第98話 スシネバーダイズ後編②
前回のあらすじ:
マグロ勝負が始まる!
◆◆◆
休憩時間は無しのままスシバトルは続行。金星さんと司先生、さらに蛍さんと松風先輩が俺と賀集さんが居る寿司同好会側の応援スペースに合流する。
「金星さん! ありがとう! ジャストタイミングだったよ!」
「ふふ……ギリギリまでタイミングを見計らっていましたからね! 扉の隙間から様子を伺ってましたのよ」
扇子で口を隠してオホホと笑う金星さん。
「……せめて到着した事ぐらいは連絡欲しかったかな」
「もー! こっちは二人でずっとハラハラしてたんだからね!」
賀集さんからも珍しく苦言が飛び出す。映画みたいなタイミングでの登場だと思っていたら狙っていたのか……抜け目のないエンタメお嬢様だ。でも、金星さんらしいな。
「司先生はいつ合流されたんですか?」
「アジ勝負の審査中に金星さんから電話が来て、そこからすぐに校門で合流したわ」
「結構ギリギリだったんですね……」
少しでも遅れていたら危なかったんだな。
「蛍さんもお疲れ様です! ここ数日はずっと金星さんのサポートですか?」
「はい。なので負けたら許しません」
「あ、はい」
金星さんが目にクマ作るぐらいだもんな。あと俺にそんな事言われても困るのだけど……
「ま、松風先輩もありがとうございます! 助かりました!」
「私はマグロを届けただけよ……それに勝負はここから。鳥路さんを見守りましょう」
松風先輩の視線の先は今まさにスシバトル中の二人に向かっていた。
「……はい!」
四本目のお題はマグロ。部位の指定とかはなかったけど……スシバトル部は赤身で勝負をしてくるようだ。かといってこちらが寿司屋から譲って貰ったマグロはいずれも赤身。自ずとマグロの赤身の寿司対決になるようだ。
鳥路さんも帯刀もマグロを人数分寿司ネタに切り分けていく。ただ、鳥路さんの方は貰った部位を確認しながら使う箇所を選んでいるようだ。観客一人に対して一貫なので種類や部位を比較される要素はなく不要な作業に見えるかもしれないけど、鳥路さんの寿司に対する真摯な姿勢がわかり、俺は安心してその様子を見守っていた。
「ここで先に帯刀さんが握りに入ります! 本日当たり前のよう見てきましたが、これほどの速さで綺麗に寿司を握れる女子高生が日本にいるのでしょうか! まさに達人です!」
放送部のMC、綿貫さんが帯刀の寿司を改めて紹介、評価する。
実際、鳥路さんよりも握るスピードは速い。出来上がりの形も綺麗で、下手な寿司屋では彼女に太刀打ちできないであろう事を実感する。
一方で鳥路さんは……
「スーッ……ハーッ……」
し、深呼吸してる!? 目も瞑って精神統一でもしているのか!? 何で!?
「鳥路さん! ま、まさかのセルフチルタイム! スシバトル中にチルタイムだ!」
まさかの鳥路さんの行動に綿貫さんもギャラリーも騒然とする!
「何の真似だ鳥路英莉? もう疲れたのか?」
手を止めて汗を拭いながら鳥路さんを煽る帯刀。
「……ハンデだ」
「は?」
「ここからお前より早く三十貫握り終える」
鳥路さんの……宣戦布告! 突発的な後出し早握り勝負!
本筋とは関係ない突然の勝負にギャラリーが湧く!
「スシバトルの中でバトルするのかよ! 凄いエンタメだ!」
「体育祭のリベンジか!? しかも自分が不利な状況でそれを言うか!?」
「キャー! 鳥路さーん!」
黄色声援が聞こえたのは俺の気のせいだと思いたい。
「どういうつもりか知らないが、小手返しと本手返しじゃ根本的な手数が違う! どんなに速度を上げようが私には勝てない!」
帯刀は寿司を握るギアを僅かに上げてくる!
帯刀の握り始めに合わせるように鳥路さんが右手でシャリを取り、握りの体勢に入る!
鳥路さんは左手に置いた寿司ネタの上にシャリを乗せ、右手の人差し指で一回握る!
最近ようやくわかった本手返しの特徴とも言える行為、鳥路さんは右手の指で握った寿司を乗せ、左手でそれを持ち替えた!
……そして、左手で押さえた寿司を再び右手の人差し指でもう一度握る!
左手で寿司ネタが上になるように寿司を転がし、右手でそれを手に取り……皿の上に乗せた!
早い!
いつもなら持ち替えてから何回か整形のために寿司を握っていたはずだけど、今回の鳥路さんはそれらの工程を全て省略! かといって出来上がった寿司はいつもと変わりない美しい形状! 凄い!
鳥路さんは氷で冷やした酢水で両手を洗い、軽く水分を飛ばしてから二貫目を着手する!
帯刀は……このタイミングで一貫握り終える! 既に握り終えたものと合わせて五貫目!
「な……!」
鳥路さんの握るスピードに驚き、帯刀の手が一瞬止まる! その一瞬でさらに差が縮まる!
その光景を見たギャラリーが大歓声を上げる!
「もう一貫握ったの!? 速くない!?」
「でも形は綺麗だし、どうなってんだ!?」
「凄い技だ! よくわからないけど素人でもわかる凄さだ!」
実際どうなってるんだ!? 指で押さえる二回のタイミングで全部完結させているのか!?
「根木さん!? 根木さん!! 何が起きているんですか!? 私鳥路さんの方がゆっくり握ってた印象だったんですけど! なんかめちゃ早くないですか!?」
綿貫さんが興奮気味にマイクを根木さんの頬に押し付ける。どうやら興奮するとこうなるらしい。
根木さんがそのマイクを奪い取る。
「私も驚いている。ベースは本手返しなんだが……細かく整形するための工程を全部すっ飛ばしてるんだな。最初の一回と持ち替えてからの一回で全部決めてやがる。バケモンかあいつは……」
根木さんがそんなことを言うぐらい鳥路さんは凄い事をやっているのか!?
「体温が高い鳥路にはベストな方法だろうけど……とんでもない解決法だ! 凄いぞ鳥路! この短期間で自分の寿司を掴んだって言うのか!」
根木さんからの賛辞で会場が揺れる程の盛り上がりを見せる!
綿貫さんが根木さんからマイクを奪い返す。
「ここで鳥路さんが帯刀さんに追いついた! しかしここでお互いラスト一貫! 勝負は互角か!?」
僅かに鳥路さんが早くラスト一貫の着手に入る!
帯刀もラスト一貫に移る! 帯刀の表情に余裕はない!
「馬鹿な……! そんな握り方……! あってたまるか!」
帯刀は焦っていたのか、手元が狂ったのか……原因はわからない。
ただ、帯刀の握っていた寿司が手からこぼれ落ちてしまった事は事実だった。
「うっ……!」
帯刀の寿司が床に落ちた瞬間、鳥路さんがラスト一貫を握り終えた。
「と、鳥路さんの勝ちだー! 勝敗には関係ありませんが、早握り対決は鳥路さんの勝ち! 体育祭のリベンジ達成だ!」
会場が鳥路さんコールで埋め尽くされる!
本筋とは関係ない勝負だったけど……早握り勝負は鳥路さんの勝ちだ!!
感想・評価をいただけると、執筆の励みになります。
◇◇◇
こちらの作品はカクヨムからの転載版です。




