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第91話 スシネバーダイズ前編④

前回のあらすじ:

マグロが無い!


◆◆◆


 マグロが無いまま放課後になってしまった。金星さんの連絡はない。というか今日は学校に来ていないっぽい。だ、大丈夫なのか……金星さん……


「マグロは四戦目。最悪、そこまでに三勝して勝ち切るか、二勝しておけば持ち堪えられる」


 鳥路さんは最悪のケースを想定しているようだ。


「金星さんはきっとマグロを持って来てくれるよ! 信じよう!」


 寿司同好会の全員が賀集さんと同じ気持ちではある。金星さんは決して勝負から逃げるような人ではないはずだ。一人でスシバトル部を何とかしようとしていた人だぞ。それに鳥路さんの言う通り三連勝すればマグロは不要になる。希望的観測かもしれないが、あくまであり得る可能性の一つだ。無くは無い。 


「金星さんの状況は私が確認しておくわ。山本くんと賀集さんは鳥路さんに何かあればフォローを。鳥路さんは……ベストを尽くして!」


「はい!」

「はい!」

「はい……!」


 司先生はこの場を俺達に託し体育館から出て行く。

 ……そう。今回のスシバトルの会場は家庭科室ではない!



「さぁさぁ! 時間となりました! スシバトル部帯刀冴vs寿司同好会鳥路英莉のスシバトル! 五月の最後の金曜日! 六月を迎えられるのはどちらか! スシバトル! 開幕です!」


 体育祭の時に実況していた放送部の女子がステージ上で司会を始める。彼女の開始宣言で体育館にぎっしりと詰まるギャラリーは大盛り上がりだ。

 撮影ドローンが飛んでいると言う事はライブ配信もしているんだな……これまでで最大規模のスシバトルになりそうだ。

 ……この異常な熱気の中でも鳥路さんは目を瞑り集中している。メンタルが強い人は本当に頼もしい。寿司を握らない俺の方が緊張しているまである。


「説明不要かと思いますが……まずは本日のスシバトラーの紹介から! スシバトル部部長! 二年生の帯刀冴さん! スシバトル部メンバーの寿司技術を鍛えてきたまさにスシバトル部の頂点! 体育祭ではスシバトルで赤組を優勝に導きました! 本日はどんな寿司を見せてくれるのか!?」


 湧き上がるギャラリー! 何でこんなに人気があるんだ!?

 スシバトル部なんて寿司同好会相手にスシバトルしかしてないだろ!


「学食の曜日限定の寿司とか食ったことあるけどうめぇんだよなぁ! 審査員になりてぇよ!」


「練習で握った寿司も安くて美味いのよね! 部活のレベルが高い証拠よ!」


「野球の練習試合の差し入れで寿司を貰ったぜ! 疲れた体に酢飯が効くんだ!」


 な、なんだ!? ギャラリーの声から知らない奴らの活動内容が聞こえてくる!


「賀集さん!? スシバトル部が何やってたか知ってた!?」


 隣に立っている賀集さんに確認する。

 俺が知らないだけかもしれない。弁当と購買派だから! 


「学食のメニューにあるのは知ってたけど他は知らないよ!」


 くそ、てっきり向こうがアウェイだと思ってたらそんなことなさそうだ。

 むしろ俺達は対外的な活動は全然できていない! 良くないぞこの流れ!

 声援に応えて手を振る帯刀の姿からは王者としての貫禄すら感じる。

 お前、そんなキャラじゃないだろ……!


「対するは……この春北海道から来た刺客! 同じく二年生の鳥路英莉さん! スシバトル部に対抗するかのように設立された寿司同好会のエースです! スシバトル部の部員とスシバトルをしてはスシバトルを禁止させてきた鬼! しかも鳥路さんはあの寿司警察ではとの噂も……!? しかし、スシバトル部に勝ってきた実力は本物! 果たして今日はどんな寿司を握るのか!?」


 声援に混ざってブーイングが聞こえるんだけど……? だ、誰だよこの原稿書いた奴!? 

 帯刀の隣に立つ笹垣が俺の狼狽える様子見てニヤついてる。お前だと思ったよ!!


「寿司警察って寿司屋潰したってあれでしょ? やばい奴じゃん!」


「スシバトル部にスシバトル禁止なんて鬼畜の所業だろ!」


「そもそも寿司同好会って何だよ! 何するんだ? スシバトル部で良いだろ!」

 

 わずかに聞こえる応援が掻き消される勢いのマイナス印象。


「うう……知り合いの人はわかってくれたんだけどここまでなんて……」


 恐らく応援してくれている人は賀集さんが声を掛けてくれた人達なのだろう……まさかここまで印象が悪いとは俺も思ってもいなかった。


「賀集さんは良くやってくれたよ! 応援してくれている人がいるだけ心強い! それに……」


 鳥路さんは動じていない! じっと帯刀の方を見据えている!

 寿司屋というアウェイでスシバトルしてきて何度も勝ってるんだ。

 このぐらいが何だ!


「俺達も堂々としよう! 賀集さん!」


「……うん! そうだね!」


 鳥路さんの負担になるのはごめんだ!

 鳥路さんが自信を持って寿司を握るためには仲間の俺達が堂々としている必要がある! 俺と賀集さんは背筋を伸ばし、帯刀と笹垣を睨む!


