【第27話】剣術の天才・後編
目立たず、騒がず、平穏に。
それが、前世の記憶を持って異世界に転生した少年、ミナモ・アステルの目標だった。
しかし、日常生活を送るだけでレベルが上がり、十歳の適性鑑定では全職業適性あり。能力値も規格外だったミナモは、バーデンセリア学園に首席で入学することに。
さらに、幼なじみのダンマ、カミル、フォートと共に始まる学園生活。個性豊かな生徒たちや厳しい授業、実技訓練が待ち受ける中、ミナモの固有能力【日常成長】は、本人の意思に反して彼をどんどん強くしていく。
「頼むから、普通に成長させてくれ……!」
果たしてミナモは、憧れの平穏な学園生活を送れるのか?
これは、村人Bを目指す少年が、望まぬ成長と周囲の期待に振り回されながら、普通の日常を守ろうと奮闘する物語。
左手に集めた魔力を維持しながら、
俺はアストレアの剣を受け止めていた。
木剣がぶつかり合い、
乾いた音が闘技場に響く。
アストレアの剣は正確だった…
力任せに振るうのではなく、
こちらの動きを読み最小限の動作で攻撃を繋いでくる。
防御から反撃への切り替えも速く、
簡単には隙を見せてくれない。
流石は剣術の天才と呼ばれるだけの事はある。
だけど、俺も試したい事があるのだ。
剣を構えたまま、
空いている手から魔法を放つ。
授業で聞いたのだが普通は剣術と魔法を同時に使う事は出来ないらしい。
どちらもとてつもない集中力が必要だからだそうだ…
―実はこっそりと授業前に練習をしていた…
そして今、目の前には実戦で試すのに申し分ない相手がいる。
「これでどうだっ!!」
アストレアが踏み込み、
木剣を斜めに振り下ろす。
俺は剣を合わせて軌道を逸らした。
衝撃が腕に伝わる。
そのまま相手の剣を押し返すのではなく、
半歩だけ横へずれて間合いを調整する。
アストレアがすぐに追撃へ移る。
その動きを観察眼で捉えながら、俺は左手を前に向けた。
「フレイムボール!」
火の魔法がアストレアの顔を狙うように飛んでいく。
「なんだと…!?」
アストレアは即座に身をひねり魔法を避ける。
しかし、避けるために踏み込みが止まる。
――ここだ!
俺はその一瞬を逃さず、木剣を振り抜いた。
ガキンッ!
アストレアも素早く木剣を戻し、
俺の一撃を受け止める。
「ま、まさか…
剣を使いながら魔法を放ったのか!?」
驚きの声が観客席から上がった。
その声をきっかけに闘技場全体がざわめき始める…
「お、おい。そんな事が出来るのか!?」
「いや、普通は無理なはずだ…」
「だけど、確かに剣を振りながら魔法を使っていたよなぁ!?」
教師たちも驚きを隠せない様子だった。
学園長も試合場をじっと見つめている。
「へぇ、凄いね。初めて見たよ。」
アストレアは一度距離を取り、
木剣を構え直した。
驚きはあっても戦意は少しも衰えていない。
「でもそれだけで勝てると思わないでよ!」
アストレアが再び動いた。
今度は先程より慎重だった。
こちらの左手を警戒しながら、
剣の間合いを保って攻撃を仕掛けてくる。
魔法を警戒させることはできたが、
その分相手も簡単には踏み込んでこない。
俺は木剣で攻撃を受け流しながら、
反撃の機会を探す。
右からの斬撃を受け止め、薙ぎ払いは身を引いてかわしていく。
またまだアストレアの攻めは止まらない…
体勢を崩したように見せかけ、突き技を仕掛けてくる。
「っ!」
俺は木剣を斜めに当て、突きの軌道を逸らした。
――ふぅ、危なかった…
観察眼がなければ、最後の一撃には対応できなかったかもしれない。
アストレアは剣の扱いだけでなく、相手の反応を誘うのも上手い。
こちらが魔法を使えるからといって、
簡単に押し切れる相手ではなかった。
それでも、少しずつ見えてきたものがある。
アストレアは魔法を警戒している。
俺の左手の動きに注意を割いていたのが分かる。
(まぁ前の戦いでやらかしたからなぁ)
なら、その警戒を利用できる。
俺はアストレアの剣を受け流しながら、
左手に魔力を集めた。
「また魔法か!」
アストレアが反応し、
俺の左手へ意識を向ける。
その瞬間、俺は魔法を放たずに踏み込んだ。
「まさか、しまっ……!」
木剣を振るう。
アストレアは反射的に防御へ移りどうにか受け止める。
しかし俺の狙いは攻撃を当てることだけではない。
剣をぶつけた勢いを利用して、次の動きへつなげる。
アストレアが木剣を押し返そうとした瞬間、俺は左手から風魔法を放った。
「はあっ!!」
風の魔法がアストレアの体勢を崩す。
「くはっ!」
踏ん張ろうとした足がわずかに流れた。
その一瞬を俺は観察眼で捉えていた。
――今だ、ここしかない!
俺は【身体操作】で踏み込みの動きを調整し、
体勢を崩したアストレアとの距離を一気に詰めた。
アストレアもすぐに立て直そうとするが、
風で崩れた姿勢からでは
いつものような正確な防御は間に合わない。
俺は木剣を振り抜いた。
――ドンッ!
木剣がアストレアの胴を捉えた。
アストレアは後方へよろめき、
数歩下がったところで膝をついた。
審判は闘技場全体に響き渡る声で宣言した。
「勝者、ミナモ・アステル!」
その瞬間、
観客席から大歓声が巻き起こった。
「うぉぉぉぉっ!」
「あの天才が負けたぁぁぁ!」
「今年の新入生はどうなってるんだぁ!?」
拍手と歓声が重なり、
闘技場全体が熱気に包まれる…
俺はその声を浴びながら、
ようやく決勝戦が終わったことを実感した。
――やっと、終わった…
剣術の天才と呼ばれるアストレアを相手に、なんとか勝利を収めることができた。
ほっと息をついたその瞬間だった。
目の前に文字が浮かび上がった。
『究極能力:魔剣双流を獲得しました』
「……え?」
思わず目を瞬かせた。
究極能力?魔剣双流?
――何だこれは…?
これまで獲得してきた固有能力とは、
明らかに雰囲気が違う。
一体、どんな能力なんだろう…
今すぐ確認してみたい…
けれど、闘技場は大歓声に包まれているし、目の前にはまだ膝をついているアストレアがいる。
……詳しい確認は後でしよう。
俺は表示を消し、
アストレアへ手を差し伸べた。
「大丈夫?」
「あぁ、問題ない。」
アストレアは俺の手を取って立ち上がる。
少し悔しそうな表情を浮かべていたが、
すぐに笑顔になった。
「僕の負けだ。
最後の魔法、あれは完全に意表を突かれた。」
「剣だけでもかなり危なかったけどね。」
「君が勝ったことに変わりはないさ。
剣術と魔法を組み合わせるなんて、
考えもしなかったね。」
アストレアはそう言って、
俺に手を差し出した。
俺もその手を握り返す。
互いに健闘を称え合うと、再び観客席から大きな歓声が上がった。
こうして、新入生対抗武闘大会の決勝戦は幕を閉じた…
優勝できたのは嬉しい。
しかし剣術の天才に勝ったうえで、
普通は出来ないと言われている剣と魔法の連携まで見せてしまった…
――明日からどんな目で見られるんだろう…
そんな不安を抱えながら、
俺は闘技場に響き渡る歓声を聞いていた。
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