【第14話】始まり
目立たず、騒がず、平穏に…
それが、俺――ミナモ・アステルの人生における最大の目標である。
前世の記憶を持ったまま異世界に転生した俺は、今度こそ平凡な人生を送ろうと心に決めていた。英雄になんてならなくていい。世界を救う必要もない。できれば村人Bくらいの立ち位置で、のんびり暮らしていきたい。
はぁ、……なのに。
日常生活を送るだけで経験値が入り、気づけば勝手にレベルが上がる。何をするにも妙にうまくいき、十歳になって受けた適性鑑定では、まさかの全職業適性あり。
おまけに能力値まで規格外だったらしい。
結果、俺はバーデンセリア学園に首席で入学することになってしまった。
どうしてこうなった。
しかも、幸いなことに幼なじみのダンマ、カミル、フォートも同じ学園に進学することになった。
気心の知れた仲間が一緒なのは心強い。
……うん、心強いはずだ。
ただし、三人とも学園生活への期待に胸を膨らませている一方で、俺の願いはただ一つ。
普通の学園生活を送ること
授業を受けて、友達と話して、昼飯を食べて、放課後にはのんびり過ごす。そんな何でもない毎日を送りたいだけなのだ。
ところが、俺には一つ厄介な問題がある。
固有能力――【日常成長】。
新しい動作を覚えるたびに経験値を獲得し、一定量に達すれば、俺の意思などお構いなしにレベルアップするという、とんでもない能力だ。
剣を振るえば強くなり、魔法を覚えれば成長し、日々の何気ない動作でさえ、俺を少しずつ規格外へと押し上げていく。
……頼むから、普通に成長させてくれ。
そんな俺が足を踏み入れたのは、勇者を目指す子どもたちが集うバーデンセリア学園。
個性豊かな生徒たち。厳しい授業。実技訓練。そして、俺の平穏を脅かす数々の出来事。
果たして俺は、無事に目立たない学園生活を送ることができるのだろうか?
…いや、送らせてほしい。
これは、平凡を望む少年が、望んでもいない成長と周囲の期待に振り回されながら、それでも自分らしい日常を守ろうとする物語…
村人Bを目指す少年の、ちょっと騒がしい学園生活が今、始まる。
学園長との話を終えた俺は、受付で手続きを済ませていたダンマたちと合流した。
三人とも手続きを終えたようで、これから向かう教室について話していた。
「おっ、ミナモ帰ってきたか!
学園長との話は終わったのか?」
「――あぁ、ちょっと話をしてきたよ。」
「何の話だったんだ?」
カミルに尋ねられ、俺は学園長との会話を思い返し答えた。
「一か月後に、新入生対抗武闘大会があるらしいんだ。
それで、俺も出場することになった。」
「おいおい…マジかよ!?すっげぇ!」
ダンマが目を輝かせている。
どうやらこういう事も興味があるらしい。
「入学してから一か月で大会かぁ。
思ったより早いんだね」
カミルは少し驚いた様子だった。
(うん…俺もそう思う。)
「でも、ミナモが出場するってことは…
やっぱり選抜されたの?」
フォートの質問に、俺は頷いた。
「そういう事らしいよ…
他にも優秀な新入生がいるみたいで、
学園長は実際に戦うところを見てみたいんだってさ…」
「はぁ、なるほどなぁ…
適性鑑定の結果だけでは、実際の戦闘能力まではわからないからか。」
「うん。そういう事だと思うよ。」
俺は適当に相槌を打つ。
学園長の話によれば、俺以外にも優秀な新入生がいるらしい。
そういう生徒たちを集めて大会を開き、
それぞれの実力を確かめるという事なのだろう。
「いやぁ、それにしてもすごいなぁ!おい! 入学早々、大会に出場するなんて!」
「まぁ、大会って言っても新人戦みたいなもんだよ。」
ダンマは自分のことのように喜んでいる。
「俺たちは出られないみたいだけど、
ミナモの試合は見られるのかな?」
「うーん、どうだろ…