「激戦を予感させる今回のスシバトル! 五本勝負の三本先取した方が勝者です! そして、その勝敗を決める審査員! 栄寿司の一人娘! 根木登緒子さん! よろしくお願いします!」


 根木さんが放送部からマイクを受け取る。やはりこの人か。


「二年の根木だ。本日のスシバトルは公平性を保つため偏った思想の奴は除外した。軽く審査の説明をすると一般審査員25名と特別審査員5名の二体制で行う。一般が2pt、特別が10pt、合計100ptで比率が高い方の勝ち。それを最大五回行う感じだな。で、今回は一般審査員を題目ごとにホワイトリストに記載された生徒からランダムに選ぶ予定だ。観戦する人はその辺も楽しんでくれ」


 大盛り上がりのギャラリー! 正直俺も食べてみたいけど……陣営的にホワイトリスト入りは無理だから諦めるしかない。


「審査員の紹介に移るが……特別審査員の代表はこの私、根木が務める。一応実家の寿司屋で修行中の身だ。二人には美味い寿司を握ってくれる事だけを期待しているよ」


 根木さんが軽い紹介を済ませると隣に立つ女子生徒にマイクを手渡す……生徒会長!?


「生徒会長の加納かのうです。任期中にこのようなイベントに参加できて大変光栄です。本日は寿司の素人ではありますが、公平な審査できるよう努力したいと思います」


 体育館に拍手が鳴り響く。凄い人気だ……

 生徒会長が隣の女子生徒にマイクを手渡す。


「図書委員一年の大倉おおくらです……よろしくです」


 小柄で大人しそうな眼鏡女子といった感じの後輩か。生徒会長繋がりかな?

 次は男子生徒か


「漫研の東海林しょうじだ! 創作上のスシバトルに詳しいので参加させてもらったぞ!」


 文化系の部活にしては暑苦しい感じの人だな。

 適切な人材のようなそうでないような……で、最後の一人も男子生徒。

 真面目そうな眼鏡の人だけど……。


「ロボ研の石動いするぎです。この日のために寿司を勉強してきました。寿司は……テクノロジーです。よろしくお願いします」


 て、テクノロジー? 確かに公平な判断はしてくれそうだけど、根拠が怪しいそうな人が来たな……

 俺の不安を他所に五人の審査員に向けて会場から改めて大きな拍手が送られる。ロボ研以外は俺も大丈夫だと思うけど……根木さんを信じよう。

 拍手が収まると同時に放送部がロボ研からマイクを奪い取る。


「はい! ありがとうございました! ではでは帯刀さん、鳥路さん、ステージの上にどうぞ! 先攻後攻を決めたいと思います!」


 先攻後攻を決めるんだな……今までその辺適当だった気がする。

 鳥路さんと帯刀がステージに上がり互いに顔を見合わせる。


「さぁお二人、どちらが良いか希望はありますか?」


 放送部が二人に希望を尋ねる。どちらが良いんだろう……鳥路さんに考えがあれば、それで良いか。


「後攻が良い」


 鳥路さんが先に後攻を希望する。

 

「なら、私も後攻だ」


 帯刀も後攻か! 後攻には何かしら強みがありそうだ。


「両者後攻! ここはじゃんけんで決めましょう! ジャーン! ケーン……」


 唐突なジャンケンにも二人は慌てず、それぞれ右手を構える。


「ポン!」


 鳥路さんはパー。帯刀は……チョキ!


「勝ったのは帯刀さん! 帯刀さん、後攻で良いですか!?」


「もちろん後攻だ」


 盛り上がるギャラリー! 

 こちらの希望通りにはならなかったけど、仕方がない。そこまで勝敗に影響しないと良いのだけど……


 突然、鳥路さんが放送部からマイクを掠めとる! 放送部も一瞬で消えたマイクに反応が遅れる!

 

「帯刀冴、その後攻に意味はあるのか?」

 

 鳥路さんが後攻の意味を問う。鳥路さんには後攻に意味があったと言うことか?

 鳥路さんが帯刀にマイクを投げ渡す。


「意味は無いさ。君が後攻が良いと言ったからというだけだ。つまり、こちらで後攻を取った方が勝負で有利になるということだろう? 手の内を先に晒した君の落ち度だよ」 


 向こうはあくまで勝つための後攻奪取だったのか……! 

 勝利への貪欲さはやはり帯刀の方が上なのか!? 

 

 帯刀の戦略的な発言でギャラリーが湧く!

 そして再びマイクが鳥路さんに投げ渡された!

 

 鳥路さんは一呼吸おき、マイクを口に近づける。


「……お前の負けだ! 帯刀冴!」


 鳥路さんからまさかの帯刀の敗北予告! なんで!?


「な、なんで勝利宣言!? 今の瞬間に何があったんだ!?」


「自分で後攻が良いと言ったのに!? タクティクスなの!?」


「寿司握る前にもうバトルしてるのかよ! スシバトルすげぇ!」


 ギャラリーは鳥路さんの強気の発言に困惑しながらも盛り上がっていく!


 鳥路さんは放送部にマイクを手渡すと何事もなかったかのようにステージを降りてくる。帯刀はその様子を少し眺めていたがすぐにステージから降り始めた。


「で、では、早速スシバトルを始めて行きましょう! 最初のお題はこちら!」


 放送部の声に合わせてステージ上のモニターにデカデカとタコの文字が映る。


「タコだぁ!」


 さらにヒートアップするギャラリー! ずっとこのノリで行くのか?


 ようやくスシバトルが始まる!

  

 鳥路さんと帯刀。どちらの寿司が正しいか決着をつける時だ!

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◇◇◇

こちらの作品はカクヨムからの転載版です。

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