【第21話】初戦でやらかしました
目立たず、騒がず、平穏に。
それが、前世の記憶を持って異世界に転生した少年、ミナモ・アステルの目標だった。
しかし、日常生活を送るだけでレベルが上がり、十歳の適性鑑定では全職業適性あり。能力値も規格外だったミナモは、バーデンセリア学園に首席で入学することに。
さらに、幼なじみのダンマ、カミル、フォートと共に始まる学園生活。個性豊かな生徒たちや厳しい授業、実技訓練が待ち受ける中、ミナモの固有能力【日常成長】は、本人の意思に反して彼をどんどん強くしていく。
「頼むから、普通に成長させてくれ……!」
果たしてミナモは、憧れの平穏な学園生活を送れるのか?
これは、村人Bを目指す少年が、望まぬ成長と周囲の期待に振り回されながら、普通の日常を守ろうと奮闘する物語。
対戦相手の待機場所へ向かうと、一人の男子生徒が壁にもたれ掛かりながら木剣を弄んでいた。
整えられた髪に、どこか人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。
いかにも自分の実力に自信がある、といった雰囲気だ。
俺が近づくと男子生徒は顔を上げ、
こちらを上から下まで眺めた。
「へぇ、あんたが首席のミナモ君?
思ってたより普通じゃーん。
もっとこうすっげぇオーラでも出てんのかと思ったわ!」
「そ、そうか。」
「反応薄っすぅ!
まぁ良いけどよぉ。俺結構強いからよぉ、
あんまりすぐ負けてくれるなよぉ?」
そう言って、男子生徒は軽い調子で笑った。どうやらかなり自信があるらしい…
「まぁ、よろしく頼む…」
俺はそれだけ返し試合場へと向かった。
大会が行われるのは円形の石造りの観客席が試合場を取り囲む、
まるでコロッセオのような巨大な闘技場だ。
観客席には多くの生徒や関係者が集まり、中央の試合場を見下ろしている。歓声や話し声が響き渡り、会場全体が熱気に包まれていた。
出来ることなら余計な注目を集めずに終わらせたい。
相手がどれほど自信満々だろうと、こちらの都合は変わらない。
パパっと勝って、無事に次へ進む。
それが一番だ。
試合場の中央で向かい合うと、
相手は木剣を肩に担ぎニヤリと笑った。
「ま、手加減はやるから安心しなよぉ…」
「…あ、ありがとう…」
「両者、構えろ!」
審判の声を聞き、俺は木剣を構えた。
相手もようやく肩から木剣を下ろし、
軽い構えを取る。
「では…始め!」
合図と同時に、相手が踏み込んできた。
「ほらよぉ!」
勢いよく振り下ろされた木剣を、
俺は半歩横へ動いてかわした。
木剣が空を切る。
相手はすぐに体勢を立て直し、
今度は横薙ぎの一撃を放ってきた。
俺は木剣で軌道を逸らし、そのまま後ろへ下がる。
「おいおい…逃げんのかよぉ!
攻めてこいよぉ!首席ってのも大したことねぇんだなぁ!」
相手は笑いながら追撃してくる。
剣筋そのものは悪くない。踏み込みにも力があり新入生としては十分な実力を持っているようだ。
だが、攻撃には少し癖がある。
踏み込む直前に肩が動き、
連続攻撃に移る際には重心が前へ傾く。
能力を使わずとも見えていた特徴だが、
能力を発動させればより明確に動きの傾向を把握できた。
【固有能力:観察眼】
相手の能力値と戦闘傾向が視界に浮かぶ。
俺はそれを確認しながら、攻撃をかわし続ける。
「おいおい…ちょ待てよぉ…
攻撃が当たらねぇんだけどぉ!?」
相手の笑顔が少しずつ引きつっていく。
「お前、避けてばっかじゃんよぉ!
ちゃんと攻撃してこいよ!ド派手になぁ!」
「まぁ…必要があれば、な。」
「はぁ!?どういう事何だよぉ!」
苛立ったように声を上げている。
先程までの余裕は薄れ、
木剣を握る手にも力が入っている。
無理に攻める必要はない…
攻撃を見極め隙ができたら決める。
それだけで十分だ。
しかし、相手はそう考えなかったらしい。
「もういいぜぇ!?
これで終わらせてやるよぉ!」
大きく踏み込んだ相手が、渾身の力を込めて木剣を振り下ろしてくる。
今までよりも大振りで攻撃後の隙も大きい。観察眼が示す動きの傾向とも一致していた。
俺はその一撃を軽やかにかわし、
相手の懐へ踏み込み木剣を一振りした。
鈍い衝撃音が響いた直後、
相手の体が宙を舞った。
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
男子生徒は勢いよく吹っ飛び、
試合場の端近くまで転がっていった。
手から離れた木剣が床を跳ね、乾いた音を立てる。
――闘技場が静まり返った…
誰もが目の前で起きた光景を理解できず、
動きを止めている。
俺も、思った以上の威力に目を瞬かせる。
――やべぇ、やりすぎたか…
ステータスを振り分けた影響だろう。
以前より力が増しているのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった。
「お、おい。大丈夫かー!」
審判が慌てて相手へ駆け寄る。
男子生徒はしばらく呆然としていたが、
どうやら意識はあるようだ。
体を起こそうとして、何が起きたのか分からないといった顔で俺を見つめている。
「い、今のは何をしたんだ!?」
「え、いや普通に剣を振っただけだよ。」
「普通にって…!」
男子生徒は言葉を失った。
審判が怪我の有無を確認し、安全に試合を続けられないと判断したところで、ようやく勝敗が告げられた。
「勝者、ミナモ・アステル!」
その声をきっかけに、闘技場からどっと歓声が上がった。
石造りの観客席からも驚きの声が飛び交い、先ほどまでの静けさが嘘のようだ。
「一撃で決めたぁぁぁ!」
「れ、レベルが違う…」
「今の動き、見えたか?」
俺は木剣を下ろし相手のもとへ歩み寄った。
「立てるか?」
「あ、ああ……。」
男子生徒は差し出された俺の手を借りて立ち上がった。
先程までの軽薄な笑みは消え、困惑と悔しさが入り混じった顔をしている。
「お前、本当に俺と同い年なのかよ…」
「あぁ、まぁ一応な。」
「いや、そういう事じゃなくてだな…!」
何か言いたげだったが、
結局相手は深く息を吐いた。
「…はぁ、参ったよ。俺の負けだ。」
「ありがとうございました。」
俺は頭を下げ、試合場を後にした。
初戦は突破できた。
怪我もせず試合も無事に終わった。
結果だけを見れば上々だ。
ただ、闘技場の観客席からまだ俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
―――あ、やってしまった……
普通にやったはずだが、初戦から相手を一振りで吹っ飛ばすなんてどう考えてもやり過ぎだ。
俺は歓声を浴びながら、そっと顔を伏せた。
――まぁ、次もぼちぼち頑張るか…
読んでくださりありがとうございました。
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