何気ない日常の中で経験値を獲得し、少しずつ成長していく主人公。 しかし、本人はあくまで平穏な生活を望んでいるようで……?
果たして彼は、望み通りののんびりした人生を送ることができるのでしょうか。
どうか、主人公、ミナモ・アステルの第二の人生を温かく見守っていただければ幸いです。
それでは、異世界で始まる彼の物語をお楽しみください!
それから数日経った。
俺は以前よりも長い時間上半身を持ち上げれるようになっていった。
腕にも少しずつ力がついてきたように感じる。
寝返りも段々と上手くなってきた。
……まぁまだ自由自在とまではいかないのだが。
そして今日。
ベッドの上に置かれたうさぎの人形を見つめながら、俺はある事に気づいた。
……これ、前に進めば取れるんじゃないか?
今までは手を伸ばして取ろうとしていた。
だが手が届かないなら、身体ごと近づけば良い。
実に単純な話だ。
何故今まで気づかなかったのだろう。
……答えは簡単だ。
俺はまだ赤ん坊だったからだ。
どんなに頭が良くても身体の動かし方を知らなければどうにもならない。
そう、知識と経験は別物なのだ。
俺はうつ伏せになり、両腕腕を床についた。
片方の膝を曲げてみる。
足を動かし、身体を前に押し出してみる。
「…んっ!!」
ずるっ…。
……うぉぉぉ!
身体が僅かに前に進んだ。
だが勢いがつきすぎて顔が布団に埋まってしまう。
「……ふぐっ!」
……あ、危ない…
俺は慌てて顔を上げた。今度は慎重にやってみよう…
腕で身体を支え片方の腕を曲げる。
そして、反対側の足で床を蹴り身体を前に出す。
…ずるっ。
………少し前に進んだ。
『経験値を獲得しました』
『移動訓練:経験値+2』
おぉ、これは嬉しい…
俺は思わず心の中でガッツポーズをした。
でもまだハイハイと呼べるようなスムーズな動きでもないし身体をズルズルと引きずっているだけだ。
でも昨日出来なかった事が出来るようになった。
それだけで十分だ。
俺はもう一度身体を動かす。
……ずるっ!
少し進む。もう一度。
……ずるっ!!
また進む。
……よし。この調子なら後少しで人形に手が届く。
腕を伸ばし、膝を曲げ、足で床を蹴る。
俺は夢中だった。
最初はぎこちなかった動きが少しずつ滑らかな反復動作になっていく。
赤ん坊の「身体の動かし方」が分かってきたのだ。
その度に経験値がどんどん入ってくる。
『移動動作の訓練:経験値+2』
『俊敏の訓練:経験値+1』
『身体操作の訓練:経験値+1』
…ほぉ、なるほど。これはなかなか面白い。
しかしだからといって、レベル上げが本当の目的ではない。
あくまでうさぎの人形を取りたいのだ。
自分に言い聞かせながら俺は更に前へと進んだ。
そして何度目かの挑戦で、俺の身体が今までよりも大きく前へ進んだ。
ついにその時が来た。
手が人形に届いた。
……ぎゅっ。
ついに自力で移動をして人形を手に入れたのだ。
その瞬間、視界いっぱいに文字が浮かび上がる。
『条件を達成しました』
『スキル【ハイハイ】を獲得しました』
『経験値を獲得しました』
『移動動作の訓練:経験値+5』
少しの沈黙が流れる。
……は?
俺は人形を握ったまま固まった。
………スキル?
今スキルって書いてなかったか…?
俺は慌てて今のステータスを確認する。
名前 ミナモ・アステル
種族 人間
年齢 0歳
レベル 3
―――――――――――――――
スキル 【ハイハイ】Lv.1
未使用ポイント 2
………。
…………スキル名、ハイハイ。
確かにハイハイは出来るようになった。
でも、何だろう。
もう少しカッコいい名前にはならなかったのだろうか…。例えば英語とかに…
いや文句を言うのはやめよう。
俺は勇者を目指しているのではない。
のんびり、まったり出来る「村人B」を目指しているのだ。
小さい頃から剣技を覚えたり、魔法を取得するよりずっと平和でいい。
それにこれは完全に自分の努力で手に入れたスキルだ。
そう考えると少し誇らしい。
……だが、このスキル一体何の役に立つんだろう。
俺は首を傾けた。
すると視界の端に小さな説明が表示されている。
『スキル【ハイハイ】Lv.1』
『効果:ハイハイによる移動が少し上手になる』
………。そりゃそうだ。
知ってた。だけど、何か他にないのか。
例えば少し疲れにくくなるとか、移動速度が少し上がるとか…
いや、赤ん坊の移動速度が上がったところで、一体何に使うんだろう。
母さんの目を盗んで家中を走り回る訳にもいかない。
まぁ、赤ん坊だから走れないのだが…
俺は小さく息を吐いた。
まぁ、いい。スキルがあるからといって無理に活用する必要はない。
俺は平和に暮らすのだ。
そう改めて決意した、その時だった。
『継続的な訓練により、身体能力の成長補正が適用されます』
…ん?何か余計なものが書いてなかったか?
俺は慌てて表示を確認した。
しかし文字はすでに消えていた。
……まぁ、気のせいだろう。
きっと気のせいだ。
人形を握りしめながら、そう結論づけた。
だが俺はまだ知らなかった。
この世界のシステムが、俺の何気ない日常を全て成長の機会として記録をしている事を…
読んでくださりありがとうございました。
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