ホクホクじゃがいもの新世代、キタアカリ
百姓が独断と偏見で語るじゃがいものお話。歴史ある品種が2つ続いたが、3つめの品種は、比較的新しく開発された、暇庭も大好きな品種、キタアカリについて語ろうと思う。
キタアカリは男爵やメークインから少し時をおいて、1970年代に開発された。新しさでは中堅くらいのポジションになるだろうか。センチュウ害への耐性を期待して生み出されたキタアカリは、むしろそのホクホクとしたきわめて優れた食感で世間に名が知られることになった。
1話めの中で、日本人がじゃがいもを語るときは男爵と比較しがちであることは述べた。ここはまず男爵とキタアカリとの比較をしてみようと思う。キタアカリもハッキリした個性があって、しっかり自分のポジションを確保しているすぐれた品種だ。
まず、調理して食べる場合だが、男爵と比べてもさらに芋の中のでんぷん含有量が多い。ということは男爵を超えるホクホク加減が期待できる品種でもある。
実際にネットで見てみてもお客様から今まで頂いたご意見としても、男爵よりさらにホクホクの食感をもつ芋だ。そして、キタアカリは男爵いもよりやや肉質がやわらかい。
ホクホクでやわらかいキタアカリの肉質はマッシュポテトなどにもとても向いている。皮付きのまま鍋に入れて水をコップなみなみニ杯入れ、コンロに点火して中火で30分ほど根気よく蒸し茹でにしてみてほしい。
蒸し上がったキタアカリは、皮を剥き、鉢に移してすりこぎでちょっとつつくとあっという間にマッシュポテトへと変貌する。味付けの前に一口試食してみよう。素晴らしい風味がするはずだ。同じ理屈でコロッケにも素晴らしい適性を有する。男爵より甘みもあり蒸かし芋として食べても無類の美味である。
言い忘れたがやわらかい肉質は煮崩れしやすさにも直結する。キタアカリをカレーに入れるといつの間にか溶けて姿を消していた……などということは珍しくない。(それもおいしいよね?わざと辛口に作ったカレーにじゃがいもが溶けるとコクがぐっと増すと思うの。肉じゃがの煮崩れたやつも俺大好き。全然気にならん)
とまあ私個人の好みはこんな感じてある。食味の面では今のところ一番好きなじゃがいもで、男爵やとうやのほうが圧倒的に普段使いに向いていることを知りながらちょくちょく栽培してしまう。認めよう。私はキタアカリの奴隷だ。
食感に加えて、次は栄養価を見てみよう。わざわざ栄養価について話を出すのは、キタアカリが栄養面でもすぐれるからに他ならない。
キタアカリは、可食部100グラムあたり、掲載するサイトによっても異なるのだが38mg〜46mgものビタミンCを含む。栄養面でのもっともすぐれた点だ。
一般的な男爵いものビタミンCは25mgを超えることはほぼないと言えば、この数値がいかにすごいかお分かりいただけると思う。じゃがいもの中では断トツのトップで、しかも、じゃがいもに含まれるビタミンCは茹でても焼いても損失が少ない。芋自身のでんぷんと食物繊維に守られたビタミンCは、加熱による破壊からいくらか守られ、火を通しても壊れにくいのだ。
野菜が嫌いな人もじゃがいもなら食べられるという人は多い。キタアカリを野菜の一つとしてみなし、どうしても不足しがちな野菜のかわりにするというのは、けっして冗談ではなく悪くない選択だ。
同じくキタアカリのβ-カロテンはじゃがいもの中では多い方で、これもキタアカリを代用野菜として推す理由になる。芋という炭水化物でありつつも野菜としての性格を兼ね備えるのがキタアカリの良いところなのだ。
さあ、食べるにあたっての良いところを紹介したが、続いて百姓としての目線も語っていこう。
キタアカリは栽培面でも大変優秀なじゃがいもだ。まず、できるのが早い。男爵より10日は早いだろう。本格的に収穫しなくても、畝を崩しながら手探りでその日食べる分を掘りとって、6月末から少しずつ食べられる。
梅雨の雨の間を縫って新じゃがいもの、それも採れたてのものを食べることが叶うのだ。誰かに言ったことこそないが、この行いはなかなか贅沢だと思う。30分前まで土の中にいたキタアカリのじゃがバター。自分でじゃがいもを作らなければこれは絶対に食べられまい。百姓の特権というやつだ。
キタアカリの栽培をするにあたってよいところがもうひとつ、ご存知の方も多いはずだがキタアカリは芽の部分がピンク色をしているのだ。
色味としてもたいへんに可愛らしいが、百姓目線だとその芽のピンク色のおかげで、ほかの品種と混ざって見分けがつかないなどということが一切ない。
例えば床にキタアカリともう1品種、違うじゃがいもをコンテナをひっくり返し適当にぶちまけたとして、私はキタアカリを選り分けて再びちゃんと分けられる。百姓として自信がある。形が似ていたとしてもキタアカリを見逃しはしない。
それはつまり、キタアカリともう1種類のじゃがいもを合わせて育てていて、同じ日に収穫して混ざったまま乾燥工程に入ってもあとで選り分け可能であることを意味する。忙しいときに杜撰な作業をしてもいい冗長性のある作物。実に素晴らしい。だから私はキタアカリが好きなのだ。煮崩れしやすい性質上、やや調理法が限定されがちであることを差し引いても、私は今後もたびたびキタアカリを栽培することがあるだろう。ホクホクの味と食感、高い栄養価、分かりやすいピンクの芽。どれをとっても暇庭の好みをバッチリ突いてくるキタアカリは、男爵に続く新世代のエースなのかもしれない。
個人的に大好きな品種なのでつい熱くなってべらべら余計なことを書いた気がしないでもない。もっともここに書いたもので金を取るつもりもないのでこれからも好き放題やっていく。
キタアカリの花は、親である男爵の性質を受け継いでいて薄紫色の可憐な花だ。あとがきに毎度出ている通りでじゃがいもの花は見ていてもなかなか美しくて好きである。キタアカリはどういうわけか、花が咲いたあと緑色のミニトマトのような実を結ぶことがある。品種改良の際はこういう実のなかに入った種から優れた性質のものを選び出したりもするようだ。そういう意味でも面白くて興味が尽きない品種である。