そこまでは聞いてないな。」
「見られるなら、ぜひ応援したいね」
ダンマ、カミルとフォートも、俺の出場を楽しみにしているようだった。
――やれやれ…二人とも、
ずいぶんと気楽なことを言ってくれる。
いや、別に三人が悪いわけじゃない。
俺だって、幼なじみが大会に出ることになったら応援するだろう。
ただ、俺自身はできるだけ目立ちたくないのだ。
適性鑑定の結果が規格外だったせいで首席入学になり、入学前から学園長に目をつけられている。
そこへ大会で活躍したりすれば、さらに注目を集めることになりかねない。
俺はただ、普通に学園生活を送りたいだけなのになぁ…
「ミナモなら、きっと大丈夫だろ!」
ダンマが自信満々に言った。
「いや、まだ何もしてないんだけど……
剣も使ったこと無いし、魔法も無いよ。」
「でも、適性鑑定ではすごい結果だったんだろ?だったら、強いに決まってるじゃねぇかよ!」
――適性鑑定の結果と、実際の戦いがどれだけ結びついているのかは、俺にも分からないんだけどな……
それに、強いと思われる事自体が、今の俺にとっては悩みの種だ。
学園長からは、大会では真剣に戦ってほしいと言われている。
相手を侮ったり油断したりすれば、大怪我に繋がる事もあるらしい。
もちろん、その話を三人にするつもりはなかった。余計な心配をかけたくないからな。
目立つのは嫌だ。
けれど、怪我をするのはもっと嫌だ。
わざと負けるために手を抜いて、相手の攻撃をまともに受けるなんて本末転倒だろう。
かといって、全力で戦えば余計な注目を集める可能性が高い。
ふぅむ…どうしたものかな…
今から悩んでいても仕方がない。
まずは授業を受けて、自分の実力をきちんと把握しよう。
(後で久々にステータスでも確認しようかな…)
どんな戦い方ができるのか。それを知っておけば、大会でも余計な怪我をせずに済むはずだ。
「ところで、俺たちの教室ってどこなんだ?」
ダンマの声で、俺は考え事を中断した。
「受付でもらった案内書に書いてあるんじゃない?」
カミルが手元の書類を確認する。
そこにはクラス分けと教室の場所が記されていた。
「あ、あった。
俺たち、全員同じクラスみたいだよ!」
「本当か?やったぜぇぇ!!」
ダンマが身を乗り出す。
「うん。ほら、ここ。」
カミルが見せてくれた書類を覗き込むと、確かに俺たち四人の名前が同じクラスに並んでいた。
「やったなぁ!。
知り合いがいるだけでも、学園生活は過ごしやすいしな!」
フォートの言うとおりだ。
知らない人間ばかりの環境で、最初から一人で過ごすのは面倒だ。
幼い頃から一緒にいる三人が同じクラスなら、少なくとも気楽に過ごせるだろう。
――名前を覚えるのも面倒だしな…
「よし、じゃあ一緒に教室へ行こうぜ!」
「あぁ、じゃ行くか!」
俺たちは案内に従って、これから一年間を過ごす教室へと向かった。
廊下には俺たちと同じ新入生らしき生徒たちが大勢いて、あちらこちら楽しそうな声が聞こえてくる。
貴族らしい身なりの生徒もいれば、
俺たちのように比較的質素な服装の生徒もいる。
流石は王都にある名門学園と言うべきだろう。
建物の立派さも、集まっている生徒の数も、村で暮らしていた頃とは比べものにならない。
これから始まる学園生活に期待を膨らませている生徒たちを眺めながら俺は小さく息を吐く。
まずは授業を受けて、学園での生活に慣れる事。
そして、自分の実力を把握する事。
一か月後の大会については、それから考えよう。
――出来れば目立たず、怪我もせずに終わらせたいものだ。
そんな事を考えながら、俺は幼なじみたちと一緒に教室へと足を踏み入れた。
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