【第25話】剛剣の猛攻
目立たず、騒がず、平穏に。
それが、前世の記憶を持って異世界に転生した少年、ミナモ・アステルの目標だった。
しかし、日常生活を送るだけでレベルが上がり、十歳の適性鑑定では全職業適性あり。能力値も規格外だったミナモは、バーデンセリア学園に首席で入学することに。
さらに、幼なじみのダンマ、カミル、フォートと共に始まる学園生活。個性豊かな生徒たちや厳しい授業、実技訓練が待ち受ける中、ミナモの固有能力【日常成長】は、本人の意思に反して彼をどんどん強くしていく。
「頼むから、普通に成長させてくれ……!」
果たしてミナモは、憧れの平穏な学園生活を送れるのか?
これは、村人Bを目指す少年が、望まぬ成長と周囲の期待に振り回されながら、普通の日常を守ろうと奮闘する物語。
準決勝の試合場へ向かう通路を歩きながら、俺は対戦相手の事を考えていた。
――ガルド・ベルク。
剣術を得意とし特に筋力に定評があるらしい…
闘技場に出ると、向かい側から一人の少年が歩いてきた。
身長は俺よりもかなり高く、
十歳とは思えないほどがっしりとした体格をしている。
日に焼けた肌に、少し跳ねた髪。
肩には大きな木剣を担いでおり、
野性的な雰囲気を漂わせている。
「おぅ、お前がミナモか。
二回戦の試合、見てたぜ。
剣で魔法を斬るなんてなかなかおもしれぇ事をするじゃねぇか!」
「あ、ありがとう。よろしくな。」
「おぅ!遠慮はいらねぇからな!」
ガルドは豪快に笑い、木剣を構えた。
審判が試合開始を告げる。
「それでは、準決勝第一試合
――始めぇ!」
まずは相手の実力を確かめるか。
俺は木剣を構え、ガルドの動きを観察した。
ガルドは大きく踏み込み、
木剣を振り下ろしてくる。
俺は横へ動いて攻撃をかわした。
――ドンッ!
木剣が石畳に叩きつけられ、
鈍い音が響いた。
――おいおいまじか。木剣でこの音かよ……
「おらよ、まだまだ行くぜぇ!」
ガルドは間髪入れずに剣を振り上げ、
横薙ぎに振るってくる。
俺は木剣で受け流そうとしたが、衝撃の強さに腕が痺れた。
「っ……!」
思わず後方へ飛び退く。
剣を受け止めるだけでも負担が大きい。
力を逃がしたつもりだったが、
それでもこれほどの衝撃が来るとは…
正直、想像以上だ。
「どうしたよぉ!
まだ様子見ってか?」
ガルドは楽しそうに笑いながら、
再び距離を詰めてくる。
俺は観察眼を発動させ、
相手の動きを細かく確認した。
筋力の値は非常に高い。
攻撃の威力も申し分ない。
一方大きく踏み込んで剣を振るうために、
攻撃後にはわずかな隙が生まれている。
そこを狙えば剣でも勝機はあるだろう…
しかし、問題は攻撃の重さだ。
隙を突こうとしても、こちらが先に体勢を崩されれば意味がない。
無理に接近戦を続ければいずれ大きな一撃をもらいかねない…
――これは剣で相手をするのは面倒だな…
俺は距離を取りながら、
ガルドの動きを見続けた。
何度か攻防を繰り返したが、こちらから決定的な一撃を入れるのは難しい。
ガルドは細かな技術よりも、
圧倒的な力と勢いで押し切る戦い方を得意としているみたいだ。
「逃げてばかりじゃ、勝てねえぞ!
さぁ、もっと見せてくれよぉ!
お前の力をよぉ!」
「あぁ。
そろそろやり方を変えさせてもらうよ。」
俺は木剣を構え直し改めて相手の動きを分析した。
そして、一つの弱点に気づく。
ガルドは強烈な一撃を放つ際、
踏み込む足に大きく体重を乗せている。
その瞬間重心が前方へ偏り、
次の動作へ移るまでにわずかな時間が生まれていた。
そこだ…そこを狙えばいい。
俺は木剣を構えたまま、
空いている手に魔力を集めた。
「……ん?
今度は何をするつもりだ?」
ガルドが眉を上げる。
俺の手のひらに、赤々と燃える火球が生まれた。
「さぁ、行くぞぉ!」
ガルドが大きく踏み込んだ瞬間、
俺は火球を放った。
「そんなもん、叩き落としてやるよ!」
ガルドは木剣を振り下ろす。
だが火球は剣に触れる直前で弾け、
激しい炎を巻き起こした。
「はっ?な、何だこれ!?」
炎に視界を遮られ、
ガルドの動きが一瞬止まる。
俺はその隙に魔力を練り上げた。
今度は風属性の魔法だ。
周囲の空気が渦を巻き、
俺の手元へと集まっていく。
狙うのはガルドの重心が前に傾いた瞬間…
「ここだ…
これで終わりだ!」
俺が手を振り抜くと、
圧縮された風が轟音とともに放たれた。
「うぉぉぉぉぉ!?」
強烈な突風がガルドの身体を正面から捉える。
大柄な身体が宙に浮き、そのまま試合場の端まで吹き飛ばされた。
―――ドォンッ!!
一瞬、会場が静まり返る。
やがて審判が慌てて駆け寄り、
ガルドの状態を確認した。
「……勝者、ミナモ・アステル!」
その宣言と同時に、
闘技場が地鳴りのような歓声に包まれた。
「剣術だけ優れているんじゃないのか!」
「今の魔法、威力が凄まじかったぞぉ!」
学園長席では教師たちが驚きを隠せずにいた。
「剣術だけでも上級生を含めても、
相当な実力だなと思ってましたが……」
「えぇ、魔法の威力も相当なものですね。
しかも、相手の動きに合わせて使っていますね。」
学園長は目を細め、
試合場の中央に立つミナモを見つめた。
「なるほど…
適性鑑定で全ての適性を示した理由が、
少し分かった気がする…」
一方、俺はというと歓声を浴びながら顔を
引きつらせていた。
――あ、やってしまった…
これはちょっとやり過ぎたかもしれない。
剣だけでは厳しいと思って魔法に切り替えたのだが、まさかあそこまで吹き飛ぶとは…
俺は倒れていたガルドが無事だと確認し、
ようやく胸をなで下ろした。
準決勝は勝利。残るは決勝だけだ。
……決勝では、もう少し加減を考えよう。
読んでくださりありがとうございました。
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